脱出ゲーム

博士の異常な愛情

僕は誰だろうか。

 小さな唸り声が六畳間の部屋に響く。ドアノブを捻り、押してみる。開かない。それじゃあ、押してダメなら引いてみろ、ということで捻った手のまま引いてみる。やはり開かない。

 どうやら僕はこの状況を察するに、記憶喪失らしい。本棚の上から落ちたであろうブリキの箱が少しだけ半球状に凹んでいる。目を覚ました直後、頭部周辺に箱が転がっていたため、何らかの力で箱が落下し、頭部に直撃。致命傷は避けたものの、殆どの記憶を失ってしまったようだ。それもある意味致命傷だが。

 部屋には時計がない。スマホを探してみる。今の時刻を知ることは必要不可欠だと思ったからだ。まず怪しいのはこたつだ。なぜかわからないが脳裏によぎったからだ。こたつをめくるとやはり布団から、ボロンとスマホが出てきた。開いてみる。現在はam6時34分。どうりで窓が暗いわけだ。パスワードは解らないため、一度、スマホの件は保留にする。一度部屋を見渡した。本棚には沢山の建築に関する本が、これでもかというくらいに詰められていた。多分僕は建築家か何かの仕事をしているのか、はたまた趣味か。多分前者のほうだろう。

 僕は思った。これは誰かの悪戯か、もしくは僕は多分建築家だ。だから何かしらの仕掛けがこの部屋にはあり、それを解かないと扉が開かないのかもしれない。とりあえず部屋をひっくり返してみる。


 何もなかった。それっぽい仕掛けとやらが。僕はうんと考えた、眉間の皺がいつもより1本多くなるくらいに。そしてひらめいた答えが、「あのドアノブのついた扉は押すのでも引くでも無い。スライドだ。」と。早速実践だ。

――開いた。……が、そこはのっぺりとしたコンクリート製の壁だった。僕は僕にまんまと騙されたわけだ。そんなことを考えていると、窓から声が聞こえてきた。

「先生先生!大丈夫ですか!?」

 窓が暗かったのは窓の奥の部屋が見えぬよう、暗幕がしてあったからだった。

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