第341話 フルーツ
翌日、ある物を作ろうと台所で準備をしていると、いつものようにやってきたコン君達が、いつものように手洗いうがいを済ませてから台所へとやってくる。
そして定番のいつもの椅子に座り……そこから見つめるのはまな板の上のレモンとオレンジ、それとリンゴ。
「今日は果物でなんかするの? フルーツヨーグルト?」
それを見てコン君がそんな事を言ってきて、俺は果物を洗う準備をしながら言葉を返す。
「フルーツヨーグルトならもう少し種類が欲しいところだね。
そうじゃなくて今日はドライフルーツとかを作る予定かな……それなりに作ってあったんだけど、テチさんが全部食べちゃったんだよね」
「おー……ドライフルーツ、オレも好き! えっと、どんな作り方するんだっけ?」
「まずは洗う、柑橘類は特に丁寧に。
カビが残っているとまずいからで……それと今日は重曹を使って洗ってみようか」
「じゅうそう? なんでそれで洗うの?」
「レモンとかの表面って、レモンが自ら作ったワックスブルームってので覆われているらしくてさ、これが舌触りや味に影響する、なんてのを見かけたんだよね。
重曹で洗うとこれが綺麗に落ちるらしくて……それを今から試すとこだね」
と、そう言ってから俺はボウルに水を張り、その中に重曹を溶かし……レモンとオレンジをボウルの中に入れて、キッチンタイマーを1分にセットする。
「こうやって重曹を溶かした水につけておけば良いらしいんだけど……あんまり長くつけておくと味が落ちちゃうらしいんだよね。
だからつけるのは1分だけ……これが終わったら流水で洗い流して、それで完了だね。
洗い終わったら、大きめ鍋を用意して煮込む感じかな」
まずは重曹につけこみ、流水で丁寧に洗い……そうしたらレモンとオレンジを鍋で茹でる。
水の状態から入れて火をかけ、沸騰したら終了。
鍋から取り出したら輪切りにして……今度はそれぞれ違うフライパンを用意して丁寧に並べていく。
隙間なく並べたらレモンとオレンジがギリギリ水没するくらいの水を入れて、たっぷりの砂糖を入れたら弱火で煮込む。
時間は大体30分……じっくり煮込んだらクッキングペーパーに並べていって、少し前に買った乾燥機の登場だ。
この乾燥機は機械の上に何枚かの穴あきプレートが設置されていて、そのプレートの上に乾燥させたい物を乗せて、プレート全部を覆う蓋をしスイッチを入れるという代物で……ドライフルーツにジャーキー、干し魚はもちろん、専用の道具を追加したら燻製まで作れたりもする便利アイテムだ。
これが無い場合はオーブンで焼いて乾燥させてしまうというのも手で……、
「自然乾燥はあまりオススメしないかな、日本の気候だと乾燥しにくいやらカビやすいやらだからねぇ。
砂糖もガッツリ使っていて、それがまた悪くなりやすい要因で……もっと砂糖を増やせばそれを防げるんだけど、今度は甘くなりすぎちゃうからね」
そんな説明をしながら作業を進めていくと、コン君はメモを取りながらふんふんと頷き、さよりちゃんもまた可愛らしいメモ帳とペンでメモを取っていく。
いつか二人で仲良くドライフルーツを作ることもあるのかもなぁ……なんてことを考えながら乾燥機のスイッチをオンにしたら使った道具の片付けを始める。
「あれ? にーちゃん、リンゴはどうするの?」
するとコン君がそんな質問を投げかけてきて……俺はレモンとオレンジを煮込んだ砂糖水……すっかりとレモンシロップとオレンジシロップと化したそれを新しくした用意した二つのホーロー鍋に詰め替え、それをコン君に見せる。
「この砂糖水というかシロップ、このまま捨てるのはもったいないでしょ?
だからこれでリンゴを煮込もうかと思ってね……煮込んで食べても良し、アップルパイにしても良し、更に煮込んでジャムにしても良し、美味しくなるよ。
他の果物でやっても良いんだけど、ここまで強くレモンとオレンジの香りが出ていると、リンゴが一番合うんだよねぇ。
煮込まずにグラニュー糖やシロップを振りかける手もあるんだけど、リンゴを煮込みたくて俺はこっちの方法にしているね」
見せながらそう説明し、それが終わったらリンゴを洗い皮むきをし、綺麗に切り分けていって……レモンシロップ、オレンジシロップ、それぞれでリンゴを煮込んでいく。
「あ、ちなみにだけどレモンとオレンジは乾燥させる前にチョコレートをかけても美味しく出来上がるよ、その場合は砂糖を少なめでも良いかな。
乾燥させたら細かく砕いてバニラアイスに入れたりしても良いし、ホットケーキにふりかけても良い。
使い方は色々……なんだけど、今のテチさんはチョコの匂いが駄目みたいで今日は無しだね。
ホットケーキは……どうだろう? 1枚焼いてみてOKそうなら作ってみようか」
テチさんは最近ダラダラすることが増えてきた、吐き気はないようだけど味の好みも変わってきて……妊娠の影響なのだろう。
その結果、すっぱいものを好むようになり、ジャムやドライフルーツを物凄い勢いで食べることがあり……糖分が少しだけ心配だったりする。
まぁ、基礎代謝が違うし、毎日しっかり運動してるしで、そこまで心配する必要はないのだけど……次回産婦人科に行くことがあったら相談かな。
それか糖分抜きのひたすらすっぱいドライフルーツとかを作るかだけど……そうすると今度は苦味が強くなりすぎるんだよねぇ。
なんてことを考えているうちに乾燥機のアラームがなり、ドライフルーツが出来上がり……リンゴも形が崩れる寸前といった感じに出来上がる。
まずドライフルーツを一つ一つ丁寧にお皿に盛り付けて、リンゴは器に盛り付けて……盛り付けが終わったらカフェイン抜きの紅茶を人数分淹れて、居間へと持っていく。
すると何を思ったかダンベル筋トレをしていたテチさんが、汗を拭ってからコタツに入り込み……コン君とさよりちゃんもこたつに滑り込み……台所が少し寒かったのか、しっかり温まってから上半身を出す。
そんな3人の様子に笑いながら配膳を済ませて……『いただきます』と声を合わせたなら、まだ温かさの残るドライフルーツを手に取る。
うん、当然ながら美味しい。
重曹で洗ったおかげか舌触りが少し良くなっている……気がする。
かなり薄切りにしたので皮の食感がいまいち分からず、皮が大きく残る場合なら、結構な違いがあるのかもしれないなぁ。
そしてテチさんやコン君達の舌にも合ったようで、夢中で食べてくれている。
「レモンもオレンジもリンゴも、紅茶に入れても美味しいよ。
流石に全部一緒はアレだけど、どれか一つ気に入ったのを少しだけ入れてみると良いよ」
と、俺がそう言うと3人は早速それぞれ好みのものを……コン君はリンゴ、さよりちゃんはオレンジ、テチさんはレモンを入れて、ゆっくりと紅茶を楽しむだった。
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