第349話 カレー買い出し


 どんなカレーを作るのか……ある程度の話し合いを終えたなら買い出しをすべく俺、コン君とさよりちゃん、それとフキちゃんでスーパーへと向かう。


 車で行っても良かったのだけど、天気も良いので徒歩で向かうことにし……雪が積もり真っ白となった獣ヶ森の中を通っていく。


 コートを羽織り長靴を履いて……20cm程の厚みの雪をギュムギュムと踏んで。


 コン君達も長靴を履いていて、楽しそうに真っ白な……まだ誰も踏んでいない雪を探しては踏み荒らしていて、フキちゃんはそんなコン君達のことを微笑ましく見守っている。


 子供嫌いという訳ではなく、家族という生き方に相応の憧れもあるようで……だけども家事への熱意が湧いてこず、主婦業をやりたい……か。


 まぁ、若いとそういうこともあるんだろうなと思いながら足を進め、スーパーへと到着すると、コン君とさよりちゃんは並んでテテテッと駆けていき、入り口に重ねてあるチラシを手に取る。


 それは二人が最近覚えたことの一つで……じっくりチラシを眺め、特売の確認をし、それから家でしっかり書いてきた買い物メモと見比べて、いくつかのターゲットを絞り出す。


 そうしたなら俺より早くスーパーの中へと入り、俺がカートや買い物カゴを用意する間にターゲットのうちの野菜、入ってすぐのエリアで売られている品を抱えて戻ってくる。


「はい! これが新鮮なやつ!」


「こっちも良い感じです!」


 と、そう言って二人が差し出してきた野菜を受け取り、カゴに入れているとフキちゃんが不思議そうにその様子を見やってくる。


「最近気付いたんだけど……獣人は皆鼻が良いから、俺があれこれ選ぶより二人に任せた方が良いのを選んでくれるんだよね。

 そんな獣人相手に商いをしているお店だからそもそもの質が良いんだけど、そこから更に良いのを選びとってくれるからねぇ……。

 野菜果物、肉魚はコン君達の独壇場だね」


 俺がそう言うとコン君は胸を張ってふふんと鼻息を鳴らし、それからまた移動を開始し、スーパーの中の品を吟味し始める。


 店内では駆けず静かに、それでいて入念な吟味が行われ……特売の品を中心に次々と運ばれてくる。


 もちろん自分でも選ぶ必要はあり、コン君達のようにチラシを見ながら店内を巡っていき……そんな様子を見てかフキちゃんが声をかけてくる。


「……やっぱり特売の品だけを買った方が良いんですか?

 正直そこまで値段変わらないと思うんですけど……」


「それはまー……その状況次第かな?

 今すぐ必要だとか、時間がない時にまで気にすることはないと思うし……特売じゃなくても安い商品はいっぱいあるしね。

 ただまぁ、余裕がある時はこうした方が良いと思うよ? そこまで変わらない値段も積もり積もれば大金になる訳だし……なんだかんだ特売のおかげで献立作りが楽になる部分もあるからね。

 今日はこれが安いからこれを作ろうっていう指針になる感じで……それといつもより安く買えているっていうのでストレスが減るっていうか、精神的負担がかなり楽になるから、お金だけの問題でもなかったりするかな」


「……そうなんですね……。

 あの、実椋さんはインスタント食品とか使ったりするんですか? それと簡単に中華料理作れるやつとか……」


「普通に使うし食べるよ? 美味しくて簡単だからねぇ。

 一から手作りしても良いと思うし、そういったので楽しても良い、時間があるのかないのか、こだわりたいのかこだわりたくないのか……その時の状況や気分で使い分けたら良いと思うよ。

 これは受け売りだけど、そうやって色々なものを選べる、選択肢の豊富さこそが豊かさの証……らしいよ。

 ……今日だってカレールーは市販のを使うしねぇ……スパイス買い集めて1から作っても良いし、美味しくなるのは確かなんだけど、お金も時間も手間もかかっちゃうからねぇ」

 

 出来るだけ多くの人に好まれる味を、安全かつ効率的に大量生産した品。


 それはそれでプロの仕事であり、こだわり抜かれた逸品であり……素人には真似出来ないレベルのものだったりする。


 それに頼っても良いし頼らなくても良いし……その人に合った選択肢を選べればそれで良いのだろう。


 俺の保存食作りだって、一からこだわってやっているけども、市販品を買ってしまった方が早いし確実に長持ちするんだろうし……それでもこだわってやっているのは、それが楽しいからで趣味であるからで……趣味だとしても楽しみ方、やり方は人それぞれ好きにするのが一番良いはずだ。


「食事を作る上で気をつけるべきなのは健康と安全かな。

 それはどんな状況でも立場でも守らなきゃいけないことだと思っているよ。

 そこさえ守れていれば後は好みの問題だからねぇ……まぁ、安全に関しても色々な意見があるから、自分であれこれと考えるのも大事かな」


 あれこれと考えながらそんな言葉を続けると、フキちゃんは腕を組んで首を傾げて……フキちゃんなりに考えを整理しようとしているようだ。


「この食品は健康に良い、いや、健康に悪い。

 そんな話がそこら中に転がっていて……でもその食品、俺ずっと食べているよな、それで健康だよな、研究機関とかも特に問題視していないよな。

 なら問題ないよな……みたいな感じだね。

 前の仕事の関係であれは危険これは危険って本出して、健康グッズ売る会社の社長さんと話したことあるけど、このままじゃ50年後に病気になるとか言われたけど……まぁ、うん、その頃にはどうしたって病気くらいはしているよねぇ」


 そこからはそんな雑談をしながら足を進めていく。


 今日のカレー勝負は多種多様、様々な食材を使うことになっている……その全てを買うとなるとカゴ二つが満杯になることは確実で、あまりゆっくりもしていられないから、さっさと集めなければ。


 買ったら今度は下処理があり、本番の料理があり……その際にはフキちゃんにも手伝ってもらうことにしよう。


 獲物がカレーとなればコン君達は大喜びとなるはず、作っている最中も食欲でその目を煌めかせることは確実で……あの目で見られたならそんなに期待してくれているのかと嬉しくなるはずだし、やる気も湧いてくるはず。


 そうなればきっと家事の楽しさにも目覚めてくれるはずで……と、そんな目論見でのカレー大会のための買い物は、特に問題もなくあっさりと完了し……皆で荷物を分けて元気いっぱい帰宅したなら、早速カレー作りのための準備に取り掛かるのだった。



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