第337話 雪遊び
翌日。
おせちは完全になくなり、雑煮やらもなくなっての朝食後、今日で三賀日も終わりかーなんてことを考えながらもち米を炊いて餅つき機の準備をしていると……縁側の二重窓をストトトトンと叩く音が聞こえてくる。
「コン君かな」
もうすっかり冬で雪も積もってきたということで、しっかり閉めておいたその窓を叩いてくる心当たりはコン君しかなく、そんな声を上げながら縁側へと向かうと、窓の向こうにソリに相乗りしているコン君とさよりちゃんの姿があり、窓を開けてあげると二人が、
「きたよー!」
「きましたー!」
と、そう言いながら入ってきて……手に持っていたスキー用ストックをソリの近くにストンッと差し込む。
それから窓を閉めて洗面台に向かって、手洗いうがいをしたならこたつへと全身を滑り込ませ……冷えた体を存分に温めてから顔を出し、二人同時に声をかけてくる。
「今日はねー、雪がすごかったからソリできたよ! 楽しかった!」
「久しぶりにソリで遊べて楽しかったです!」
と、そんな言葉の通り二人はソリでここまでやってきたようで……ソリに乗ってあのストックを雪に刺してこいで、ソリをボートのようにしてきたのだろう。
今日までの積雪は30cmちょっと。
……コン君達の身長を考えると、結構な深さになってしまうというか、その中を歩いて来るというのは難しいのだろう。
体重が軽いからそこまで沈み込まないのかもしれないけども……転んだ拍子とかに深く沈んで雪に埋まってしまったら大変だろうしなぁ。
「そっかそっか、朝から大変だったね、疲れてお腹も減ったでしょ?
今お餅の用意をしているから、つきあがったら皆で食べようか」
俺がそう言葉を返すとコン君達は、
「そんなに疲れてないけどお餅は食べたい!」
「このくらいは平気ですけど、実椋さんのお餅は食べたいです!」
なんてことを言って体をよじらせながらコタツを這い出てきて、居間の隅に置いてある……ちょっと前に買った、コン君達用のプラスチックタンスへと駆け寄り、お手伝いスタイルへと着替えを始める。
俺としては休んでくれて構わないのだけど、やる気になってくれているのならと二人に手伝ってもらうことにし……食べ尽くしてしまった餅を補充するため、餅つき機をフル回転させていく。
炊いて炊いて餅つき機に投入して、餅とり粉で丸めていって……お昼頃には餅作りが終わり、手伝ってくれた二人へのごちそうタイムが始まる。
作りたての野菜いっぱいお肉いっぱいのお雑煮と、あまーく仕上げたお汁粉と。
コン君はゆず味噌も好きなので用意してあげて……朝食を終えて昼寝をしていたテチさんの分も用意し、皆でお餅を楽しむ。
これで三日目……おせちは壊滅したが、まだまだお餅に飽きる様子はなく、この分ならしばらくはお餅でなんとかなりそうかなぁ。
なんてことを考えながら食べたなら歯磨きをし……コタツにてお茶を飲みながらの休憩をしているとソワソワした様子のコン君が隣に座って声をかけてくる。
「にーちゃん! 外で遊ばない? 雪いっぱいだよ! ほら、見て見て、外が真っ白!」
そう言われて外を見ると、かなりの大きさのボタン雪が降っていて……朝から更に積もったようだ。
積雪50cmかそれ以上か……。
窓からは冷え切った空気が漂っていて、外の気温がかなり冷えていることを示しているが……ワクワクソワソワしているコン君の期待を裏切れないなと観念して頷き、言葉を返す。
「良いよ、何して遊ぶ?」
「えっとね……雪合戦とか、あとは滑り台作りたい! おっきいすべり台作ってソリとかで滑るの!
もうちょっとしたら町内会でスキー台作るんだけど、その前に滑りたい!」
「へぇー……すべり台、かぁ。
……すべり台ってそんな個人で作れるものなの?」
「作れるよ? 雪集めて山にしたらだいたい完成だよ!」
と、コン君にそう言われてテチさんの方を見ると、テチさんは『大変だが頑張ってやれ』とそんな表情をし……同情混じりの視線をこちらに向けてくる。
この家にいて力仕事が出来る大人は俺だけで……その視線に頷き返した俺は、覚悟を決めて防寒着を身につけていく。
明日は筋肉痛で倒れるかな……なんてことを考えていると、玄関のチャイムがなり、着替えを済ませてから玄関へと向かう。
そうして戸を開けると……、
「あけましておめでとうございます!」
「お年玉いただきにきました!」
「厚かましくて申し訳ないっすけど、今年はあんまり貰えなくて、どうかお慈悲を!」
と、そんな声を上げる……以前タケさんが連れてきたクマ獣人の男子高校生3人が並んでいる。
一度会っただけの相手にお年玉をせびりに来るとは中々アグレッシブに失礼だけども、俺も高校生の頃はこんな馬鹿なことをしていたなーと懐かしくなり……同時に、なんともタイミング悪くここに来てしまった3人に同情する。
「あけましておめでとう。
もちろん、高校生にふさわしいお年玉をあげるよ。
あげるから……これから一緒に子供達と遊んでもらおうか」
そんな3人に俺がそう言うと、3人は遊ぶくらいでお年玉がもらえるならと、目を輝かせながらうんうんと頷く。
「コン君、さよりちゃん! タケさんとこのおにーさん達が手伝ってくれるってさ!」
3人の承諾を受けて俺がそう声を上げると、居間からコン君達が駆けてきて……高校生達以上に目を輝かせての笑顔でお礼を口にし始める。
すると高校生達は照れくさそうに頭をかき……、
「よし、早速遊ぼう!」
「どこで遊ぶ? 庭か? 公園か?」
「何して遊んぶんだ?」
なんてことを言いながら玄関を出ていく。
するとコン君達はそんな3人を倉庫へと案内し……倉庫にしまってあったスコップなどの道具を3人に持たせて戻ってくる。
スコップを手にした3人の表情はこれから何をさせられるのか、薄々察したものとなっているが……お年玉は欲しいし今更やっぱり止めたとも言えず、コン君達の指示に従っての雪山作りを始めることになる。
もちろん俺もスコップを取ってきて、それに参加して手伝って……そうして始まった4人での雪山作りは、完成まで2時間というかなりの重労働になってしまうのだった。
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