第21話
「おはよう。
翌日、学校に行くと
それはそうだ。俺が勝手に切なさを感じただけで
「おはよう」
「……おはよ」
ぶっきらぼうだけど
たったこれだけのことだけど、昨日のことは夢ではないと確信できた。
「はぁ、今日は部活行かなきゃな~」
「やっぱり気まずい?」
「うーん。それもあるんだけど、天使ちゃんが入部しないとわかった途端、男子部のやる気が下がったっていうか、キラキラがなくなったのね」
「でも、男子は男子。女子は女子じゃない? ちっちゃくてもバスケを頑張る
「んん~~~~!!」
最高の彼氏ではなく、
まあ、死んだあとの
「あ、そうだ。今日の放課後はクラス委員の集まりがあるから忘れないでね」
「そうだった! 五月のオリエンテーションの件だよね」
「
「うん。気を付けるよ」
クラス委員としてちゃんと仕事をすればいろいろと話すきっかけが増えて、リア充とまではいかなくても並の高校生活にはなるかもしれない。
あんまり
「天使ちゃん、何か困ったことがあったらウチに相談してね。なんならあのマイケルってやつを探し出してこいつを暗殺してもらうから」
「うん。ありがと」
「え? 暗殺のくだりには触れないの?」
「ふふふふふ」
なぜか黒い笑みを浮かべる
まさか俺が見抜けてないだけでマイケルさんの正体は暗殺屋なの?
普段は暇そうにしてるけど、太鼓のバチでターゲットを……。そう考えるとそんな風に見えなくもない。あのバチさばきなら人を殺せそうだし。
もし暗殺屋なら
顔や体は綺麗なまま一瞬で殺す。マイケルさんならできると言われたら信じてしまいそうだ。
「なーんてね。マイケルさんって本当に何者なんだろう」
「よかった。実は暗殺屋なのかと思っちゃった」
「バカねー。漫画の読み過ぎじゃないの?」
それもそうか。暗殺屋なんて始めたらすぐに警察に捕まる。ちょっとナイーブになっていたみたいだ。
放課後、
「他のクラス委員とか生徒会の人と会うの、ちょっと緊張する」
「俺も。なんか真面目っぽい人が多そうじゃない?」
「
「うーん。真面目にも不真面目にもなれない半端者」
結局どちらにも振り切れなくてどのグループにも入れなかった。クラス委員になれば真面目グループには属せると思ってたけど、根が腐ってるからちょっと無理そう。
だからと言って不真面目な方かと言われれば、進学校だけあってそういう感じの生徒はいない。本当に俺ってなんなんだろうな。
「それが
「そう?」
「うん。どこにも属さないから私の秘密をバラさない。とっても安心できる」
「ぼっちを褒められてもあんまり嬉しくないんだけど」
「もうぼっちじゃないでしょ? 私がいて、
「
「その呼び方だと
「別に本人がいないんだし」
「ダーメ。普段から呼び方はしっかりしておかないと」
「ま……
「よろしい」
本人がいなくても女子を下の名前で呼ぶのは気恥ずかしい。
そんな俺を姿を見て
「それでさ、
「別におかしくないって!」
「みんなの前では無理でもさ、今みたいに二人の時くらい……彼氏と彼女なら普通でしょ?」
「うぅ……」
最高の彼氏じゃなくても彼女は名前で呼ぶと思う。だけど俺はあくまで練習台。そこまでしなくても……。
「
「っ!!!」
不意打ちの名前呼びに俺も
相手に呼ばれたら、俺も呼ばないと不公平っていうか、逃げ場がなくなるじゃないか。
「早く。生徒会室に近付いたら誰かいるかもよ」
今のところは近くに誰も居ない。でも、集合場所に近付けば近づくほど他の生徒に出くわす確率が上がる。
「え……
たった二文字の名前を口にするだけで体温が上がっていくのがわかる。
「これから二人きりの時は、そうやって呼んで。ね、
「わかったよ。
こうして俺達は彼氏彼女として少しだけ前に進んだ。いつか必ず別れの日がくると知っているのに。
「うーーーん。疲れたー」
背伸びをしながら
「うん。そうだね」
生徒会室ではあまりおもしろくない連絡事項が淡々と告げられていった。
だけど、
今はまだ周りに他の生徒がいるので
「
「実はあんまり……でも、資料を読み返せば大丈夫だよ」
「これから忙しくなりそうだね。バスケ部に入らずに済んで助かったー」
「本当に。部活と両立してる人、すごいよ」
自己紹介の時、何人かは部活に所属するつもりだと言っていた。今日の会議で考えが変わらなければ両立を目指すのだろう。
「みんな、すごいよね。ゴールがずっと先にあって見えないのにがむしゃらに頑張れて」
「そんなことは……俺なんて何も頑張ってないしさ」
自分で言ってて悲しくなる。それに俺は
俺だったら死ぬまで楽をしようとどんどん堕落していく。
「
「え?」
咄嗟に腕を伸ばして
「
必死に名前を呼ぶが返事がない。
周りの生徒達も何が起きたのかとザワついて混乱している。
「誰か保健室! 救急車を!」
俺が必死に叫んでも誰も手を差し伸べてくれない。
それもそうか。
これが逆なら
クソッ! 俺にもっと人望があれば。
ゆっくりと
「もしもし。すみません。救急車を。はい。はい」
きっと保健室ではどうにもならない。
もし軽症で救急車を呼ぶほどじゃなくても知ったことじゃない。俺が怒られれば済む話だ。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
救急隊の前に先生達が駆け寄ってきた。何の前触れもなく倒れたこと。救急車はもう呼んだことを説明した。
引率は担任の浅倉先生が行くとのことで俺は帰宅するように指示を受けた。
俺にできることは何もないので大人しく従う。
【どう? 大丈夫?】
たった一言のメッセージを打っては消し、打っては消しを繰り返しているうち、いつの間にか朝になっていた。
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