第5話

5月3日の午後1時過ぎであった。


この日、智之夫婦の家でお見合いをしていた。


お見合いは、愛結び(愛媛県のお見合い事業)で申し込んだ男性(家の近所に住んでいる造船所の作業員)とお見合い相手の女性(26歳・OLさん)のお見合いであった。


お見合いは、広間のとなりにある8畳の客間で行われた。


客間には、鹿之助夫婦と愛結びのスタッフさんとおふたりさんの5人がいる。


お見合いは、なごやかな雰囲気で進行した。


場所は変わって、台所にて…


お茶をいれる準備をしていたひなこは、ひねた表情を浮かべていた。


なんなのよ一体もう…


うちで愛結びのお見合いをするなんて…


うちに対してのあてつけかしら…


そこへ、しほこが帰宅した。


しほこは、洋菓子屋でこうたケーキが入っている入れものをもって台所へ入った。


しほこは、言いにくい声でひなこに声をかけた。


「あの~」


ひなこは、しほこを怒鳴りつけた。


「なによ!!」

「ひなこさん…」

「なにしにきたのよ!?」

「ケーキが入っている入れものを、どこへ置いたらいい?」

「そこへ置いといて!!」


しほこは、台の上にケーキが入っている入れものを置いたあと、言いにくい声でひなこに言うた。


「ひなこさん…」

「なによ!?」

「どなたかお客さまが来ているの?」

「また愛結びが土足で上がり込んだのよ!!」

「えっ?それはどういうこと?」

「事務局のスタッフがわざとレストランの予約を取らなかった…それで、うちでお見合いをすることになったのよ!!…なんなのよ一体もう…お見合いであろうがどんな形であろうが結婚なんかイヤなのよ!!…と言うか、結婚で人生をしばられること自体がイヤなの!!」


なんとも言えないわ…


しほこは、シアン顔でつぶやいた。


その時であった。


「ひなこ、事務局の人がお茶はまだっていよるよ…お茶できたの?」


客間からきぬよが『お茶まだ?』と言う声が聞こえた。


きぬよの声でブチキレを起こしたひなこは、しほこがこうてきたケーキが入っている入れものを手にしたあと、客間の入り口に投げつけた。


(グシャ…)


ケーキは、入れものの中でつぶれた。


「しほこ…しほこお茶は?」


きぬよは、ひなこに『お茶はできたの?』と重ねて言うた。


そしたら…


(ガツーン!!バシャッ!!)


客間の入り口に、お湯が入っているシルバーのケトルが飛んできた。


ケトルは、客間の入り口で落ちたあと大量のお湯がこぼれた。


ひなこは、ビービー泣きながらアカンベーしたあと、客間にお尻を向けてぺんぺんしたあと外へ逃げて行った。


それを見たきぬよは、したくちびるをギューッとかみながら『態度悪い子ねぇ!!』とつぶやいた。


夕方4時頃であった。


ところ変わって、かもいけ海岸にて…


(ザザーン、ザザーン…)


しほこは、夕どきの海を見つめながらぼんやりとした表情でつぶやいた。


ひなこさんは…


愛結びのお見合いが気に入らないからカンシャクを起こしたのか?


それとも…


自分自身の結婚がイヤだから、愛結びにイカクしたのか?


よくわからないけど…


きっとそうだと想うわ…


5月7日の朝9時過ぎであった。


この日は、大西支所に愛結びの出張窓口が開設される日であった。


智之夫婦の家族は、朝から出かけていたので不在であった。


身支度をととのえた鹿之助夫婦は、広間でひなこが来るのを待っていた。


しかし、ひなこは広間に来ていなかった。


しほこは、鹿之助夫婦に頼まれてひなこの部屋に行った。


ひなこの部屋にて…


ひなこは、ふとんの中に隠れていた。


しほこは、ひなこを呼んでいた。


「ひなこさん…ひなこさん、おとーさまとおかーさまが待っているわよ。」


ふとんの中にいるひなこは、つらそうな声で言うた。


「イヤ!!愛結びなんかイヤ!!」

「愛結びなんかイヤ?」

「イヤなものはイヤなのよ!!」

「どうしてイヤなの?」

「イヤと言うたらイヤ!!イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ…愛結びなんかイーーーーーーーーーヤーーーーーーーー!!」


ふとんの中で叫びまくったひなこは『寝かせてよ!!』と言うたあと、ふとんの中に深くもぐり込んだ。


「ひなこさん…ひなこさん…」


(グオーーーーッ!!)


ひなこは、し烈なイビキでしほこをイカクした。


しほこは、部屋を出たあと広間へ行った。


きぬよは、広間に入って来たしほこにひなこの様子をたずねた。


「しほこさん、ひなこはまだ寝ていたの?」

「ダメです…ひなこさん…『愛結びなんかイヤだ!!』と言うてふて寝しました。」


しほこの言葉を聞いた鹿之助は、居直った声で言うた。


「事情が変わった。」

「あなた…今ごろなにを言うているのよ!?愛結びに10時からお願いしますと頼んでいるのよ!!」


きぬよの言葉に対して、鹿之助は『気持ちが変わったんだよ!!』と言うて声を荒げた。


「ひなこは、生まれた時から良縁に見離されていたんだよ!!…ほやけん、結婚なんかできんのや!!」

「それじゃあどうするのよ!?あなたがひなこを幸せにしてあげたいと言うから、知ってる人に頼んで愛結びの入会手続きを取ってほしいと頼んだのよ!!」

「だけど、事情が変わったからやめるといよんや!!よぉに考えてみろ!!37歳のひなこにふさわしいお相手なんかいるものか!?」


鹿之助の言葉を聞いたきぬよは、返す言葉がなかった。


鹿之助は、なおも怒った声で言うた。


「愛結びの窓口に行っても、お相手のプロフィールだけ見て帰るだけがつづいている…お見合いの申し込みを一度もしていない…それでは、愛結びに行っても意味がない!!」

「そう…よね…」


きぬよは、つらそうな声で答えた。


その後、ひと間隔空けて言うた。


「仮に、お見合いを申し込んでも、お相手さんがひなこを大事にしてくださるかどうかの保証なんかないわ…それだったら、ひなこはうちに置いとくわ…それでいい?」

「ああ、そうしよう…」


鹿之助は、ひなこにふさわしいお相手なんかいるわけないと言うて、さじを投げた。


ひなこのコンカツは、この日をもってジエンドである。

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