第189話僕は…母さんを…見捨てました…

  「どうしてだ…」自分から与えていた苦しみに唇をこじ開けられては苦しそうにと息を吸いこもうとしているけれど、自分の臀部に体を押さえられているせいで上手く空気を吸えないでいる母親の見る見るうちに血色を無くしていく頬を、霞んでいる視界の中で見つめている父親は悔しそうにと歯ぎしりして行きつつ、ゆっくりと焼けているように感じている頬を彼女に近づいていき、「どうしてお前は…ちゃんと俺の事を見てくれねぇんだ…?」


  困惑気味になっては切なげに眉間に皺寄せていく彼は首を傾げて行きながら、辛そうに顎を起伏させている母親の汗ばんでいる頬を睨んでいく、「どうしてこの訳の分からない埜哉様にお金を捧げていくんだ…?」可笑しそうと言葉を紡いでは、自分の両手と体を濡らして来ていた液体はシャワーを浴びている時の水道水とは違っていて、少しばかりしつこく感じては、自分の皮膚を弱い力で引っ張っているような気がしている父親は充血している瞳を、真っ赤になっていたカラスのマスクに向けていき、「これで分かったろ…?」自分の力に破られていたカラスのマスクをしていたポスターを睨んでは、自分は勝ったような実感を得ている父親はつい自分にはとんでもない罪を冒していたような喪失感に打ちひしがれてしまいそうななっていく、「これで分かるはずだよな…?」顎が痙攣し始めているように震えている彼はゆっくりと顎を上げて行きつつ、瞳が灰色の霧に奪われてしまいそうな母親の顔を睨んでいく彼は言う、「俺の方がこのくそったれよりずっと強かで…強いって事をさ…?」


  強張っているような右側の口角を上げて行きながら、辛そうに生きたいとでも思っているように、軽く歯を噛んでは顎を引いてしまう母親の死神と戦っているように急いで顎を上げては、鉄さびの匂いが混じっているひんやりとした空気を吸い込んでいる様を見つめていく父親、「ちゃんと俺を見ろ…?」軽く左手を包丁から離れては、強く自分の激しく鼓動を刻んでいる胸元に当てていく彼は歯ぎしりしながら、母親の白眼を向いてしまいそうな形相を睨んでいき、「ちゃんと俺と生活していこう…?」母親のまるで自分が見舞ってやったビールの瓶に叩かれていた壁に興味を湧いているようにと壁に目を向けていこうとしている様に苛立ちを覚えては、悔しそうにと強く歯を噛んでしまう父親はつい自分に殺されてしまっても可笑しくない傷を負わせているのに、まだ自分の強さを分からないでいる母親に憤怒を覚えては、内心で募っていく悔しい気持ちに右手を操られているような気がしている彼は猛然と疼く右手を包丁から離れ、猛然と手を伸ばしては強く彼女の頬を握っていく、「なあぁ?」


  まるで自分の顔面を握り潰そうとしているような父親の右手に入って来ている力をぼんやりと感じて行きつつ、自分の胸元に突き刺してはまるで埜哉様と共に自分たちの事を床に沈ませようとしているような包丁から感じて来る重たい感覚に苦しめられては、体がゆっくりと冷えては硬直しているように思えている母親はぼんやりと自分に憎しみに満ちている眼で睨んで来ている父親の顔を見つめていく、「あ…なた…」


  必死に死と抗いながら喉から嗄れていた声を上げて来ている母親がちゃんと自分の事を呼んでくれている様に口角をくすぐられているように思えては、彼女はようやく自分の方がポスターなんかよりずっと強いであることを認識できていることに嬉しそうに笑って行きながら、まったりと右手を彼女の頬から離れていく彼は何度も頷いていく、「ええ…ちゃんと聞いているぞ…?」顎を引いては歪んでいるような表情を浮かんでいる父親は母親がようやく自分を受け入れてくれているように、自分に向けて来ている見る見るうちに衰弱していく頬を見つめては、横目で彼女の顔を見下ろして行きながら、軽く左手の人差し指を立てていき、「ちゃんと俺と仲良く暮らしてくれるってのなら…?」右手を彼女の背中からまったりと周りに向けて流れていく生き血に飾られている床に付けていく父親は、彼女と遊んでいるように軽く左手の人差し指を彼女の頬に当てていき、「救急車を呼んでやらんこともないぜ…?」母親のまるで上手く瞼を開けることが出来なくなっているような態度に眉間に皺寄せては、彼女はもしかたら死にたがっているんじゃないかとぼんやりとしている頭で考えていく父親、「な?」チラッと視線を自分が思っていた以上にずっと多くの血を出している彼女の胸元に向けていく彼、ごくりと固唾を飲み込んでしまう彼はつい自分に握り締められては、彼女の胸元に突き刺していた包丁の形がよくわからなくなっているように感じている父親、「分かってんだろう…?」


