第346話 家事修行


 それからコン君達がいつものようにやってきて、フキちゃんとの挨拶の後、何故だかコン君達まで参加しての家事教室が開かれることになった。


 まずは掃除。


「家事ちゃんとしたい!」

「しっかり覚えておきたいですから」


 と、そんなことを言ってコン君とさよりちゃんはノリノリでクイックルな簡易モップを手に家中を駆け回り……フキちゃんはそんな簡単な道具でも持て余した様子で、拭き方も適当でだいぶ埃を残してしまっている。

 

 これは……フキちゃんが悪いと言うよりも、掃除をした経験がないのが悪いのだろう。


 掃除という概念は理解しているけども実際にしたことがなく、いきなりやれと言われても戸惑ってしまう……と、そんな動きをしている。


 いくら幼い頃に働いていて壁の向こうで言う小学校中学校に行ったことが無いとは言え、家か仕事場で掃除の手伝いくらいしているものだと思うのだけど……甘やかされたお嬢様なのだろうか?


「端から順番にやっていくと良いよ。

クイックルなモップの目的は拭き掃除をこなすことにあるから、隙間なく丁寧にやっていこうか

 モップで取り切れないゴミがあったら分かりやすい所にまとめておいて、後で掃除機とかホウキで取ったら良い」


 そう助言して実際にやってみせると、フキちゃんはすぐに真似をして上手くこなしてくれて……うん、やっぱりただ経験が無いだけのようだ。


 ……しかし経験が全くないとなると、色々教えなきゃいけないことが多そうだけど……うん、それでもしっかりとやっていくとしよう。


 クイックルなモップの次は掃除機、我が家の掃除機は充電式のコードレス、軽くてパワフルな高級品となっていて……まずはそれを使っての掃除をしてもらい、畳部屋の際の注意点などを教え……それから倉庫にいって、捨てずに置いておいた曾祖父ちゃんが使っていた昔懐かしい、コード式かつ重くパワフルでもない掃除機の使い方を教えておく。


 コードレスとは全く別物で、力がいるしコード管理が面倒だしで、


「こ、こんなの覚える必要あるの!?」


 と、フキちゃんが悲鳴を上げていたが……今も見かけることは見かけるし、職場などで使うことになることもあるだろうから、しっかりと教えておく。


 それが終わったら窓拭き、障子の管理、天井なんかの埃落としに、ワックスがけについても教えるだけ教えておく。


 リフォームしたてだし、倉庫とかは大掃除の際にしたばっかりで、やる必要はなく……あくまで現物を見せての説明だけだけども、それでも一応念のためだ。


 それから更に細かい事も教えていって……掃除が終わったら洗い物だ。


「……洗い物に教わることなんてあるの? スポンジに洗剤つけて洗ったら終わりじゃないの?」


 コン君達がいつもの席に座り、フキちゃんは俺の隣に立っての授業開始直後、フキちゃんがそんな声を上げてくる。


「確かにそれも洗い物の一部なんだけど、あくまで一部だけであって、他にもやることは色々あるんだよ。

 まず洗い物は汚れごとに仕分けること、油汚れとか納豆を食べた茶碗とかは水につけておくこと、そして何故洗剤を使う必要があるのか理解すること、洗ったら拭くか乾かすかして、しっかりしまうこと。

 スポンジ以外のたわしの使い方だって色々あるし……スポンジにも種類があるからねぇ」


 と、俺がそう返すとフキちゃんは目を丸くして首を傾げ……コン君達は目を輝かせて興味津々といった表情になる。


「じゃぁまずは洗い物の目的なんだけど、それは食器の汚れを落とすことにある。

 ……んだけど、表面的な汚れを落とせばそれで良い訳じゃなくて、食器についた雑菌なんかを綺麗に洗い流したりすることが何よりの目的なんだよね。

 そこを怠ると食中毒になるかもしれない訳で……ただ漠然と食器をスポンジでこするんじゃなくて、その辺りの目的意識をしっかりとした上でやる必要があるんだ。

 たとえば洗剤……洗剤をつけたらはいそれでOKという訳じゃなくて、洗剤を泡立たせてその泡の力で汚れや菌を食器から浮かせて洗い流すことが大事なんだ。

 だから洗う前にスポンジを濡らして握って泡立たせて……食器全体、出来るだけ隙間なく泡だらけにする。

 その上で綺麗に泡を洗い流して……そこから更に乾燥させることで、残った菌を殺していくんだ。

 だから洗った直後の濡れた食器をすぐに使うってのは良いことじゃなくて……まぁ、それで食中毒が起こることなんてまずないんだけど、それでも台所を預かる身としてはしっかり気を付けたい所だね」


 他にも皿を拭く布は定期的に殺菌消毒したいとか、流し台や洗い桶も定期的に殺菌消毒しておきたいとか、スポンジも消毒するなり新しい物に書い直すなりすべきで……そこらを説明したなら、収納からガラス製の水出しポットを取り出し、それ用の取っ手付きスポンジも取り出し、実際に洗って見せながら説明を続ける。


「俺も一度やらかしちゃったことがあるんだけど、手を抜くとこういった瓶が食中毒の原因になりやすいんだよね。

 取っ手付きのスポンジで隅々まで……汚れが残りやすい底はもちろん、胴体部分も首部分もしっかり丁寧に洗って、泡を流したらもう一度洗っても良いくらいだよ。

 そのくらいしっかりやらないと汚れが残ってヌルヌルした何かが内側に張り付いたりして……それに気付かずお茶を淹れちゃってそれを飲んで、腹を下すって訳だね。

 それにすぐに気付けたなら良いんだけど、気付かずに飲み続けて体調悪化して……なんてこともあるからね。

 料理もそうなんだけど、口に入るものを管理するって大変だし重要なことなんだよ」


 と、そう言って俺がポットを洗ってみせていると、コン君が自分もやりたいと言ってきて……取っ手付きスポンジを渡してあげて、ポットを俺が持っての練習を開始する。


 しっかり丁寧に、隅々まで洗ったなら何度か水で流して……それが終わったらさよりちゃんの番。


 さよりちゃんが終わったなら……と、フキちゃんの方を見ると、先程とは違った真剣な表情となっていて、ポットとスポンジを受け取ったなら丁寧にしっかりと洗ってみせるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る