第347話 家事の楽しさ


「洗い物でしっかり雑菌を落とすのが大事ってことは当然、その洗い物をする場所も清潔にする必要がある訳で……料理をするんだから尚の事流し台の周囲は綺麗にしておく必要がある。

 ただ綺麗に洗うだけじゃなくて殺菌も必要で……そのためにキッチンなハイターとかが存在している訳だね。

 包丁、まな板、食事をするテーブル、台拭きも定期的に綺麗にする必要があって……泡タイプだと流し台にも使えるから、それで流し台も綺麗にしておきたいね。

 特に肉や魚を調理した後には、きっちり掃除をしておきたいかな……目に見えない肉汁とかに混じって食中毒菌が撒き散らされている可能性があるからね。

 食中毒菌を撒き散らさないようにするって意味で、肉を水洗いするのは駄目だって言う人もいるね、水しぶきに混ざって拡散されちゃうから」


 なんてことを言いながら流し台の掃除の仕方を教え……それが終わったならトイレ掃除や風呂掃除の仕方を教える。


 ついでに風呂場を使い終わったなら冷水をまいておくとカビが出にくいなんて話もして……それが終わったなら一旦休憩ということで居間に戻り、冷えた体や手を温めながら、ボタン付けの実演を行う。


 裁縫も……出来た方が良いスキルなのは間違いない。


 完璧に行う必要はないにしても、取れかかったボタンを付け直すくらいは出来た方が良いだろう。


 お金に余裕があればプロに頼むという手もあるんだけど……ボタンくらいはなぁと思ってしまう。


 それが終わったならようやく料理……の、初歩の初歩を教えることにする。


 台所に向かい、炊飯器と鍋を用意し……それから米を洗いながら説明を始める。


「じゃー、ここからは料理の初歩、一人暮らしを始めた時にどんな料理をすべきか話していこうか。

 料理が得意で既にレパートリーがあるなら、それを作れば良いんだけど……そうじゃない場合はとりあえずご飯を炊く、そして味噌汁を作る、これだけでOKだよ。

 ご飯を炊くのは簡単……お米をさっと洗って、お米の上に置いた手の甲が水に浸かる程度の水を入れて、炊飯器にセットしてスイッチオン。

 そして味噌汁は……何か適当な具を入れてお湯を沸かして顆粒出汁を入れてとかして、最後に味噌で完成。

 ご飯と味噌汁があればそれなりの栄養がとれるし、お腹も膨れるからね……あとは市販の惣菜でもあれば良いかな。

 更に生卵で卵かけご飯にしたり、納豆で納豆ご飯にしたりしても良くて……何気に納豆って安くて栄養価高くて、ご飯を美味しく食べられるから一人暮らしでの優等生なんだよねぇ」


 なんてことを言いながら炊飯器にセットしたなら冷蔵庫の中から適当な具材……ワカメと豆腐を取り出し、ついでに玉ネギも用意しての味噌汁作りを始める。


 炊きたてご飯と卵か納豆、それと味噌汁があればそれなりの栄養を取れるし、腹も膨れるし……健康にも悪くはない。


 コスパだってそこまで悪くないし……料理に慣れてない時はこれで十分、ここをスタートラインにして頑張っていけば良いはずだ。


「野菜が足りないと思ったら味噌汁の具を野菜にしたら良いし……キノコとか肉とかでも良いし、適当に具を入れてもそれなりに美味しく仕上がるのが味噌汁の良い所だね。

 とにかくこれを毎日続けて……市販の惣菜で飽きてきたら惣菜を自分で作っていけば良い。

 今はちょっと検索したら常備菜のレシピが出てくるから、それを見てやるとか……シンプルに野菜炒めでも良いね。

 スーパー行って安い野菜買って、ちょっとしたお肉とかソーセージとかと一緒に炒めて塩コショウ。

 これだけでも美味しいし、栄養価も中々悪くないよ。

 ……あとはコールスローサラダなんかも悪くないかな。

 キャベツを細かく刻んでニンジンや玉ネギを刻んで……タッパーに入れたらそこにコーンの缶詰を入れて、市販のコールスロードレッシングを入れてかき混ぜる。

 これだけならそこまで難しくないしそれなりに保つし、食物繊維もとれるからね」


 味噌汁を仕上げたら野菜炒めを作り、コースルローサラダを作り……それらを盛り付け居間へと配膳していく。


 ご飯と味噌汁、野菜炒めとサラダ、それにお茶を用意して実際に食べてもらって……獣人的には少し物足りないかもしれないけど、それでもしっかりとした食事になっているし、満足出来るはずだし……簡単な料理でも良いということをフキちゃんとコン君達に味わってもらうことにする。


『いただきます!』


 配膳が終わったなら皆でそう声を上げて箸を取って……食事をしながら更に解説を続ける。


「トマトなら洗ってそのまま食べられる、ブロッコリーなんかは茹でればそれで食べられる。

 茹でればそれでOKって野菜は結構多くて……ホウレン草、アスパラ、オクラ、モロヘイヤなどなど、ここら辺も簡単で美味しいからオススメだね。

 肉系もとりあえず焼いて塩コショウしておけば美味しく食べられるし……そこら辺をやりつつ、あとはカレーでも作れたら立派なもので、そこら辺を毎日続けていれば上達するはずだよ。

 あとは……家事をしながら料理番組を見たり、レシピ本でも動画でも良いから見たりしながらやってみると良いかな」


 コン君とさよりちゃんは口をもぐもぐと動かしながらもしっかりと聞いてくれているようで、うんうんと頷き……テチさんは我関せずといった様子でただ食事に集中している。


 そしてフキちゃんは……一気に詰め込みすぎたのか、目を見開きブツブツと言いながら食事を続けていて……うん、今日はこのくらいにした方が良いようだ。


 自分の中で消化するというか、色々と考えてみる時間も必要だろうし……と、そう考えて解説を止めて食事に集中する。


 食事が終わったら食器を片付けて……先程説明した通りに洗って見せて、乾燥機にセットする所までやってみせる。


 それから流し台周辺の水を拭き取り、使った布巾をしっかり干し……それから休憩しようとすると、フキちゃんがずいっと前に出てきて口を開く。


「主婦になったらこれより難しいことを毎日やるんだよね……毎日かぁ。

 ……実椋さんは毎日家事してて楽しいんですか? 楽しいならどこらへんが……?」


 そんなフキちゃんの疑問の声を受けて俺は……どう返したものかと頭を悩ませ、悩みに悩み抜くのだった。



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