第4話

時は、5月2日の夕方6時頃であった。


場所は、しほこと温史が暮らしている6畳ひとまの借家の部屋にて…


しほこは、台所でバタバタしていた。


温史が帰宅するまでに晩ごはんを作らないといけないのに、台所に調理器具がないのでものすごく困っていた。


台所に調理器具がない…


どうしよう…


そこへ、作業着姿の温史が帰宅した。


温史は、ひどくおたついているしほこに声をかけた。


「しほこ。」

「あなた!!」

「なにひとりでおたつきよんぞぉ~」

「台所に調理器具がないので困っているのよ!!」

「ごはんはおじさんの家でいただくようになっているのだよ…だから、料理作らなくてもいいんだよ…」

「その前に、おふろ屋に行かなきゃ…」

「おふろも、おじさんの家で入るのだよ。」


温史は、しんどい声でしほこに『もういいから行こうよぉ~』と呼びかけた。


ところ変わって、智之夫婦の家の広間にて…


広間の食卓には、鹿之助夫婦と智之夫婦とまりえとしほこと温史がいた。


愛也は、私立高校の寮に滞在しているので不在である。


テーブルの上には、ひなこが作った晩ごはんが並んでいる。


きょうの晩ごはんは、ひなこの手作りの肉じゃがである。


しほこは、ものすごくつらそうな表情を浮かべていた。


きぬよは、過度にやさしい声でしほこに言うた。


「しほこさん、ごめんね…台所に調理器具がなくて困っていたよね。」


しほこは、つらそうな表情で言うた。


「おばさま、困ります…調理器具がなかったら料理ができません。」


きぬよは、過度にやさしい声でしほこに言うた。


「ごめんね…調理器具を用意しなかったのは理由があるのよ…」


しほこは、つらそうな声で鹿之助夫婦に言うた。


「ですから、どんな理由があるのですか?」


鹿之助夫婦は、過度にやさしい声でしほこに言うた。


「ああ、わしらはしほこさんに『料理をするな。』とは言うてないよ。」

「ふたりの負担を軽くするために、朝と晩のごはんはうちで食べなさいと言うているのよ…」


しほこは、鹿之助夫婦に『それではダメになってしまう…』と言うた。


「それではダメになります!!」


鹿之助は、つらそうな声でしほこに言うた。


「しほこさんの気持ちは分かるけど、料理をしている時にケガをしたらどうするのだ…やけどを負ったらどうするのだ…」


鹿之助からクドクド言われたしほこは、ものすごくつらそうな声で『困る…』と言うた。


きぬよは、過度にやさしい声でしほこに言うた。


「だったら、うちでごはんを食べなさい…」


しほこは、ますますつらそうな声で言うた。


「だけど、おふろがまだ…」


鹿之助は、過度にやさしい声でしほこに言うた。


「おふろもうちで入りなさい。」


しほこは、ますますつらそうな声で『だけど…』と言うた。


鹿之助夫婦は、ものすごくきしょく悪い声でしほこに言うた。


「なにもエンリョすることはないよ。」

「そうよ…ここはしほこさんのおうちだと思って気楽にしていればいいのよ。」


鹿之助は、ヘラヘラした声で『お腹すいたなぁ~ごはんまだぁ~』と言うた。


その後、ひなこが広間に入った。


「お待たせしました。今から晩ごはんの用意をしますね。」


ひなこは、みんなが食べる晩ごはんの用意を始めた。


きぬよは、得意げな声で言うた。


「きょうは、ひなこが料理教室で習得した肉じゃがよ…ひなこは料理が上手でいい子ねぇ~」


ひなこは、日立の高級炊飯器のふたをあけたあと、しゃもじを手にした。


しゃもじでごはんをお茶わんについで、ひとりずつ手渡して行く。


つづいて、桜井漆器のおわんにみそ汁をつごうとした。


しかし、途中でつぐのをやめた。


この時、ゆりかがぼんやりとした表情を浮かべているひなこを怒鳴りつけた。


「ちょっと!!」

「はい?」

「みそ汁をついでよ!!」

「えっ?」


ぼんやりとしているひなこに腹を立てているゆりかは『みそ汁ついで!!』と怒鳴りつけた。


「みそ汁ついでと言うたらついでよ!!」

「ああ、つぎます。」


ゆりかに怒鳴られたひなこは、みそ汁をつごうとした。


みそ汁ついでと言うけど…


ぬるいから、つぐことができない…


ゆりかは、よりし烈な怒鳴り声でひなこをイカクした。


「みそ汁ついでよ!!」

「つぎます…だけど…ちょっと…ぬるくなってしまったの…」

「ぬるくなったらみそ汁をつがないのね!!」

「ですから温め直します!!」

「いらないわよ!!」

「先に食べてください…ゆっくりとかんで食べていれば、みそ汁は温まります…今からすぐに温めます。」


台所にて…


