第335話 今年は……
ぺったんぺったん、俺とコン君が餅を突き、突き上がったならテチさんとさよりちゃんが餅とり粉をまぶした上で丸めていく。
そうやって人数分……俺達の分を突き終わったなら、お汁粉やきなこ餅にして食べ始め……念のためということで更にもち米を炊いておく。
そうこうしているうちに時計が10時を指し……子供達の駆ける足音が聞こえてきて、元気いっぱいな、
「あけましておめでとーございます!」
と、そんな声が聞こえてくる。
犬顔、猫顔、狐顔と多種多様な姿を子供達が挨拶をしながら駆けてきて、玄関の前に立とうとするがすぐに俺達が庭にいると気付いて庭へやってくる。
庭へやってきたならテチさんが縁側に座って良いとジェスチャーで示し、ちょこんと座った子供達はおぼんに乗せた飴を見せてきて、
『飴売り飴売り、いーりませんか!』
と、リズムに乗った向上を一斉に上げる。
するとテチさんが、
「くださいな」
と、返し、子供達から一つずつ飴を受け取って持ってきた菓子皿に入れてから、支払いのポチ袋を……芥菜さんにはいらないと言われたけども、それでも用意したものを渡す。
すると子供達はお盆をおいてポチ袋の中身を確認し、にへーっとした笑みを浮かべて、
『ありがとー!』
と、元気いっぱい声を上げる。
「ついでに餅も食べていくと良い」
そんな子供達の笑顔に釣られて笑顔になったテチさんがそう言うと……まだまだ稼ぎたい子供達はお腹いっぱいだからとお礼だけ言ってお盆と持って駆け出し……空腹が勝った子供達は縁側に座ったまま、餅の出来上がりを素直に待つ。
残ったのは犬顔の男の子と猫顔の女の子。
よく似たトレーナーとズボンという格好から兄妹という感じだろうか。
その子達につきたてきなこ餅を渡すと、嬉しそうな顔をしながら頬張り「んー!」なんて声を上げながら笑顔で餅を堪能し……そうこうしているうちにまた別の子供達がやってきて元気な声を上げる。
リス顔、クマ顔、タヌキ顔……いや、うん、分かっていたことだけど、本当に色々な種類の獣人がいるんだなぁ。
どの子も可愛くて元気いっぱいで……そんな子供達がどんどん集まってくる。
そんな中で一番多くやってくるのがリス獣人の子達で……畑で頑張って働いてくれている子達やその弟妹が多いようだ。
それでもテチさんはどんな獣人の子でも別け隔てなく優しくしていて……そこは流石保育士さんだなぁ。
その間俺はコン君と餅をついてついて量産して……それを笑顔で食べた子供達も段々と餅つき……というか、餅作り全般を手伝ってくれる。
食器を片付けたり洗ったり、簡単な作業から難しい作業まで、お餅のお礼だと言って手伝ってくれて……我が家がいつになく賑やかになっていく。
子供達があちらこちらを駆け回り、縁側では食事タイム、庭では餅つき。
正月らしい光景……ではないかもしれないけども、獣ヶ森らしい光景ではあって、疲れも忘れてその光景を見やりながらの餅作りに熱中する。
いつか俺達の子供もこの光景に混ざり込むのかな……なんてことを考えながら。
そうして休憩をしながら餅作りを続けて15時過ぎ、流石にもち米も品切れとなって子供達はそれぞれの家に帰っていき……杵と臼を洗って倉庫で乾燥させ、洗い物や片付けを終わらせて居間に移動すると、ちゃぶ台の上の菓子皿には山盛りの金太郎飴が積み上がっていた。
「おお……塵も積もればなんとやらだなぁ。
これだけ量があると食べるのも大変そうだねぇ」
こたつに入りながらそんなことを言うと、テチさんが金太郎飴を一つ手にとって口に放り込んでから言葉を返してくる。
「これからまた親戚の子達がやってきたりするから、その子達にあげたりでなんだかんだ減っていくものだから心配の必要はないぞ。
湿気って駄目になることの方が稀だからなぁ……ああ、そうだ、飴の絵には種類があるから、今のうちに確認しておくと良い」
「うん? 絵に種類? 金太郎飴と言えば金太郎が定番なイメージだけど……」
なんて言葉を返しながら一つ手にとって、表面にまぶしてある餅とり粉を払ってみると……可愛らしいリスの顔の絵が描かれている。
別の一つにはどうやら犬の絵が描かれていて……コン君が手に取ったのには猫の絵、さよりちゃんが手に取ったのは狐の絵のようだ。
「……もしかして、飴売りの子達、それぞれの種族の絵になっている?
リス獣人の飴ならリスの絵、みたいな……手が込んでいるなぁ」
俺がそんな事を言いながら飴を口に放り込むと、テチさんはその通りだと言いながら二個目を口に放り込み……そこからしばらくは疲れを癒やすための飴タイムとなった。
「んー……甘すぎなくて美味しい飴だねぇ。
ただ食紅で色をつけただけじゃなくて、ちゃんと色ごとに味を変えているみたいで……フルーツとかコーヒーもあるのかな……。
……これ、結構なお金かかっているんじゃない?」
砂糖も安物ではないだろうし、水飴ももしかしたら良いものを使っているのかもしれない。
そうした素材でしっかりと練り上げて、可愛らしい絵を作り上げて……技術料だって安くはないだろう。
「それはまぁ……正月から美味しくない飴は食べたくないし、変な飴を売りやがってって子供達を恨みたくもないだろう?
だから町内会が用意したものはどれも一級品だし、各家庭で用意するにしても自分達の子供にもたせる以上は変な飴は用意しないさ、豊作を願う縁起物でもある訳だしな。
流石にあげた金額通りの価値まではいかないが、決して安物ではなくて……余ったりした場合は神社に持っていけば、神社の方で施設とかに送ってくれて……子供達が楽しめるようになっているな」
「オレ、正月の金太郎飴すごく好き! スーパーで売ってるのと全然違うから!」
「私もすきですね、とっても美味しいですし……たくさん食べると大きくなれるって話もあるんですよ」
テチさん、コン君、さよりちゃんの順でそう言ったなら、3人同時に二個目の飴へと手を伸ばし口の中に放り込む。
絵が違えば当然使っている色が違い、色ごとに味が違い……微妙な違いではあるものの、飽きずに楽しむことが出来る。
そういう訳で皆でダラダラとしながら飴を食べ……正月特番を見てお茶を飲み、風呂に入り夕食の準備をし……と、一日を過ごしていく。
美味しいものをいっぱい食べて皆で笑顔になって、正月にしたことは一年間影響する、なんて話もあるけれど……そうだとしたらこの1年は美味しさと笑顔に溢れたものになってくれそうだ。
そんなことを考えながら夕食を仕上げていき……今日から始まる新しい年をどう過ごしていくか、なんてことにまで思いを馳せるのだった。
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