  自分はとんでもないことをしでかしていたんだとぼんやりとしている頭で考えていく父親は、何度も震え始めているような鼻翼に力を入れて行きつつ、母親の顔を見つめていき、「重症を負わされてたんだ、」母親の霞んでいるような瞳を見つめては、思わず彼女はこのまま永遠に自分から離れて行くんじゃないかと思ってしまう父親はごくりと固唾を飲み込んでは、切羽詰まったような表情を浮かんでは猛然と顔を彼女に近づいていき、「急いでお医者さんに出産する時みてぇな手術を用意してもらわないとお前は本当に死んじまうぜ?」歯を食いしばっては横目で彼女の顔を睨んでいく父親は彼女にちゃんとこれから自分と普通に暮らしてくれると、彼女の口から聞かないと自分がしてしまった事はまったく意味がないように思っている彼は言う、「分かる?」

 

  「ねぇ…」胸元から全身に広がっていく痛みに苦しめられ、耳元を刺激しに来ているような蝉の鳴き声をぼんやりと聞いている母親は、背中を付けていた床は自分の身体を攫って行こうとしている海と化しているように思えている彼女は、ぼんやりと霞んでいく視界の中で父親の真っ赤になっていた顔を見つめていく、「私は…」ぽつりと赤い液体の粒がこびりついていた渇いた唇を開けてしまう彼女は自分は多分もうダメにだと思いつつ、ちゃんと埜哉様が竜祥を頼って伝わって来ていた話を聞けなかった自分に下して来ていた罰が、あまりにも重たいものだとぼんやりと思っている彼女はぽつりと呟いていた、「埜哉様の事を裏切ったわ…」


  「ああ、そうだ。」母親が自分に向けて来ている満足する事が出来ない返答に向けて軽く頷いては、ビールの瓶の欠片に破られていた右足の赤い液体に濡らされていた床に付けて行きながら、取り敢えずはちゃんともう彼女の胸元にある包丁で固定されていた訳の分からないポスターと関わろうとしないと言ってくれていた彼女を、病院に送って治してもらわないとと強く考えている彼は言う、「それでいいんだ、うん、」母親の胸元にある夥しい血液に一瞥していくと、つい自分は些かやり過ぎてたんじゃないかと考えている彼は眉間に皺寄せて行きつつ、呆然と床で寝ているような彼女の事を見つめては、何度も鼻翼に力を入れていく彼は母親に謝ろうと思いつつ、彼女を慰めていこうと言葉を紡いでいく、「お前はいい子だ、救急車を呼んでやるぞ?」


  必死に瞼を開けようと考えている母親は、急いでいるようにと周りを見て行きつつ何とか携帯電話を探そうとしている父親の横顔を見上げては、耳元にある蝉の鳴き声に聴覚を奪われているように思えては、父親が自分に投げて来ていた言葉が全部掻き消されているように感じている彼女はぽつりと渇いた唇を開けては、何とか彼に自分の思いを伝えようと考えている、「埜哉様の言う言葉を…」胸元からゆっくりと広がっていく激痛に、生きるのが大変だとぼんやりと思ってしまう彼女はまるで自分が懸命に上げている声を聞けなくなっているように、背中を自分に向けている父親から視線を天井に向けていき、「聞けなくなっちゃったわ…」


