月明かりが照らすほうに

NOTTI

第1話:月明かりが照らすほうに

沙弥子は旦那さんと子供たちと一緒に旅行に出かけていた。


 この辺りは有名温泉地に近いというだけにかなりの人出が多かったが、以前から行きたいと思っていた観光名所に行くことが出来て久しぶりに幸せを感じていた。


 沙弥子と旦那さんである亮平の出会いは偶然ではなく、運命に引き合わされたのではないかというくらいロマンチックだった。


二人は15年前に大学の友人との飲み会で初めて出会った。もちろん、2人はこの時初めて出会ったのだが、お互いに共通の話題も多く、すぐに打ち解けた。そのため、周囲からは以前からどこかで出会っていたのではないか?と聞かれることもしばしばだった。


 そんな2人も実際に付き合うまでにはさまざまな困難が伴っていた。まず、壁に当たった問題として“沙弥子の結婚に対する価値観の違い”だった。


 当時は沙弥子にとって結婚というものは“社会に出るまでは絶対にしない”というほどかなり慎重になっていて、学生のうちに結婚を前提に付き合うという考えは頭の中にはなかったため、これまでに付き合っていた相手にとっては彼女と結婚をしたいと思って付き合っていたのだが、結婚に関する話題を切り出した際に考え方が全く違うことに気がつくのだ。その他にも同じクラスを取っている男子学生からも声をかけられることも多かったことから“学年のマドンナ”といわれることも多かった。そんな彼女は大学に入って初めての学科合同の交流会でいろいろな男性とも分け隔てなく話していたため、男性陣から可愛い女子がいると他の大学まで噂が流れていくことになったのだ。


 しかし、周囲がいろいろな人と付き合っているという話が出ても、彼女は一切興味を持つようなことはなかった。


 そして、入学してから半年が過ぎた頃、沙弥子が同級生の大輔に「今度、他の大学にいる友達と一緒に飲むから一緒に来ない?他にも女の子はいるけど、来るときにお友達連れてきても良いから。」と初めて誘われたのだ。大輔とは大学に入ったときに仲良くなり、地元も同じだったが通っていた学校が違っていたため、どこかですれ違っているのだろうが、直接会ったことはなかった。


 この時に集まったのは大輔と大輔の通っていた高校の友人、大学で仲良くなった女子学生など彼の友人でも幅広い人たちが多かった。


 そして、お酒は飲めるのだが、未成年だった彼女は飲むことが出来なかったため、ソフトドリンクを飲むなどしていた。そして、その中で彼女はいろいろな人と話していたが、長時間話す事は苦手だったため、一次会の居酒屋で彼女は帰宅の途についた。


 その後、二次会に行った沙弥子以外のメンバーは彼女が帰った理由が何なのかを気にしていた。


 そして、二次会が終わり、全員解散したのち大輔も帰宅の途についた。


 帰る電車の中で大輔が沙弥子にメッセージを送っていた。それは“一次会来てくれてありがとう。今度は二次会に行こうな”という内容だった。実は以前にも飲み会に誘ったことはあったが、その時は予定があると言われて断られていた。


 そのため、時間を空けて彼がきちんと信頼関係を作った上で飲み会に誘ったのだ。


 実は最初に誘ったときに断った理由は入学して間もない頃に大学の同級生に未成年にもかかわらずお酒を無理矢理飲まされそうになったことが原因だったのだ。そして、彼女がお酒を飲まないことに腹を立てた同級生の女子学生が彼女を遊びに誘う度に彼女に注文や上げ膳・下げ膳をやらせたことで彼女は大学の友人との飲み会が恐くなっていたのだ。


 そのことが影響したのか、この時大輔が飲み会に誘って参加した以降はしばらくの間彼女は彼の主催する飲み会には来なかったのだ。


 そんな彼女を見ていた彼はすごく心配になった。なぜなら、学校で授業を受けている同級生に聞いても普段の彼女は他の子たちと交流することがなく、いつも隅っこの席に座って授業を受けていたという。彼は何か彼女が深い傷を負っているのではないか?と勘ぐっていた。


 ある日、彼が主催する飲み会のメンバーとして彼女と同じ学校に通っていた子が参加をしてくれていた。そして、その子から彼女が飲み会に来なくなった理由を聞いて衝撃を受けたのだ。そして、入学してからまもなくに起きた飲み会に参加したときのいじめも関係していることもこの時に始めて知ったのだった。


大輔はこれまで知らなかった事実を知ったことでびっくりしたと同時に彼女がいじめを受けているようには見えなかったし、何かトラブルがあったようにも感じなかった。そのため、彼の中で彼女がかなり辛い状態にあることを知らなかった事を後悔していた。


 そして、彼女が飲み会に来なくなってから約1年が経ったときにメンバーを総入れ替えして飲み会を設定したのだった。この時に別の友人たちのグループにいたのが亮平だった。彼は国際経済学部国際マネジメント科で、沙弥子は国際経済学部経営学科と学科こそ違うが、どこかで出会っていたかもしれないと言うほど何らかの偶然が重なっていたのだろうと思った。


 そして、沙弥子にとってはこれまでたくさんの人と付き合ってきて初めてこの人となら付き合って、結婚しても良いと思ったのだ。これは彼女にとっては大きな決断であり、今まで結婚という言葉に前向きになれなかった彼女にとって願ってもみないチャンスが巡ってきたと思ったのだろう。そして、その後2人は周囲に分からないように極秘交際を開始したのだった。そして、2人で学科の分からないことを教え合うなどして愛を育んでいった。

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