第348話 面倒だけど
「……家事自体は面倒な時もあるし、楽しいとも言い切れないかな?
ただ家を綺麗にして、服を綺麗にして、美味しい食事を用意して……そうやって皆が元気に毎日を暮らして成長していくのは楽しいし幸せなことかな。
コン君とさよりちゃんは出会ってから5cmかな? 10cmかな? そのくらい身長が伸びたみたいで、体重も増えてそろそろ肩車するのも一苦労になったよね。
その成長の一助になったのが俺の料理と思えばすごく嬉しいことだし、今年一年、誰も病気らしい病気をしなかったことも幸せなことだよね。
逆に誰かが病気になったりしたら自分の料理や掃除がまずかったのかと後悔するし不安になるし……だからこそ家事はしっかりやりたいと思うよ」
悩みに悩んでから、自分の中で出来上がった結論をそんな言葉にすると、コン君照れた様子を見せてその顔を両手で覆い……さよりちゃんも照れているのか「えへへ」と笑う。
「もちろんテチさんが毎日元気に過ごしてくれていることも嬉しくて、これからお腹の子供もどんどん育っていく訳だし、生まれてきてくれたら今までの何倍も嬉しくなるだろうし……面倒くさいと思いながらも楽しんで家事をしていくと思うよ」
更にそう言葉を続けるとテチさんも嬉しそうにしてくれて……そしてフキちゃんは真剣な顔で聞き、納得出来たのか出来ていないのか複雑そうな顔で首を傾げ……それから不思議な声でもって喉を鳴らして考え込む。
そうやって自分の家庭がある光景を想像しているのか、自分の子供を育てている様子を想像しているのか……どちらにせよ、あとは自分で考えて答えを出すことなので何も言わず急かさず、フキちゃんの好きにさせてあげることにする。
「にーちゃん、自分の子供が出来るのって、そんなに嬉しいことなの?」
そんな中、コン君が真剣な顔で問いかけてきて……俺は頷き、言葉を選びながら返事をしていく。
「そうだね、出産って言うのは簡単なことではなくて、命に関わることだし、出産後も大きな責任を負うことになる、とっても大変なことなんだ。
それをテチさんが受け入れてくれたこと、大変な道を俺と一緒に歩んでいくことを決断してくれたことがまず嬉しくて……次に家族が増えることがたまらなく嬉しいんだ。
俺はまだ子供を持ったことがないけど、子供が生まれたらきっとその気持ちがもっと大きくなるはずで……その分だけテチさんへの感謝とかも大きくなるはずなんだよね。
その家族を守っていくことの一つが仕事で家事で……それに励むことが出来るっていうのは幸せなことなんだと思うよ」
「そっかー……オレもいつか結婚したらそういう気持ちが分かるのかなー。
結婚して子供が出来たらそういうことが分かるようになってー……それが大人になるってことなのかな?
分からないからオレはまだ子供でー、フキねーちゃんもまだ子供でー……。
……にーちゃん、子供ってどうやってでき―――」
「コン君とさよりちゃんの子供なら可愛いんだろうねぇ、元気なんだろうねぇ!
子供が出来たなら頑張って働いて美味しいご飯を作ってあげると良いと思うよ!
きっとコン君みたいに美味しい美味しいって良い笑顔で喜んでくれるはずさ!」
絶対にそうなるだろうなと警戒していた流れになった瞬間、大声で話を変える。
テチさんがそんな不自然な変え方があるかと半目でこちらを見ているが気にしない、とにかく流れを断ち切り、コン君が自然とこの話を忘れるように……あるいはこの話はしない方が良いのかなと察せる空気を作り出そうとする。
この流れは俺には荷が重い、どうしてもならご両親とやってくださいと、そんなことを強く願いながら更に言葉を続けていく。
「離乳食を作ってお菓子を作って……ジャムなんかも作ってあげて。
それを自分の子供が喜んで食べてくれたら、とても幸せなことなんだろうねぇ……!
コン君ならきっと喜んでもらえるはずさ! 何なら今のうちに子供が喜ぶメニュー作りの勉強とかするかい?
さっき言ったジャムはもう教えたから……ジャムと組み合わせて美味しいアイスクリーム作りとかも良いかもねぇ!
あとは子供と言えばカレーかな! もう教えたっけ? ジャムをカレーに入れても美味しいんだよ!
あとは……カボチャのジャム煮込みなんかも結構美味しくて、子供受けも良いんだよねぇ、今度作ってあげようか!」
「え? ジャムのカレー!? カボチャは甘いんだって想像つくけど……甘いカレー?
オレ、甘いカレーも好きだし食べてみたいかも! ああでも、前作ってくれたお肉がゴロゴロしてるのもいいなぁ!
ジャムとお肉って相性良いんだよね! 美味しくなるかも!」
「そうだねぇ、お肉との相性も良いし美味しくなるかもねぇ……。
あ、いっそコン君オリジナルのカレーでも作ってみる? 好きな具材を好きな組み合わせで、味付けも好きなようにして。
コン君だけじゃなくてさよりちゃんも、テチさんも……フキちゃんも参加してのカレーパーティも良いかもしれないね。
きっと楽しいし美味しいし……家事の練習っていうか楽しさを感じることも出来るだろうし、フキちゃんも良い経験になるんじゃないかな」
と、コン君との会話の中で俺がそんなことを言うと、コン君の目が輝き、さよりちゃんは「面白そう!」なんてことを言いながら早速レシピを考え始め……テチさんは少し面倒そうにしながらも、コン君達やフキちゃんの勉強になるのならと、そんな態度を見せてくる。
そしてフキちゃんは、特別授業に追加のおかわりが来てしまったことを少しだけ嫌そうにするが……家事に対する想いもあるのだろう、少しの間の後にこくりと頷く。
「じゃぁ皆でレシピを考えて……作るのは俺が中心となってやる感じで。
それを皆で食べて……投票で1番を決めるのも良いかもね。
……あんまりにアレな材料とか危険な組み合わせの場合は俺がストップかけるから、その辺りのことは気にせず、遠慮せず、自由に考えてみてよ」
と、俺がそう言うとコン君とさよりちゃんはあれが良い、何が良いと相談し始め……テチさんもフキちゃんとあれこれと相談をし始める。
それを見て俺は立ち上がり……自分の部屋に向かい、一冊のレシピ本を手に取り、それを居間へと持っていく。
それは写真つきで色々なカレーを紹介している本で……これを参考にしてもらえば良いカレーが出来上がるはずで……これを見ながら自分も何か新しいカレーを考えてみるかなと、そんな事を考えながら居間のこたつでもって広げて眺めるのだった。
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