  「それはそうだろうよ…!」母親の弱ってはまるで外にあるやけに五月蠅く聞こえてしまう雨の音に掻き消されてしまいそうな声に、心臓を鷲掴みにされているように感じては、ごくりと固唾を飲み込んでいく彼は何度も鼻翼に力を入れて行きつつ、胸元にある強張っているような赤い液体の感覚に苛立ちを覚えている彼は強く歯を噛んでは、喉から声を絞り出していく、「そこで寝ていろよ?」強く歯を噛んでしまう父親は猛然と砕けていた深い緑色の欠片に占拠されていたような机から母親に一瞥していき、「医者を呼んで来るかんな、」母親のまるで自分と見えている世界が違っているように天井を見上げている様に、内心にある不安が起爆されているような気がしてならないでいる父親は必死に両手を握りしめては、猛然と眼を寝室の方向に向けては叫んでいく、「おい!竜祥!」


  懸命に両手で唇を抑えては、何とか声を出さないようと強く思っていた竜祥、無言で涙を零していた彼、何とか父親に自分の存在を忘れて貰いたいと強く願っていた彼は、急に自分に投げ来る父親の憤っている声に肩をビクッと跳ねられていたように思えては、赤くなっている頬に飾られていた口角が一瞬にして恐怖に斜め下の方向に引っ張られているように感じている彼は強く鼻翼に力を入れて行きつつ、内心で何度も小夜の事を呼んで行きながら、泣き声を抑えようと考えている、「ううう…!」


  中々自分に返事をしてくれないでいる竜祥の存在に苛立ちを覚えては、母親は死んで仕舞うんじゃないかと思っている父親は思わず地団駄を踏んでみたくなっては強く紅潮している喉から声を絞り出していき、「てめえどこに行っちまったんだ!」眉間に皺寄せている彼は思わず握りしめている右手で机に置かれていた深い緑色の欠片に向かって殴ってみたくなっている彼は、喉を引き千切ろうとしているように声を発していき、「さっさと救急車を呼ばんか馬鹿野郎!」


  「うう…!」父親の竜祥の事を酷く叱っているような声色をぼんやりと聞いては、胸元にある傷が広がれているような気がしてならないでいる彼女は、痛みと冷や汗に濡らされている目尻の存在をぼんやりと感じて行きつつ、自分が昔、散々竜祥に酷い事をして来た故に彼がこっぴどく叱られているせいで、自分にも酷く痛みを残されているんだと思っている母親は懇願しているようにと父親に目を向けていく、「そんな大声を出さないで…?」


  「はぁ?」母親の自分の叫び声を抑えに来ているような話に眉間に皺寄せてしまう父親は、猛然と自分に上手く竜祥の事を見させてくれないでいる小汚い壁から倒れていた母親に目を向けていく、「だってお前…」まるで自分の視界を深紅に染め上げようとしているような母親の胸元にある傷に体が震わされているように感じては、向きになっていた脳内が彼女の体から感じて来る死への恐怖に、冷静に戻されているようにと思えている彼は母親の深い赤色になっていた胸元で佇んでいた包丁を見つめては、ぽつりと渇いた唇を開けていく、「こんな傷…」畏怖に震わされている頭をぼんやりと自分の痙攣しているような両手に向けていく彼、「俺は…」自分は酷く酔っぱらった時で、今まで募って来ていた悲憤に駆り立てられては、勢い任せてで母親の胸元に包丁を刺し込んでいたんだと教えて来ているような赤いペンキに濡らされていたような両手を見下ろしていく彼、「なんて…!事を…!」


  父親のまるで自分の事を見逃してくれているようにと懺悔しているような声を絞り出していた事に微かに安心感を覚えては、ごくりと固唾を飲み込んでいく竜祥はゆっくりと合掌して行きつつ軽く額を上げては蜘蛛の巣が残されていた天井を見上げて行きながら、自分が何度も小夜の事を脳内で思い浮かんでいたおかげで自分は僥倖にも一度だけ父親の手から逃れたんだと考えている彼は強く歯を噛んでは、喉から唸り声や泣き声を出さないで行こうと強く思っている。


