第339話 ロコモコ


 まかない、かぁ。


 飲食店でもない我が家としては食材が余るということはあまりないし、クマ獣人を満足させられるメニューがどれだけあるのかという問題もあるし……どんなものを作ったら良いのやらと悩んでしまう。


 普通に食事を作るのなら出来なくもないが……そうなると予算がかさむというか、給料を払えなくなってしまうなぁ。


 どうしたものだろうか……と、悩んでいるとすべり台で心ゆくまで遊べたのか、汗と雪の湿気とで毛をしんなりとさせたコン君とさよりちゃんが窓を開けて、縁側から家の中へとやってくる。


 するとあらかじめタオルを用意していたテチさんが二人に向けてタオルを投げて、コン君達はそれで汗を拭き取りながら、外遊び用の防水ズボンなんかを脱いでいく。


 脱いだそれを受け取った俺はハンガーにかけて長押に干してあげる。


 そうこうする間にタオルで水分を拭き取ったコン君達は、こたつへと滑り込んでいき……全身をもぐらせて少ししてから顔をバフッとこたつから出してくる。


 こたつの中で乾かしたらしい顔の毛は冬毛ということもあり、フッカフカになっていて……そんな毛を揺らしながらコン君が声を上げてくる。


「にーちゃん! お腹空いた! なんか食べたい!

 ……最近和食ばっかだったから、なんか洋食が良いな!」


「洋食かぁ……準備はしてなかったけど、何か有り物で作ってみるかなぁ」


 と、そう返した俺が台所に向かおうとすると、クマ高校生3人は自分達のまかないではあんなに悩んでいたのに、こっちはあっさり!? と、そんなことを言いたげな驚きの表情を向けてくる。


 ……いや、普段からお手伝いをしてくれる子供と高校生を一緒の扱いにはしないでしょ。


 と、そんなことを言いたくもなるがグッとこらえて台所へ向かい、冷蔵庫の中や在庫の野菜をチェックしてから、居間に向けて声を上げる。


 材料的に作れそうなのは……。


「イノシシ肉のハンバーグに、作り置きデミグラスソースと半熟卵のロコモコ丼っぽいので良いかな?」


 するとコン君達が返事をするよりも早く、高校生達が声を上げる。


「それそれ、そういうやつ!」


「めっちゃ美味しそう!」


「ロコモコって何!? 海外のやつ!?」


 ふーむ……ロコモコ丼で良いのか。

 

 こういうのならまぁ、作り置きをしておけばそこまで難しくもないし、腹にたまるし野菜多めにしたら栄養バランスも悪くないか。


「それならご希望のまかないもロコモコ丼になるかな、肉だけはたくさんあるからね!」


 居間にも聞こえるようそう返すと、高校生達は歓声を上げ……そんな歓声の中、コン君とさよりちゃんはいつもの見学のために台所に駆けてくる。


 そしていつもの椅子に座り……それを見て苦笑した俺は、


「今日は簡単な料理になるから見ていてもつまんないかもよ?」


 と、そう言ってから料理に取り掛かる。


 ……とは言え、本当に今日は楽な料理だ。


 デミグラスソースは作り置きがある、イノシシ肉ハンバーグを作るのは少し手間だけども、今まで何度も作ってきたものだし慣れたものだ。

 

 半熟卵もタイマーでしっかり管理したら良いだけだし……あとはサラダを用意したなら完成なのだからなぁ、コン君達としても見所はないだろうなぁ。


 なんてことを考えながら料理をしていると……庭の方からわーきゃーと元気な声が聞こえてくる。


 うん? と、首を傾げながら振り返り、庭の方へと視線を向けると……窓の向こうのことではっきりとは見えないが、どうやらどこかの家の子達が庭のすべり台を見つけて遊んでいるようだ。


 帽子を被った上で、スノーウェアのような服を着込んでいるからパッと見では分からないけども……恐らくアレはリス獣人の子供達だろう。


 うちに新年の挨拶に来て、そしてあのすべり台を見かけて夢中で遊んじゃっている、という感じだろうか?


 ……そうなると、コン君達からすると自分達の遊び道具を取られたような形になる訳だけど……と、コン君達の方に振り返ってみるが、コン君達は特に気にした様子もないようだ。


 そんなことよりも目の前にある完成間近のロコモコ丼が気になるようで、俺もそちらに意識を戻して完成を急ぐ。


 完成したなら配膳に入り……人数が多いのでコン君達にも手伝ってもらう。


 配膳が終わったなら席につき……高校生達には、ダンボール箱も机にしてもらっての食事が始まる。


『いただきます!』


 そう声を上げたなら皆で一斉に、箸なりスプーンなりを構えてロコモコ丼を口に運ぶ。


 デミグラスソースはご飯に合う味に調整していて、ハンバーグもそうしてある。


 それを合わせたならご飯に合うのは当然で、その上ソースはたっぷり、カレーかと言うくらいにかけてある。


そして半熟卵や野菜、野菜に軽く振りかけたサラダスパイスも良い箸休めになってくれて……そんなロコモコ丼もどきを皆は夢中で食べていて……うん、良い出来上がりとなったようだ。


 そして高校生はそれ以上の勢いで食べ進め即完食。


 ……うーむ、流石の食欲だなぁ、この食欲に毎回まかないは……厳しいものがあるなぁ。


 そんな食事中の中も庭の子供達は元気に遊んでいて……ふと気付けば人数が増えてしまっている。


 なんとも楽しそうで嬉しそうで、夢中といった感じではしゃいでいて……うん、悪くない光景だ。


「……ただ雪かきするだけじゃなくて、ああやって遊具を作れば需要があるかもねぇ。

 ただ遊具を作るだけじゃなくて、そこで子供達が怪我しないように遊んでいるかの監督役もやれば、十分な報酬がもらえるんじゃないかな?

 そうやって子供達のために頑張るなら……まぁ、たまにの差し入れはしてあげるよ」


 その光景を見やりながら思いついたことを口にすると、高校生達は悪くないかもとそんな顔をし始める。


 雪かきなら誰でも出来るが、あれだけのすべり台を作るとなると大変で、子供の監督となると子供に任せる訳にはいかないだろう。


 今は冬……子供達の仕事はお休みで、勉強のための期間になるらしいが、かといってずっと勉強している訳でもないだろうし、それなりの遊ぶ時間もあるのだろう。


 そんな子供達の監督役……というか子守役ならば相応に需要があるだろうし、報酬もあるはずだ。


 そう考えての俺の言葉にはテチさんも同意だったのだろう、コクコクと頷いてくれて……高校生達も庭の方を見ながら頷いてくれる。


 彼らもあの光景を悪くないと考えたのだろう。


 そうして彼らはその辺りの交渉をするため、簡単な礼の言葉を口にしてから町会長の芥菜さんの下へと向かうのだった。



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