俺の○ンタマが消えた

惟風

俺の○ンタマが消えた

 俺のキンタマが消えた。どこに行ったというのだ。

 とにかく冷静になれ。何があったのか、思い出してみよう。

 いや、思い出すも何も、さっき起きた時には無かった。無かったんだ。

 俺の起床時の日課は、まず自分のムスコの位置を調整することから始まる。

 それがどうだ。

 日曜日の幸せに浸りながら二度寝を堪能し、気持ちの良い眠りから醒めて、さあいい加減そろそろ起きようHEYグッモーニンマイサン調子はどうだい!と右手を股関にやると。

 いつもの安心感のある膨らみが無い。無いのだ。

 は?

 びっくりするくらいにカスカスの声が出た。意味がわからない。

 サオの方はあるのに。控えめながらも形の良いスティックはあるのに。その相棒ともいえる玉が。ボール達が。

 待て冷静になれ。

 昨晩はどうだ。無事であったかマイキッズは。

 確か寝る前にトイレに行った時には何も違和感は無かったはずだ。無かった。だから有ったのだ。無かったから有った。違和感が。いや違和感が無かったから有ったということであってこの場合の有る無しはって脱線しているぞとにかく昨日の夜は完璧な陰部だった。

 では寝ている間に何かが俺の身に起きたのだろう。


 思考がまとまらないままであっても身体は正直なもので、尿意に我慢できずにトイレで用を足した。

 幾分か可動域の広くなった棒をつまんで小水の軌道を制御しながら、ため息が出た。

 肉体的にはスッキリして手を洗い、清潔になった両手で顔を覆う。

 ああ、どこに行ってしまったんだキンタマよ。

 生まれて二十三年、ついぞ恋人を喜ばせることのできなかった俺の分身……の半身。

 お前達が戻ってきてくれなければ、もうこの先俺はどれだけ身を焦がすような恋をしたところで、愛する人と快感を分かち合うことはできないじゃないか。

 それとも何か。家出か。奥ゆかしいとは物は言いよう、ただ単に素敵な人に出会っても自分から声をかけることもできないヘタレな俺に、とうとう愛想を尽かしたというのか。

 もしもそうなのだとしたら別れの挨拶くらいしてもバチは当たらないだろうよこの薄情者が減るもんじゃあるまいし。いや実際減っているのだが。身体の一部が。

 ああでもそれならば探しに行かなければ。行くアテなどないだろうにどこへ行ったというのだ。

 今頃腹を空かせて泣いているかもしれない。一時の感情で飛び出してきてしまったことを後悔して、玉々同士で慰めあっているかもしれない。

 いや、そもそもキンタマは二つあるがあいつらはそれぞれ別個体だと認識して良いのか。ならば案外二人仲良くやってて愉快に過ごしているかもしれない。

 そう思うと一転、嫉妬心が芽生えてきた。本体の俺自身は恋人いない歴イコール年齢という寂しい状況であるのに、その一部でしかないくせに随分と良いご身分じゃないか。

 なんだいなんだい、そっちがその気ならこっちだってただじゃ許してやる気はないね。

 向こうから菓子折の一つでも持って三つ指ついてどうぞ許してください元の身体に戻らせてくださいってワビを入れてくるまではウチの敷居はまたがせないね絶対に。

 絶対にだからな。わかったか。お前もわかったな残されし我が伝説のソードよ。

 俺が寝てる間に許可なくあいつらを引き入れてみろ、そん時は姦夫かんぷ姦婦かんぷを重ねて四つ、いやお前も入れて六つにしてやるからな。

 そりゃあいつらは俺の分身みたいなもんさ、でも俺抜きでねんごろになったってんなら、そんなもんは不倫と同じようなもんじゃないか。この俺というものがありながら、てやつだよ。

 いや待てよ何でお前がねるんだよこれからは俺とお前、二人三脚でやっていこうじゃないか。あんな奴らのことは忘れて、俺の三本目の足として頑張ってくれよ。やっぱりお前だけだよ俺が信用できるのは。

 はは、何照れてんだよコイツぅ可愛いとこあんじゃねえかぁ。


 残された者同士ということで自分の陰茎とたわむれているといつしか寝てしまい、気がつくと朝になっていた。


 ていうか日曜日の朝で普通に夢だった。

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俺の○ンタマが消えた 惟風 @ifuw

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