ひなこは、みそ汁がたくさん入っているお鍋をビルトインコンロの上に載せて、中火で温めていた。


しかし、鍋の中のみそ汁が温まらない…


温まらない…


どうしよう…


その間に、食卓が危険水域におちいった。


ゆりかは、鹿之助夫婦がひなこを甘やかしたからみそ汁がぬるくなったと怒鳴った。


「義父さまはうちがなんで怒っているのかがわかっていないわね!!あんたらがひなこを過度に甘やかしたからみそ汁がぬるくなったのよ!!」


つづいて、智之もし烈な怒鳴り声をあげた。


「ゆりかの言うた言葉がきこえんのか!?」


鹿之助は、ものすごくつらそうな声で言うた。


「ちょっと待てや…ひなこを甘やかしたこととみそ汁とどういう関係があるんぞぉ~」

「関係あるからいよんよ!!」

「ひなこは、みそ汁がぬるくなったから温め直しますと言うたんだよ…」

「それがひなこを甘やかしてるといよんじゃボケ!!」


智之夫婦に怒鳴られた鹿之助は、必死になってひなこをヨウゴした。


「ひなこは、みんなが食べるごはんを一生懸命になって作っているのだよ。」


ゆりかは、し烈な怒鳴り声で鹿之助をイカクした。


「はぐいたらしいジジイね!!」

「なにをそんなに怒りよんぞぉ~」

「義母さまが『ひなこは料理が上手でいい子いい子…』と言うて、うちをボロクソになじった!!」

「なにかんちがいしよんぞぉ~」

「だまれクソジジイ!!だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだーーーーーーまーーーーーれーーーーーー!!老いては子に従えだ!!だまれと言うたらだーーーーーーまーーーーーれーーーーーー!!」


智之がものすごくし烈な怒鳴り声をあげたので、きぬよは泣きそうな声で言うた。


「ちょっと、なんでし烈な怒鳴り声をあげるのよ…ひなこにどんな落ち度があるのよ!?」


ゆりかは、なまいきな声できぬよに言うた。


「落ち度があるから怒鳴られたのでしょ…」

「ゆりかさん!!」

「はぐいたらしいシュウトメね!!」

「ゆりかさん!!」

「オドレもだまれ!!」

「智之!!」

「なんや!!オレにイチャモンつけるのか!?」

「どうしておだやかにお話しができないのよ!?」

「オドレらがよってたかってひなこを溺愛したからうちら家族がおかしくなったのだ!!」

「溺愛なんかしていないわよ!!」

「だまれ!!老いては子に従えと言うのが分からんのか!?」


(ガラガラガラガシャーン!!)


ブチ切れた智之は、テーブルをひっくり返して食卓をめちゃくちゃにした。


「フギャーーーーーーーーーーーッ!!」


この時、まりえがし烈な叫び声をあげて泣き出した。


サクラン状態におちいった智之は、台所へ向かった。


(ガーン!!)


「いたーい!!」


ひなこは、智之にグーでこめかみを殴られた。


殴られたひなこは、台所から逃げ出した。


同時に、智之が投げた調理器具が広間へ飛んできた。


ひなこは、きぬよの背中に隠れて震えていた。


「智之やめて!!」

「どけ!!」

「なんでひなこに暴力をふるうのよ!?」

「どけといよんのがきこえんのか!?」

「ひなこは、たったひとりしかいない妹なのよ!!」


智之は、怒りのホコサキを鹿之助に向けた。


「オドレクソジジイ!!」

「やめてくれ~」

「ひなこを甘やかしたから、テッケンセイサイだ!!」

「こらえてくれぇ~」


広間から逃げ出した鹿之助は、家から出たあとかもいけ海岸へ逃げて行った。


智之は、鹿之助を追って外へ出た。


(ドドーン!!ドドーン!!ドドーン!!)


ところ変わって、かもいけ海岸にて…


闇夜の海に、激しい波の音と智之の怒鳴り声と鹿之助のなさけない声が聞こえている。


鹿之助は、智之からシツヨウな暴行を受けた。


「やっつけてやる…ひなこをえこひいきしてうちらをないがしろにしたからやっつけてやる!!」

「こらえてくれぇ~」


鹿之助は、暴行を受けながらも必死になって許し乞いをした。


しかし、鹿之助は智之からよりし烈な暴行を受けた。


智之の怒鳴り声は、家の近辺に響き渡った。


めちゃくちゃになった広間にて…


まりえがよりし烈な叫び声をあげて泣いている。


ひなこは、きぬよの背中でワーワー泣いていた。


しほこは、その場にうずくまって震えていた。


その中で、ゆりかは背中を向けてプンとひねくれていた。


きぬよは、全身を震わせながらつぶやいた。


助けて…


お願い助けて…


このままでは…


家が壊れてしまう…

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