  「あああ…」宛ら激痛に苦しめられては上手く唸り声を上げることが出来なくなっている自分の代わりに、声を上げているような父親の苦しそうにと両手を上げては頭を抱えている様に目を細めている母親は軽く口角を上げては、自分が聞こえている声は本当に彼の唸り声なのか、それとも自分の幻聴なのかと分からなくなっている彼女はぽつりと唇を開けていき、「こっちに…来て…?」


  「な、何なんだよぉ…」母親の胸元に立てていた包丁に一瞥していくと、自分はもしかしたら彼女の心臓を貫いていたんじゃないかと不安になっている父親は恐る恐ると震えている両足で彼女のもとまで歩いて行きながら、今まで散々訳の分からないポスターと話をしていた彼女は、もしかしたらずっとまともに金を稼げていない自分の文句をポスターにかけて来ていたんじゃないかと不安になっている彼は、震えている視界の中で母親の顔を見定めて行きつつ痙攣しているような両膝を床に付けていく、「呪うのか…?」両膝を濡らしに来ているような彼女の空気に温度を奪われていたような生き血を感じて行きつつ、戦慄している両手を彼女の左手に向けていく父親は、彼女はもう死んでしまうんだと思っては、彼女は自分に医者でも治せない傷を残されては、死んで行くんだと何度も自責しながら思っている彼は震えている両手で、彼女の異常なまでに温度を無くしている左手を包んでいく、「勢いでお前を殺しちまった俺を呪うのかぁ…?」


  霞んでいるように聞こえて来る父親の声色に向けて、軽く強張っているように思えている首を動かしては顔を彼に向けていく母親は朧気になっている視界の中でぼんやりと彼の存在を感じて行きつつぽつりと唇を開けていた、「私は…もう埜哉様に接触しないわ…」母親が紡いでくれていた、ずっと彼女が自分に言ってくれるのを待っていたはずの話が自分の耳に入って来るのが、あまりにも遅すぎていたんだと思っている父親、切羽詰まったような心境に苦しめられては、携帯電話を見つからないでいる自分はどうしたらいいのかがわからなくなっているように思えている、「あ、」例え自分がちゃんと救急車を呼んだところで、母親はきっと死んでしまうんだと強く思っている父親は恐る恐ると頷いていく、「ああ…」


  眉間に皺寄せて行きつつぼんやりと壁越しで伝わって来ている父親の痙攣しているような声色を耳にして行きつつ、彼はもしかしたら既に冷静を取り戻せていたんじゃないかと思い、ごくりと固唾を飲み込んでいく竜祥は頭が狂っている彼の代わりに、自分が何とか母親の事を助けないとと強く思っては、母親に死なせたくないと強く思っている彼は震えている両手を床に付けて行きながら、まるで自分の事を待ってくれているような電話を見定めては、震えているような右手を電話に向けていこうとする。


  ”ドクンー”忽然、酷く震えていた心臓がまるで自分に母親を救わせてくれてくれないでいるようにと強く跳ねて、自分の右手を止めてくれては、あんぐり口を開けられている竜祥はつい自分は救急車を呼んだら、父親はきっと家まで来ていた医者たちに通報されては警察に捕まられてしまうんだと思い、ぼんやりと霞んでいた視界の中でまるで止まっていたような自分の右手を見つめては、もし父親が警察に逮捕うされてしまっていて、どう見ても救急車を呼んだお金や母親の医療費を払えないでいる自分にはどうなってしまうのかとぼんやりと思いつつ、そもそももし自分が父親から見れば余計な事をして仕舞ったら、警察も救急車も来る前に、自分も母親のようになって仕舞うんじゃないかと思っている彼はごくりと固唾を飲み込んでは、さっきこそ酒に頭を狂わされている父親が自分に携帯電話を探せと口にしていたけれど、いざ彼が冷静になってしまうと、携帯電話を探して上げていた自分は彼の殺人を邪魔していて、彼を牢屋にぶち込もうとする奴であるように認識されてしまうと、自分は死ぬんだと強く思っている竜祥。


