第17話
「ん」
夕陽が眩しい。体育館の床とは思えないような温かさと柔らかさの中で目が覚めた。
「よかった」
まだ視界がぼやけているけど、この声は間違いなく
「
最後に見た光景をはっきりと覚えている。
「あんなボールくらい私なら受け止められるのに」
「それはどうだろう。あんなに勢いよく飛んでくるバスケボールを取るなんて初めてでしょ?」
「顔面で受け止める人には言われたくないかな」
チャラ男に衝突された胸は痛むし、喋ると顎が痛い。俺にはバスケなんて向いてなかったと改めて痛感する。
「……仮入部はね、なしになった」
「そりゃそうでしょ。こんなお荷物居ても邪魔なだけ」
「うん……先輩達は強がってそんな風に言ってたけど、さすがにこれは気まずかったみたい」
仮入部に来た一年生を気絶させるなんて、事が大きくなれば活動停止にもなりかねない。これ以上は俺に関わらないと決めたんだろう。
「実は
「結果的には良かったんじゃない? 部活をやらずに済んで」
「
申し訳なさそうに
「
「そんなことない!」
思わず大声を出してしまった。その反動で鈍い痛みが体中に広がる。
「いてて」
「大丈夫?」
「俺のことは平気。
これは否定できない事実だ。自分が夢見ていた高校生活とはだいぶ違うんだから。
「だけど、俺は楽しいよ。
「……」
「俺は
シチュエーションがそうさせるのか熱血キャラでもないのに熱く語ってしまった。もし保健室の先生に聞かれてたら恥ずかしい。
「あっ! ごめん。保健室の先生は……」
「いないよ。今は私と
「よかった。ごめんね。
「ふふ。気にするのはそこなんだ」
「え? そりゃそうでしょ。死にたがってる生徒がいたら先生ザワつくよ」
一体他に何を気にしろって言うんだ。
「
「はい」
「人の少ない放課後。二人きりの保健室。夕焼けに染まるベッド」
バスケ部で辛い思いをしたり、
「
「それ、褒め言葉だと思っていいの?」
「うーん……半々かな」
「それはつまり……」
期待してるってこと?
この一言が出なかった。何か行動を起こすこともできなかった。
「今日はケガもしてるしね。そうそう、明日にも念のため病院で検査してもらえって
さ」
「わかった。ありがとう」
「こっちこそありがとう。助けてくれて。私だけは
そう言って
一人残された俺はしばらくボーっと天井を見つめる。夕陽がじりじりと顔を暖める。
この熱さはきっと夕陽のせいなんだ。
病院で調べてもらったけど特に何もなかった。
母親からはあまり無茶はしないように怒られた。
まさか天使のような美少女の彼氏役をしていて紆余曲折あってバスケをしたなんて言えず、クラス委員の仕事に専念するとだけ伝えた。
このままサボリたかったけど、異常なしだったのでそれは許されず渋々昼から登校した。
「おはよう。
隣の席の
「おはよう」
教室に人が多い時はあまり
「学校に来たってことは、なんともなかった?」
「うん。おかげさまで」
そんな俺達のやり取りをジーっと睨みつけるのは
何か言いたげな顔にも見えるけど俺からは話し掛けない。恐いし。
「あ、あの……!」
みんなが席に戻る中、
50分の授業が終わり昼休み。今日は弁当を持ってきてないので購買にでも行こうと席を立ったその時、
「
「ああ、なに?」
きっと昨日の件についてだろうけど
男子部の先輩にいろいろされたけど、あれだって俺が強ければ対処できた話だし、ボールを顔面で受け止めたのは俺がドン臭いからだ。
「あの、仮入部は……なんかごめん」
「別に
「違くて!」
大声を出すものだからクラスの視線が俺と
「ウチが無理矢理、天使ちゃんと
「正直バスケ部の仮入部は気が乗らなかったけど、それはとこれとは別でしょ」
「ううん。ウチが天使ちゃんといつも一緒にいる
目に涙を浮かべながら言葉を続ける
「だけど、それで天使ちゃんが危ない目に遭うところで。それを
「俺も何ともなかったし気にしなくていいよ」
「ウチ、
「あんまり褒められてる気がしないな」
「だから、天使ちゃんとクラス委員の仕事頑張りなさい。もし天使ちゃんを泣かせたら許さないから」
「ああ、うん。頑張るよ」
「話はそれだけ。さ、天使ちゃん。一緒にお昼食べよう」
くりると
教室内ではひそひそと声が聞こえる。きっと俺に関することだ。
俺にはその声を黙らせる力はない。そっと教室を出て購買に向かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。