第359話 アイスバイン実食と
フキちゃんの盛り付けは、肉で花を……薔薇を描いているというか、そんな感じのものとなっていた。
肉が花弁で、サラダ菜とザワークラウトが葉っぱ、ジャガイモやニンジンはただの添え物といった感じで……うん、まぁまぁな出来だった。
素人としては良い出来とは言えるかもしれないけど、ネットに載せるとかは出来なさそうで……それでもフキちゃんは満足げで、スマホで友達に見せて反応をもらって更に満足そうな表情へと変化していく。
そんなお楽しみタイムが終わったなら配膳が始まり……俺は仕上げということで人数分のパンをバタートーストにし、お茶を淹れてそれらを持って居間に向かう。
そうして皆で席につき……手を合わせいただきますと声を上げ、箸に手を伸ばす。
皆の狙いは当然アイスバイン、一斉に肉に箸を伸ばし、自分達の口の中に運んでいく。
しっとりとしてプリプリで、味としては塩豚と同じ組み立てなのだけど、その触感が美味しさを増してくれる。
「うぅん、思っていた以上に美味しく出来たなぁ。
脂が良かったのか、骨の出汁が効いているのか……塩豚と全く同じ味というのは少し侮っていたかもな」
と、俺がそう言うとテチさん達がそれに続く。
「詳しいことは良く分からないが美味いな、うん、美味い、これならいくらでも食べられそうだ」
「おいしー! 肉がぷりぷり! あんま食べたことない感じ!」
「あ、ほんとだ……これは美味しいですね」
コン君さよりちゃんと来て……次はフキちゃんだ。
「コラーゲンたっぷりなんだっけ! なら美容効果もあるよね! うんうん!」
その言葉には……なんと返したものやら困ってしまう。
コラーゲンを使った美容商品は多いが、コラーゲンを食べたからといって同じ効果が得られるとは言えず……ただの栄養となるだけだ。
まぁ、その栄養が美容効果に繋がると言えば繋がるので、全くの間違いではなく、なんとも訂正しにくい。
んー……プラシーボ効果とかもある訳だし? 美容に良いと思い込んで食べること自体は悪くないはずだ、うん。
付け合せも程よく仕上がっていて……ザワークラウトはもう少し寝かせた方が良さそうだが、ジャガイモなどと一緒に食べる分には悪くない。
ドイツっぽく仕上がったかと言われると謎だけど……まぁ、雰囲気は楽しめているかな。
ビールとソーセージがあればまた違ったかなぁ……なんてことを考えているとフキちゃんは、アイスバインを食べ終えたのかまたスマホを操作し始め……無意識なのか小声を上げる。
「んー……次は何がいっかなぁ、これはドイツだっけ?
じゃぁー……フランス? フランスって料理美味しいんだよね、ドイツのこれより美味しいのかな」
え? もう? もう次の料理作るつもり? 今食べたばかりなのに?
それともただ候補を探しているだけ? いやしかし、フキちゃんも獣人な訳で……。
「うん、次はフランスが良いかな! フランス料理もおしゃれな感じ!
実椋さん、材料あります? すぐ作れます?」
あ、やっぱりもう次の料理行くつもりだ、すぐにでも始める気だ。
俺はもう満腹なんだけどな……なんてことを考えているとテチさん達の食欲に満ちた視線がこちらに向けられる。
……その目は肉肉しいといった割には肉が足りなくない? と、そう言っているかのようで……俺は仕方無しにため息を吐き出し、口を開く。
「すぐに次の料理が出来るほど材料の在庫はないけど……既に作ってあるフランス料理があるから、食べたい人はそれを追加で食べることにしようか」
俺のその言葉を受けて、どんな料理であるかに気付いたのはコン君だけだった。
コン君だけが目を輝かせて立ち上がり……食器をささっと片付け始め、俺がそれを手伝う形で片付けを終わらせ、終わらせるなりコン君は倉庫へと駆けていく。
向かう先は倉庫の保存棚……24時間365日、管理用の換気扇が唸るそこにはいくつもの保存瓶が並べられていて……ぴょんと飛び上がり、棚を掴みぶら下がったコン君は、瓶を一つ一つしっかりと眺めていき……、
「これが良い! 美味しそう!!」
と、ある保存食が入った瓶を指差す。
それは以前作ったコンフィだった。
まだまだ熟成が甘い気もするが……半年以上は経っている訳だし、悪くはない仕上がりになっているはず。
コンフィはオーブンで焼けば完成という手軽な料理でもあるし……付け合せの野菜も、コンフィ用ではないが余っている。
ならばこれで良いだろうと、コン君が選んだ瓶を手に取り……それをローストするためオーブンの予熱を始め、その間に食器を洗ったりコンフィを瓶から取り出したりと準備をしていく。
その流れでフキちゃんにコンフィの説明をしていると、フキちゃんはふんふん言いながら頷き、スマホで録音することでメモを取り、それからなんとも楽しげな声を上げる。
「これ良いかも! 凄く美味しそうだし、うちでも結構廃鶏……あ、卵うまなくなったニワトリのことね、それが出るし、コンフィにしちゃうのは全然ありかも。
廃鶏のお肉はパサパサのことが多いんだけど、これなら関係ないし……うん、おじーちゃんに教えてあげよ!」
なるほど……確かにそういう形で仕上げたコンフィを売っているとこもあるからなぁと、妙に納得した気分になりながらオーブンにコンフィを入れて焼き上げたなら居間へと持っていく。
香りは良い、焼き上がりもいい感じで……付け合せもちゃんとあるからか、中々の完成度となっている。
すぐさまフキちゃんはそれを写真に撮り、友達に見せて……先程よりも反応が良いことを少し悔しがる。
「えー、皆して味は味はって、大事なのは見た目っしょー」
いや、味だよ? 味が一番大事だよ? もちろん食欲の湧く見た目も大事だけどね?
……まぁー、ここらへんはフキちゃんには今更か。
そんなこともありつつ、俺以外の面々による食事が再開されて……焼き立てコンフィが口に運ばれる。
「うまいな!」
「おいしーー!」
「おいしいです!」
「うわっ、何これおいしっ!」
テチさん、コン君、さよりちゃん、そしてフキちゃんがそう声を上げ……そうして獣人4人組は一瓶分のコンフィを……結構な量のはずのそれを、あっという間にたいらげてしまうのだった。
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