第12話
「
待ち合わせ場所に行くとすでに
昨日とは打って変わって今日は白いワンピースにピンクのカーディガンを羽織るお嬢様スタイルだ。
胸元のガードは固いのにその膨らみは隠しきれてなくて、Tシャツから谷間が覗けるのとはまた違ったエロさを醸し出している。
「9時59分。ギリギリを狙えるなんて逆にすごいと思う」
約束通り遅刻はしなかった。だけど待ち合わせ時刻の1分前。
「朝起きたら思ってた以上に筋肉痛が悪化しててさ。歩くのも辛いんだ」
「ほぼシュート練習で腕しか使ってないのに?」
「意外と全身を使ってたんだよ。腕の力だけに任せてない証拠だね」
たぶん原因は
「遅刻しなかっただけ最高の彼氏に近付いたと思ってあげる。ここに居るとまた変な男に絡まれるかもしれないから、行きましょ」
「本当は彼氏にリードしてほしいけど行先は私の家だし、付いてきて」
「は、はい」
「ここまで来て言うのもなんだけど本当にいいの?」
「なにが?」
「俺が
「いいに決まってるじゃない。私から誘ったんだから」
『当然でしょ?』と言わんばかりのクールな顔も美しい。昨日のメッセージでは緊張感や不安が伝わってきたけど、いざ実際に会うと自分だけが妙に緊張していることに気付く。
「今まで男子を家に招待したことは?」
「…………初めて」
数秒の沈黙のあとに回答をもらった。嘘や誤魔化しではなく、
初めてのことで失敗しないか不安な自分を無理に押し殺してるんだと感じ取れた。
「
「なに? まさか怖気づいて逃げる気じゃ」
「そうじゃなくて」
チャンスのような恐いような、そんな相反する二つの感情がごちゃまぜになっているのは確かだけど、もう一つ待ってほしい理由があった。
「筋肉痛で太ももが痛い。こんなに早く歩くの辛い」
柔らかい
この板挟み状態が続いたら頭がおかしくなりそうだ。
「それじゃあもう少しゆっくり歩くから」
「助かるよ」
どの道いつかは
俺も
「……
「へー、どの辺が?」
「それを言わせようとするあたりはやっぱりダメ。あーあ、また点数下がった」
ツーンとすねた表情も
イケメンキャラはこうやって女心を弄ぶとキャーキャー言われるのにな。
※ただしイケメンに限るはやっぱり正しかったんだ。勉強になった。
「だけどさ、なんで私のために彼氏の練習台になってくれてるの?」
「いや、それはまあ……その」
一目惚れしててたからちょうど都合が良くてとも言えず、気の利いた返しもできず黙ってしまう。
「こんなこと言ったら
「それは、うん。自分でもそう思う」
「なにそれ。変なの」
けらけらと笑う姿はいつもの
それを
「死ぬ前に
「俺は……
練習が終わって別れて、
こんなに仲良くなった人がいなくなるなんて寂しい。
下心を抜きにしてもそういう感情は芽生えていた。
「うーん、
天を仰いで
「やっぱりゴールが見えてるから世界がこんなに輝いて見えるんだと思う。
その瞳はどこか寂し気で、そしてそれは『もしも』の話で、フォローすべきかどうか答えが出せず黙ることしかできなかった。
高3で最高の死に方をすると決めているから自分を高めているし、だから俺みたいなやつを恋愛の練習台に選んだ。
もしも
「なんてお話ししてるうちに到着しました。ようこそ我が家へ」
そこにそびえ立つのは高級感溢れる一軒家だった。
豪華な雰囲気を漂わせつつも決して下品ではなく、住む人の心の綺麗さが建物にも反映されているようだ。
「ほら、ボーっとしてないで上がって上がって」
「本当はいろいろ案内したいけど、何か痕跡が残ると面倒だから私の部屋に直行するね」
「う、うん」
ついに
心の中でつぶやいて精神を落ち着かせる。
「ようこそ。私の部屋へ」
扉の先には夢の国が広がっていた。というのは俺の妄想が生み出した幻覚だった。
高級な外観とは対照的にシンプルな机とクローゼットが置かれていて、ベッドもありきたりなものだ。
いくつかぬいぐるみが置いてあるものの、イメージしていた女子の部屋に比べると全然少ない。
それにカーテンも薄い黄緑で落ち着いた印象だしファンシーさは感じられない。
「あんまりジロジロ見ないでよ」
「ご、ごめん!」
「あんまり女の子っぽくないと思ったでしょ?」
「そんなことは……ある」
「どうしても勉強とかに時間が掛かるからし、死んだあとに片付けるには自分以外の
人だから」
最高の死に方をしたあとのことも考えてのシンプルなレイアウトか。
それにしても少し引っ掛かったのが片付けるのが『両親』ではなく『自分以外の人』と言ったところだ。
「お金さえ払えばプロの人がすごく綺麗に片付けてくれるからね。私の成績は残るだろうけど、思い出はきっと残らない」
その寂し気な表情に
だけど、だからと言って俺から言えることは何もない。他人が口を出すべきじゃない。
俺は彼女だけを見て、練習台になればいいんだから。
「ほんと、軽々しく何か言わないあたりは最高だと思うよ」
「気が利かないだけだよ」
「私は気が利くと思うけど?」
どうやらここは何も言わないが正解の選択肢だったらしい。
現実はセーブ&リロードができないから正解を選べた時の喜びはひとしおだ。
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