第18話
放課後、再び
「ねえ、昨日のお詫びってわけじゃないけど、天使ちゃんとウチの3人に遊びに行かない?」
「ええ!?」
まさか
「そんなに驚かなくてもいいでしょ!」
「いや、だって、
「別に嫌いじゃないわよ。天使ちゃんを守ってくれたし」
もじもじしながら話す姿は完全に小学生だ。
「部活はいいの? バスケ部って毎日練習してそうなイメージだけど」
「まだ仮入部だし今日はいいの。それに、ちょっと気まずいし」
仮入部の一年生が、それも男子部の先輩に怒るってそりゃあ気まずいよな。
「
「私は平気よ。クラス委員の仕事が本格的に始まったら放課後に遊びに行くのは難しくなるかもだし」
いつも初めてのことは緊張しがちな
「で、どうなの? 行くの? 行かないの?」
昼休みの時は多少しおらしかった
ちっちゃい体に謎の威圧感。これぞ
チラリと
ああ、一緒に来てほしいって顔だな。至らぬ点も多いけど一応は最高の彼氏として振舞わないといけないので返事はもちろん
「二人の邪魔にならないなら……」
ここで華麗な返事ができないのが俺だ。
俺は自分の立ち位置をちゃんとわきまえてるんだ。
「よかった。
「ああ、うん」
余所行きってわけでもないんだけど、全人類が惚れてしまいそうな天使の笑顔を見せつけられた。
本当は一緒に公園にも行ってるし、
さすが
「ちょっと
「え?」
「え。じゃないわよ。ウチがクラスのみんなを説得して『これはデートじゃなくて視察。政治家の人達がやるような視察だから』って納得してもらったのよ!」
「ちょっと待って! どういうこと!?」
「天使ちゃんと放課後に遊びに行くなんて全男子の夢。その相手があんたみたいなヘボい男だとしたらどう思う?」
「……殺意が沸く?」
「その通り」
正解したのに全然嬉しくない。
「それをクラス委員としてある程度は連携を取るために視察と称して遊びに行けるように説得したわけ。言うなればウチはブレーンね」
ドンッ! と薄い胸を自慢げに張る
「つまり、
「あら、察しがいいわね。そうよ。ウチへの感謝も忘れてはいけないわ!」
頼んだわけでもないのに勝手に根回しされて、それを感謝しろとはずいぶんと傲慢な話だ。
だけどまあ、こんな奇跡みたいな状況になったのは
「それと、
「あ、ごめん。
仮とは言え彼女である
「なんか
「まあまあ。それより早く行こう?」
「そうね天使ちゃん」
相変わらず変わり身が早い。二重人格なんじゃないと疑うレベルだ。
「ほら、ボーっとしてないでさっさと付いてくる」
「は、はい」
思わず敬語になってしまう。体は小さいくせに妙に威厳があるんだよな。
「それと、ちゃんとウチらと並んで歩きなさいよ」
「私達、三人で遊びに行くんだもんね?」
仕方なくといった雰囲気を醸し出す
左に立てば隣には不機嫌な
普通に考えれば右に行きたいところではあるんだけど
「廊下であんまり広がると邪魔になると思うんだけど」
「それは臨機応変に
「天使ちゃんの隣に行くと思ってた」
「どうして?」
「あんただってウチのこと嫌いでしょ?」
「そんなことはないよ」
「ふーん」
邪険に扱われてるけど、
「こうして三人で並ぶと親子みたいだよね」
「ちょっと天使ちゃん。どういう意味かな?」
さすがの
「だって万里花ちゃんちっちゃくて可愛いんだもん」
「か、かわっ!」
理由になってないし言い訳にもなってない。だけど
それにしても親子か。仮に今この瞬間に子供を生んだとしても高3で死んだら小学生の娘と一緒には歩けない。
絶対にあり得ない未来だと決めているから、この三人の並びを親子のように感じたのかもしれない。
「天使ちゃんの子供になれたら嬉しいけど、父親が
「うぅ……ひどい」
学校の天使と、その天使となぜか一緒にいる底辺ぼっち。この組み合わせから生まれる子供の人生はとてもじゃないけど想像できない。
水と油が混ざらないように、本来なら俺と
「ああ、でも。たまにすごく綺麗な奥さんとハゲ散らかした旦那の組み合わせっているわよね。何か弱みでも握られてるのかしら。は……っ! まさか
「ないない! 弱みなんて握ってない!」
ものすごい疑いの目で見られたので首を全力で横に振って否定した。
いや、秘密を知ってはいるから完全否定も嘘にはなるんだけど……。
「大丈夫だよ
「うん! 全力で助けるね!」
「ちょっと
「いやらしい目なんてしてないから!」
右にいる
これだけ表情がコロコロ変わると周りの人達も楽しいんだろうな。
いろんなわがままが通るのもある種の才能なんだと実感する。
「ところで、どこに遊びに行くの?」
「本当は天使ちゃんと洋服を見に行きたいんだけど、今日は
ギロリと俺を睨みつける。誘ったのは
「ゲームセンターに行こうと思う。
「まあ、人並みには」
勉強も運動もできない。おまけに運もない俺はガチャの引きも悪い。
基本プレイ無料のソーシャルゲームもやるにはやるけど、ソフトを買えばちゃんと遊べる家庭用ゲーム専門だ。
だからゲームセンターにはほとんど足を踏み入れたことがない。とは言えゲームはゲーム。どうにかなるだろう。
「せっかくあんたのホームに連れていってあげるんだから感謝しなさい」
「別にホームって訳では……」
外見だけでゲーム好きと判断したのは間違えじゃないけど、どこかちょっとズレてる。
陽の者が陰の者の生態なんて知るはずないもんな。
「私、ゲームセンターってちゃんと行くのは初めてかも。プリクラを撮るくらいかな」
「実はウチも……というわけで、あとは任せたわよ」
「ええ……」
そんなに期待されても困る。俺だってゲーセン初心者だぞ。
「実は私やってみたいゲームがあるんだけど、それで遊んでもいいかな?」
「もちろん! どんなやつ?」
「太鼓のやつなんだけど。ゲームセンターの前を通った時に私の好きな曲が流れてたんだ」
「ああアレね。たまにすごい人がいるわよね」
太鼓の鉄人。見た目通りリズムに合わせて太鼓を叩くゲームだ。家庭用にも移植されている人気シリーズで、極めた人の動きはもはや人間技を超えている。
「あのゲームならどこのゲーセンにもあると思うよ」
「本当! 楽しみ」
初めてのゲームなんて練習なしで大丈夫かと心配になるけど、失敗しても学校の成績に影響するわけじゃない。
それに失敗しても、
努力や練習とは無縁のところで純粋に楽しめる場所ができるなら、それは俺にとっても嬉しいことだ。
「そうと決まれば急ぎましょう。高校生だけだと制限時間あるらしいから」
「
「今日だって学校に来たんだから走れるでしょ」
あくまで俺は昨日ちょっと運動しただけで筋肉痛になっていない設定なんだ。
「もちろん。大丈夫だよ」
鉛のように重くなった太ももを一生懸命動かして走る。
俺が満身創痍なのを差し引いても
「ひぃ~~~辛い」
やっぱり俺みたいなやつが放課後に女子と遊びに行くなんて分不相応なんだと実感した。
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