  「ああ…」宛ら小汚い壁越しで聞こえて来る父親の唸り声に伝染されていたように、虚しい声を発していく竜祥は恐る恐ると震えている右手を握っては、自分は死にたくないと願っている彼は例え自分がリスクを冒して母親を病院に送っていたとしても、ちゃんとお金を払えない自分たちに、治療してくれる程病院は優しくないんだと思っている彼は苦しそうにと強く歯を噛んでは、自分にとっては母親の事を見捨てるのが一番合理的に思えては、強く震えている右手を電話に向かっていく彼は何度も鼻翼に力を入れては、自分の右手に握り締められている受話器に絶望を覚えている彼は苦しそうに涙を流して行きながら、微かに電話から離れていた受話器から聞こえて来る無機質な音に熱くなっている心臓が冷やされているように感じては、自分は死にたくないと何度も思っている彼は恐る恐ると右手にある受話器を耳に近づいていき、「僕は…」受話器から聞こえて来る無機質な音に自分は誰とも繋がれていないんだぞと知らされているように思えては、自分は何をしているのだろうかと考えている竜祥は引き攣っているような右側の口角を上げていき、「母さんを…」赤くなっている鼻先から零れていく粘っている鼻水を気にすることなく、ごくりと固唾を飲み込んでしまう彼。


  ”ゴロンー!”刹那、まるで自分に上手く言葉を紡がせてくれないでいるような轟音を連れて来る地震にも思えてしまう地面の揺れに苛立ちを覚えつつ、自分の事を嘲笑っている雷に悲憤を覚えている彼は痙攣しているような顔を窓際に向けては、強張っている右側の口角を上げたまま可笑しそうにと泣いている彼は囁くようにと、弱り切っている声を受話器に聞かせていた、「見捨てました…」


  ”ファファファー”まるで自分の体を暗闇に連れていこうとしているような小うるさく聞こえていた雨音が、やけに穏やかな気持ちを与えてくれているような気がしている母親はぼんやりと自分の左手を包んでくれている父親の泣き出してしまいそうな顔を見つめて行きつつ、軽く口角を上げてしまう彼女はぽつりと渇いた唇を開けていき、「埜哉様に…あなたから離れておけって…」霞んでいく視界の中で、苦しそうにと口角を斜め下の方向に向けている父親がまるで自分が発していたちゃんと彼に伝われているかどうかが不安になっていた声を聞こえていないと、語って来ているように、自分に顔を近づいて来ている様に氷のように凍えている口角を微かに上げられているような気がしてしまう彼女は言う、「埜哉様に…」軽く上手く力を込めることが出来なくなっているような左手で父親の温かい両手の感触をぼんやりと感じていく母親は呆然としている頭でさっき自分が紡ごうとしていた言葉を繰り返していき、「あなたから離れてって言われてたんだ…」


  ”ドクンー”忽然、母親の口から漏れていたような一言に見開かされては、あんぐり口を開けられているような気がしてならないでいる父親は悔しそうと強く歯を噛んでは、結局のところ自分は彼女の中であのヘンテコなマスクを付けていた訳の分からないポスターに勝っていないのかと不安になりつつ、思わず彼女の弱っている左手を強く握っていく彼は眉間に皺寄せて行きながら、彼女の胸元で佇んでいた包丁を睨んでしまうと、衰弱していく彼女を殺してしまったような傷を残しては、自分の強さを証明していたはずなのに、どうして彼女は自分のことを信用するより変なポスターを頼っていくのかがわからなくなっている父親は胸元を満たして来ている悲しみと虚しさに打ちひしがれては、苦しそうにと自分の両手に握られていた彼女の左手を上げて行きつつ、自分の額に当てていく、「ううあああ…」


  「だけど…」悶絶して仕舞いそうなくらいに悔やんでいるような唸り声を上げている父親の声色を、微かに聞こえてるようになっていると感じてしまう母親は軽く硬直しては血色を無くしていく口角を上げて言う、「それは私の願い事とは…」自嘲気味に目を細めて行きつつ父親の自分に傷つけていた事に悔やんでいる様をぼんやりと見てしまうと、悪魔に取り付かれていた挙句、悪魔と化しては自分の命を奪おうとしていた彼がちゃんと正気に戻ってくれては、自分を殺そうとしていた事に悔やんでくれている様に微かに救われているような不思議な気分になれている彼女は、まるで無理矢理自分から彼の事を奪おうとしているような視線が徐々に上に向けていく様に苦しめられている、「真逆な物だったんだ…埜哉様は…きっと…」


