第十章

第336話 初詣


 元旦は一日子供達をもてなすことになり……翌日。


 作り置きの餅でもって朝食を作り上げ、まさかの二日目でおせち全滅の危機に陥るなんてこともありつつ朝食を終えたなら、実家に帰っていたコン君とさよりちゃんが、ボサボサと薄く積もった雪を蹴り上げながら駆けてくる。


「きーたよ!」

「きましたー!」


 雪が降ってきたからか、二人はジャンパーを着込んでいるが、家に入るなりいそいそと脱いで、テチさんに手伝ってもらって居間の長押にかけてあったハンガーにかけてもらう。


 するとコン君の胸元に、太い紐で下げられた大きなガマ口財布があり、その膨らみ具合からかなりのお年玉をもらったようだ。


 昨日俺とテチさんがあげて、家に帰ってから両親や集まった親戚からもらって……かなりのお大尽となっているようだ。

 

 さよりちゃんは……財布を胸元に隠しているようで、厚手のワンピースの胸元が大きく膨らんでいる。


「お大尽だねー」


 俺がそう言うとコン君は自慢げに胸を張り……それからこたつに滑り込んで、冷えたらしい手を突っ込み温め始める。


 腕や足は冬毛に覆われて温かいけども、手のひらはむき出しでそこが冷えてしまったらしい。


 ……さよりちゃんみたいに手袋をしたら良いのに……と、思うが、コン君のようにアクティブだと、手袋をしてもすぐに外してどこかに忘れてしまうのかもしれないなぁ。


「にーちゃん、今日はどうする? 初詣にいく?」


 両手をコタツに突っ込んだ結果、小柄なのもありすっかりとコタツに埋もれたコン君の声が聞こえてきて……俺は席をコン君の隣に移動し、顔を覗き込めるようにしてから言葉を返す。


「初詣に行く予定だけども……良いの? ご両親といかなくて?」


「うん、今日も宴会だから! なんかねー、去年は景気が良かったからたっぷり飲むんだって。

 だからにーちゃん達と行く!」


 元気いっぱいなコン君の言葉を受けてテチさんに視線をやると、テチさんは問題ないと頷き、着替えるためか自室に向かう。


 俺も立ち上がって外出の準備をし……準備が終わったならジャンパーを着直したコン君達と共に御衣縫さんの神社に初詣に向かう。


 多くの参拝客で賑わい、以前のお祭りのように多くの出店が並び……そこの値札には衝撃的な値段が書かれている。


 10円、20円、高くて50円。


 その値段で焼きソバやタコ焼きにお好み焼き、リンゴ飴や綿飴などのお祭りの定番メニューが並んでいて……どうやら正月だけのサービス、らしい。


 よく見てみると量が少なめと言うか、子供サイズになっていて……注文しているのも子供ばかりで、大人達はポチ袋を握りしめてあれこれと買い物をする子供達をただ微笑ましく見守っている。


 正月のサービスというよりお年玉や飴売りの売上としてお小遣いを手に入れた子供達向けサービスのようで……それを見るなりコン君とさよりちゃんが駆けていって、胸元の財布での買い物をしようとし始める。


「先にお参りいくよー!

 終わったらいくらでも食べて良いからねー!」


「ふたりとも買い物はあとにしなさい!」


 そんな二人に俺達が声をかけると、二人はズザザッと地面を滑りながらブレーキをかけて……コン君は照れて頭をかきながら、さよりちゃんは両手を握ってもじもじとしながらこちらへやってくる。


 コン君はともかくさよりちゃんがこうなるのは珍しいが……それだけお年玉が嬉しく、お正月を楽しんでいるのだろう。


 そんな二人の手を取って参拝をすませ……ついでにおみくじを買う。


 おみくじも10円、なんともお手頃価格で……4人同時に開くと、全員の顔が笑顔になり……そのあと見せ合うとまさかの全員大吉。


 ……なんだろう、こう……何らかの配慮を感じるというか、なんというか……。


 うん……自宅に帰ったら扶桑の木に何かお供物でもしておこうかな……。


 と、そんな参拝を済ませたら出店がある一帯へ向かい……大人用なのか、出店から少し離れた場所にある屋根付きの休憩所のベンチに腰を下ろす。


 運動会でよく見るような布屋根があって、木製テーブルと木製ベンチがあって……近くにある出店では甘酒やお茶、アルコール類などが売っている。


 こちらの値段は……ガチガチの屋台価格で、うん、大人からはしっかり取る方針らしい。


 御衣縫さんらしいというかなんというか……まぁ、うん、注文するのが礼儀かと二人分の甘酒を注文する。


 大きな紙コップ入りで熱いくらいに熱してあって……ゆっくりすすると、程よい酸味がありつつ強烈に甘くて美味しい。


「はぁ……寒い中で飲む甘酒は最高だねぇ」


「ああ……少し量が少ないのが残念だが……。

 あとはお餅でも入っていればなぁ……」


 俺が呟くと、テチさんがそんな言葉を返してきて……帰ったらお汁粉かな、なんてことを思う。


 テチさんの食欲は全く落ちていない、お腹は少し大きくなってきていて……つわりらしいつわりもないまま、どんどんと食べて食べて、食べただけお腹の子は順調に育っているようだ。


 何のトラブルもないまま順調過ぎる程に順調で、これも扶桑の木のおかげだとすると、やっぱり供え物がいるよなぁ……なんてことを考えていると、大きなトレーを両手で持ったコン君とさよりちゃんがやってくる。


 テチさんと二人で立ち上がってトレーを受け取ってテーブルに置いてあげると、ベンチに座ったコン君達はテーブルに身を乗り出して手を伸ばし、トレーの上にある様々な品をテーブルの上に並べていく。


 自分達の前だけじゃなくて俺達の前にも並べてくれて……どうやら俺達の分まで買ってきてくれたらしい。


 大人のことなど気にせず、自分の分だけ買っていれば良いのにと思うが……周囲でも同じような光景が広がっていて、どうやらこの出店はそういう仕組のものであるようだ。


「……なるほど、子供達がお小遣いを得るタイミングで、たくさん買い物させて勉強させようってことかな?

 買い物の仕方とか、家族への気の使い方とか……学校がないからこその勉強の機会って感じかな」


 なんてことを呟くと、テチさんが頷いて同意してくれて……それから俺達はコン君達にお礼を言ってから目の前の料理に手を伸ばす。


 そうして普通の出店よりもうんと美味しい……なんだかどこかで食べたことがあるというか、俺のレシピのままというか……とにかくそんな料理をお腹がいっぱいになるまで楽しむのだった。

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