第4話

「天使ちゃんと金雀枝えにしだくんってどういう関係なの?」


 俺のことは話題に上がるけどそれは全て円寺えんじさんに向けられていた。

 当の天使と一緒にクラス委員になった俺は自分の席でだんまりを決め込んでいる。

 誰も俺に声を掛けようとしない。むしろ、このクラス委員事件を口実にみんなが円寺えんじさんに話し掛けていた。


「本当に金雀枝えにしだくんとは今日初めてだよ。せっかく隣の席になったし、

一緒に何かできたらいいなって思っただけ」


 うん。確かに一緒に何かするね。高3の時に最高の彼氏に看取ってもらうために恋愛の練習台になってますね! まだちゃんとOKの返事はしてないけど。


「……俺だって隣なのに」


 目に涙を浮かべて一人つぶやいたのは確か木村というやつだ。

 円寺えんじさんから見て右側に俺が居て、席が廊下側や窓側じゃないから当然左にも誰かいる。木村は俺と似たような雰囲気をまとっているけどどこで差が付いたのか。


「たまたまだよ。この教室で最初に話したのが金雀枝えにしだくんだったから」


 正確には『たまたま声を掛けた相手が恋人の練習相手にちょうど良かったから』だろ! と心の中でツッコミを入れる。


「やっぱり天使ちゃんって優しいね。ぼっちの人がクラスに溶け込めるように一緒にクラス委員をするなんて」


 そんな女子の声が耳に入ってきた。髪の色は暗いけど染めたような感じで正直それだけでビビっている。髪もくるんとしてるし、誰かどう見ても俺と相容れない陽の者だ。


「ぼっちの人なんて可哀想だよ。同じ中学の人がいないって言ってたから」


「それにしたってさー」


 どうもこの女子は俺と円寺えんじさんがクラス委員をやることに不満や疑問を抱えているようだ。それなら俺と交代してくれ。その薄い胸なら男子と言い張ってもバレないだろ。


「ちょっと。ウチに何か用?」


 思考が態度に現れて睨みつけてしまっていたのか向こうから話し掛けられてしまった。


「いや……なんでも……」


「クラス委員って文化祭とか体育祭とか盛り上げるんでしょ? 本当にコイツで大丈夫?」


 その点に関しては俺も同意です。


小山内おさないさん、やってみるまでわからないよ?」


 すかさず円寺えんじさんがフォローを入れる。さっき二人きりになった時とは違って今ならただの天使に思える。


「私のことは万里花まりかって呼んで。この苗字あんまり好きじゃないから」


 苗字が好きじゃないと語る小山内さんの表情はちょっと曇っていた。この見た目で『おさない』だもんな。そりゃ嫌にもなるよ。


「ねえ金雀枝えにしだ。なんか失礼なこと考えてない?」


「い、いえ。なにも」


 ギャルという程でもないがクラス内カーストの上位に居そうなその雰囲気に気圧されてしまう。体は全然俺より小さいのにすおぎ迫力だ。やっぱり女子は恐い。


「まあまあ万里花まりかちゃん。まだ初日だし金雀枝えにしだくんがどんな人かよくわからないでしょ? せっかく高校生になったんだから中学までと違うことをしないと」


「んー。天使ちゃんに言われるとそんな気もしてくる」


 俺が何を言っても聞き入れてもらえそうにない小山内さんが円寺えんじさんの一言で全て納得したみたいだ。天使ちゃんと呼ばれているのは伊達じゃないってことか。


「……もし金雀枝えにしだに変なことされたら言って。斜め後ろからウチが復讐してあげるから」


 ガルルルルとまるで獲物を狙うオオカミのような表情で俺を睨みつける。小熊やイノシシは人間より体が小さいのに簡単に人間を殺せる。

 体の大きさなんて関係ない。殺意のオーラを剥き出しにされれば俺みたいな弱い人間は怯えることしかできないのだ。


「こらこら。そんな顔しないの。せっかく可愛いのが台無しだよ?」


 そう言って円寺えんじさんは小山内さんの頭を撫でる。その姿はまるで姉妹のようで尊い。


「えへへー。天使ちゃんに撫でられちゃった~」


 子供扱いされると怒るタイプのかと思いきや、あるいは相手が円寺えんじさんだからなのか、完全に表情がゆるみきっている。


 オオカミから一転、まるで子犬のような愛くるしさすら感じる。


「俺、このクラスになって良かった」


「守りたいこの笑顔」


「抜け駆けはなしだぞ」


 そんな男子達の声が聞こえた。すでに円寺えんじさんと一緒にクラス委員をする俺は抜け駆けじゃないよな?

 これから先のことを考えると脂汗が止まらなかった。

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