  彼女の辛そうに自分に向けて話しかけて来ている態度に心を苛まれては、何度も小刻みに首を横に振ってしまう父親は自分の血塗れの両手に汚されている彼女の左手を額に付けては、自分たちはきっと結ばれてはならない関係なんだとぼんやりと考えてしまう彼、「ううぐっ…」散々家のために頑張って来ていたのに、どうしても幸せになれないでいる自分たちは呪われていたんじゃないかと思っている彼は、まるで自分に観念したようにと天井を見上げている母親の態度に口角を斜め下の方向に固定されては、自分には彼女に触れる資格はないんじゃないかとぼんやりと考えている彼はゆっくりと両手に握られている彼女の左手を下ろしていき、「もう…」彼女にこれ以上痛い目に遭わせても、彼女の胸元にある自分が包丁で固定していたヘンテコなポスターの存在を信じ切っては、自分の事を信頼してくれないんだうとぼんやりと考えてしまう父親は、彼女が辛そうに言葉を紡いでいきたがっている様に心を握り潰されているような気がしては、恐る恐ると震えている疼く右手を上げては自分の目頭を撫でていく涙を拭いてしまう彼はぽつりと声を上げていた、「いいよぉ…」


  父親の辛そうと涙を零している様に不安を覚えては、叱られていた無邪気な子供のように泣いてくれている彼の様を視界の左側で見てしまうと、ついもっと彼の顔をみたいと思っては、彼の事を慰めて行きたいと願ってしまう母親は、自分の彼に置かれていた左手の感覚を感じてしまうと、つい彼に見捨てられていたんじゃないかと怖く思えている、「埜哉様も…そんなにも万能じゃないはずだよ…だって私は…」父親のまるで自分の悲しんでいる気持ちに勘づいてくれていたようにとごくりと固唾を飲み込んでは、再び顔を自分に近づいてくれている様に感動を覚えている母親はやはり自分たちは、酒と言う悪魔に取り付かれていない時の彼とは、確実に繋がれているんだと安心している彼女はチラッと視線を天井に向けていき、「最初は…あなたと一緒に幸せに暮らしたいから…」


  ”ドクンー”母親のまるで外にある大雨に掻き消されてしまいそうなぐらいに弱り切っている声色で語ってくれていた、割れていたビールの瓶のような言葉の欠片を拾っては、ぼんやりと脳内で組み直していく父親は、つい彼女が呟いていた話に喉を詰まらされていたような気がしてしまい、「えっ…?」まるで自分の事を彼のもとから連れ去ろうとする雨音を破いてくれていたような、彼が発していた間の抜けた声色に氷と化しては存在を感じることが出来なくなっている口角は、確実に上げられているようにと感じている母親はぼんやりとだんだん黒くなっているような視界の中でぼんやりと自分の事を見下ろして来ている彼の顔を探していき、「ずっと…埜哉様にこう願って来てたもの…」辛そうと自分の視界をぼやけて来ている激痛と悲しみで出来上がっている温かい涙の粒を退かすように、目を瞑ってしまう母親は言う、「あなた…」


  「ああ…」母親が自分に向けて来ていた一言にあんぐり口を開けられては、彼女の無垢なまでに微笑んでくれている表情に、心に巨大などす黒い穴をつけられているような気がしてならないでいる父親、「あ…」驚愕に唇をこじ開けられては上手く閉ざす事が出来ずにいる父親は痙攣しているような視線をゆっくりと母親の微笑んでいる表情から、まるで自分の事を嘲笑っているような彼女の胸元で佇んでいた包丁に向けていく彼、「ああああ…!」宛ら発狂しているようにと否応なしに自分の体を抱えに来てくれているように、自分の疼く体をひんやりとした地面から助け起こしているような、熱気を放っている父親の温度に自分はようやく彼を呪いから救い出せていたんだなと内心でぼんやりと考えている母親は、上手く開けることが出来ずにいる瞼に力を込めては、宛ら自分に糸のような視線を与えてくれていたような重たい瞼に感謝したくなっている彼女は急いでいるようにと唇を開けていた、「愛してたわ…」

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