第360話 牧場


「うーん、これだけ美味しく出来るなら、おじーちゃんのお肉も試してみて欲しいなぁー」


 コンフィを食べ終えて流石に満腹になってくれたのか、食後休みをとることになり……食器などを片付け洗い終えてのまったりとした時間。


 こたつに入って天板に体を預けて、丸くなっていたフキちゃんがそんな声を上げる。


「牧場の新鮮なお肉かぁ……。

 質が良い新鮮なお肉は下手に保存食にするよりもシンプルに、ステーキとかで食べた方が美味しいんじゃないかな?

 溶岩プレートで良い具合に火を入れて塩コショウが一番美味しい食べ方だと思うよ?」


 俺がそう返すとフキちゃんは、フルフルと首を左右に振って言葉を返してくる。


「それはもちろん分かってるよー。

 そうじゃなくて、コンフィとかでも食べてみたいし? おしゃれな食べ方を宣伝したらお肉が売れるかもしれないし? 保存食でいい感じに作れるならそれを売るのもありじゃん?

 缶詰とかー、瓶詰めとか、実椋さんもドッグフードとか色々やることになってるんでしょ? そんな感じでさー、そういう経営? をしてもいいと思うんだよねー。

 おじーちゃん、家畜増やしたがってるからさー、そういう方向で稼いで増やしても良いのかなって」


「なるほど……?

 まぁ、そこら辺はお爺さんとよく相談してみると良いよ。

 流石に経営のこととなると他所からどうこう言う訳にはいかないからねぇ……。

 レシピとか料理法とか必要なら教えるけど、それもちゃんと売って良い調理法なのかは分からないから、保健所とかと連携するなりプロに相談するなりした方が良いかな。

 肉料理とは全く別ジャンルだけど、お菓子作りで活躍しているレイさんに相談しても良いかもね。

 何しろホテルとも仕事をしていて、おしゃれな盛り付けとかにも詳しくて……うん、やっぱり相談するならレイさんだね」


「またレイさんかー……なんか凄く頼れる人だよね、レイさん。

 両親のことでもお世話になったしさー……あーあ、彼女いなければなー……」


 と、そう言ってフキちゃんは天板の上に組んだ腕の中に突っ伏し……それから顔を上げて口を開く。


「まぁ、うん、暇な時にさ、牧場に遊びにきてよ。

 経営どうこう関係なくおじーちゃんに紹介したいし、うちの美味しいお肉食べて欲しいし、テチせんせーもさ、動物と触れ合ったらきっと癒やされるよ。

 コン君とさよりちゃんも楽しいからおいでよ、色々な動物いるよー」


 その言葉を受けてテチさんは「悪くないかもなぁ」なんてことを言い……コン君とさよりちゃんは目を見開き輝かせ、口を開く。


「牧場! 牛とか馬とかいるんだよね! 他にも色々いるかな!」


「美味しい牛乳とか飲んでみたいです!」


 元気いっぱいのコン君達の声を声を受けてフキちゃんは体を起こし、


「いるいるー、たくさんいるよー。

 牛も馬もニワトリも羊も、犬も猫もいるよー。

 今の時期でお肉があるのは牛と羊かな、ニワトリも頼めばいけるはずだけど……ま、牛と羊あったらいらないよね。

 お肉食べるだけでも良いからおいでおいで」


 と、そう言って二人の頭に手を伸ばし撫で回す。


「牧場かぁ……ドッグフードの材料が手に入るかもしれないし、一度行ってみるのも良いかもね。

 行くとしたら今度の週末かな? 消毒の準備とか色々あるだろうから、今のうちにお爺さんに話をしておいた方が良いかもね。

 ……フキちゃんはそれで良い?」


 皆が乗り気ということで俺がそう言うと、フキちゃんはコクコクと頷いて……フキちゃんに電話番号を教えてもらった上で、お爺さんのスマホへと電話をかける。


 呼び出しが始まってすぐにお爺さんが出てくれて……俺はまず名乗り、挨拶をし、フキちゃんの話をし……遊びに行っても良いかと許可を求める。


 するとお爺さんは……、


『えぇえぇ、もちろん来てください。

 フキからお世話になっているとは聞いていましたから、一度お会いしたかったんですよ。

 消毒などのお気遣いもありがとうございます、週末までに見学用の準備をしておきますので、遠慮なく来てください。

 それともちろん、肉の方も準備しておきますよ、週末には良い熟成具合になっていることでしょう』


 と、そう言ってくれて……その後二、三会話した上で通話を終了させる。


 そしてその結果を皆に伝えると……コン君とさよりちゃんは嬉しさのあまりかこたつから飛び出して、お互いの手を取り合い踊るかのようにして居間の中を駆け回る。


 テチさんもまた良い肉が食べられるのかと笑顔になり……そんな皆を見てかフキちゃんも嬉しそうにする。


 ニコニコ笑顔となって駆け回るコン君達のことを視線で追いかけ……そうやって部屋を何周か見回してから「あっ」と声を上げて口を開く。


「そうだ! 友達も呼ぶかもしれないから、もし来たらよろしくね?

 同い年で女の子で、同じ猫獣人でー……黒毛の可愛い子なんだよね。

 前はいつも一緒だったんだけど、冬休みはなんだかんだ忙しくて会えてないからさー、呼ぼうと思うんだ。

 前々から牧場に行きたがってたしねー」


 そんなフキちゃんの言葉に対しての俺、テチさん、コン君、さよりちゃんの反応は、


「元々フキちゃんの発案なんだし、反対する理由はないよ、こっちのことはちゃんと知らせておいてね」


「どの子だろう? ユカリのことか……?」


「おー! フキねーちゃんの友達! 楽しみ!」


「フキさんみたいにおしゃれな人なんです?」


 と、いうものだった。


 反対する理由はないし、フキちゃんのお爺ちゃんの家な訳だし……こちらからどうこう言うのもおかしな話だろう。


 そういう訳で週末に皆で牧場に行くことになり……それからコン君達は毎日をソワソワしながら過ごすことになった。


 早く動物に会いたい、お肉食べたい、牧場で遊び回りたい、フキちゃんの友達に会いたい。


 そんなことを言いながらソワソワとし続け……そうして土曜日。


 いよいよ牧場に行く日となって、俺の運転する車でもって俺達は牧場へと向かうことになる。


 車で大体10分……フキちゃんもよくこの距離を平気で行き来出来ていたなぁと、驚くくらいのところにある牧場は、木製の門が置かれた入り口の時点でかなり大きく広さを感じるものであり……そしてその門の脇には二人の女の子がいて、肩を寄せ合った二人は元気良く、


『いらっしゃーい!』

 

 と、異口同音に周囲に響き渡る声を上げてくるのだった。




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