思い出に懺悔を添えて

時雲

モンハンの映画をやるらしい…

 友人の中に、正直(すぐに会わなくなるだろうな)と思っていた子がいる。


 当時その子は、時折周囲を馬鹿にしたり態度が悪いような子で、普通に行けば避けてたと思う。そんな中、当時流行っていたのは"モンハン"。


 その子は、雰囲気からしてゲームがとても上手そうだった。当時私はそんなにゲームが上手な訳でもなく、昼休み他の友達と「このボス倒せないよね」と話していた中、「俺は倒せるけどな」と入って来たその子に「それじゃあ倒すの手伝ってよ」と言うのは当然の流れだった。


 他の子は用事があるとの事で、結局その子と二人で遊ぶ事になった。


 結果から言えば、五回挑戦して五回とも負けた。

 最初は(自分が下手なせいで足引っ張ってるのかも)と思った。でも、流石に三回四回と続けば分かって来る。そう、その子は特段ゲームが上手なわけではなかったのだ。


 それに気づいて以降、プレイを観察すればするほど(ひょっとすると自分より下手かも知れない)と思うほど色々な癖に気が付いた。


 例えば、頭に来ると力業で倒そうとする癖。結局そのせいで窮地に追い込まれ、負ける。負ければ負けただけ頭にきて、ますます冷静さが欠けて行く。そんなこんなで正直、もうこの子とゲームするのは勘弁だと思った。

 何せ、ゲームで負けて頭に来ている子を、始終フォローしながらプレイしなくちゃいけないのだから。まったく「接待プレイかよ」って話だ。


 その日結局勝てなかった私だったけど、その子と遊ぶ中で気付いた事があった。それは、その子は二人でいる最中、一度も私への暴言を吐かなかったのだ。


 初めて一緒に遊んで以降、その子と話す機会が増えた。

 その中で分かったのは、その子には様々なコンプレックスがあると言う事と、人並みに好かれたいらしいと言う事。そして何より、他の人に馬鹿にされたくないと言うプライドがある事だった。


 どうやら、これらが悪い形で作用して表に出ていたらしい。


 ここで断っておくと、当時私にも悪い癖があった。それは、人生を一つのゲームのように考える癖。この時の私は「他人の能力を伸ばして結果を出させる」事にハマっていた。それも、なるべく本人には自覚させないように……。(今思えばとんでもないクソガキだと思う)

 ちなみにその被害者となった友達は、思いつく中で四人。一人はプロのキャラクターデザイナーとして働いていて、一人は設計士、もう一人はエンジニアで、もう一人は銀行員になっている。


 話を戻すと、当時私はその子をみてこう思った(コンプレックスを解消して自信を付けさせたい)……ほんと、勝手な考えだと思う。


 何はともあれ、まず手を付けたのは、その子の体重を減らす事。

 当時中学生だったにもかかわらず、その子は体重にして80キロオーバーだった。三桁行くのは一つの才能と言われるが、それで行けばその子には才能があったと思う。


 体重を落として、外見的コンプレックスを一つ解消させたいと思った私は、その子を誘って卓球部に入った。(卓球部を選んだのは、その子がそれ以外の部活を嫌がった為だった)

 卓球部に入ると、そこで育成係になったのは一つ上の学年の先輩。その先輩は、また分かりやすく命令してやらせるのが大好きな先輩だった。

 そこで、その子を痩せさせるために一緒に入った私は、裏で先輩にこう言った「やっぱり基礎体力が重要ですよね」(勿論予め先輩とは仲良くなっておいたが、その為に二か月ちょっとかかった)

 先輩は、想像した通りきつめのメニューを設定してくれた。一つ想定外だったのは、思ったよりメニューがきつく、毎日十キロ以上走り込むような内容だった事と、私もその対象だったと言う事だろうか。(自業自得だが)


 何はともあれ、一ヶ月ごとにみるみる結果が出て行った。

 途中、「部活を辞めたい」と同じ部活内・同学年で秘密集会があったりしたけど、その時は進行役になって上手い事「どうにかもう少しだけ頑張ろう」と誘導したりもした。


 それで、初め四十人強いた部員が半分ほどになる頃には、その子は元の体重の半分近くの体重まで落ち、結果としては上々な状態になっていた。(当時の卓球部はその後、異様に走り込む駅伝の強化選手にも選ばれるような部活になっていた)


 満足した私は、二年目の夏に部活を辞めた。()

 その間私がしていたのは、何もその子の「肉体改造」だけではない。考え方の変革だ。当初すぐにどうにかなると思っていたが、どうにもそう簡単には行かなかった。結局、中学を卒業して高校も卒業、その子が大学へと進学した頃までかかってしまった。


 今思えば、親の影響を強く受けていたんだと思う。

 一人暮らしを始めて、喫茶店のアルバイトも始め、髪も明るい色にして、得意なジャンルも出来た。これでようやく自分に自信が持てるようになっていた。


 はじめて出会った時は、すぐに会わなくなるだろうなと思った子だけど、今では(中学生来の友人の内)頻繁に会って食事する数少ない大切な友人だ。


 そんな彼には、初めの印象の話はした。


 でも、今でもまだ裏でこそこそしていた事については話せていない。

 何せ、今でも偶に思い出しては「大変だった中学時代の卓球部」の話をするから。あの時きっかけを作ったのが自分だと知られたらと思うと、少し怖くて話せていない。いつか話せたらいいなとは思ってはいるけど。


 取り敢えず今は、その時を迎える為の準備をしようと思う。


 週末始まる映画へ誘って。

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思い出に懺悔を添えて 時雲 @tokikumo

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