第332話 年取りのごちそう


 大掃除やら何やら忙しく過ごして……31日の大晦日。


 前々から掃除を進めていたこともあって、あえて大掃除をする必要もないのだけど、それでも儀式のようなものだからと家全体を掃除して……それから年取りのごちそうを準備していく。


 豆腐も納豆も完成済み、鯛があると良いとかで、鯛はスーパーで注文しておいて……残りは大根とスルメとコンブ。


 スルメはまぁ火で炙って食べるとして、大根とコンブはどんな調理法でも良いらしいのだけども、どうしたものか……。


 大根ってどうにもサブになりがちというか……主役にするならやっぱりコンブ煮込みが良いだろうか。


 コンブを入れただけのお湯で大根を煮て、柔らかくした上で旨味を吸わせたら、それで完成。


 あとは砂糖と酒、味噌を混ぜ合わせて煮込んだ甘味噌を塗って食べるという感じだ。


 甘味噌に柚子を混ぜて柚子味噌にしたり、砕いたクルミを混ぜてクルミ味噌にしたりしても良く……シンプルながら大根の美味しさを味わえる料理になっている。


 豆腐と納豆と鯛と大根煮。


 出汁に使ったコンブも捨てるのではなく、佃煮にでもしたら良いんだろうし……うん、悪くないかな。


 あとは……定番ということで年越しそばと……我が家の肉食獣が満足出来るよう、天ぷらとかトッピング用の肉でも用意しておいたら良いかな。


 更にお餅とお餅を食べるようのあんこも小豆から煮込んでおいて……。


 と、そんなことを考えながら料理の準備をし……一人で料理を進めていると正午を過ぎた頃に、テテテッといつもの足音が聞こえてくる。


 ……今日は自宅の大掃除とか色々忙しいはずなのになぁ……なんてことを考えていると、


「きーたよ!」


「きましたー!」


 と、いつもの二人の声が聞こえてくる。


 それからいつも通り洗面所へと向かい、手洗いうがいを済ませてから台所へとやってきて……いつもの椅子に座る。


「大掃除は終わったのかい?

 ……と、言うか、家にいなくて良いのかい? せっかくの大晦日だろう?」


 天ぷらの準備を進めながら俺がそう言うと、コン君達はお互いを見合ってから言葉を返してくる。


「大掃除はちゃんと手伝ったよ! ごちそうの準備も! 仏壇と神棚にもお祈りした!」


「このあと私達の家はだいたい宴会になっちゃって、居場所がないのでこっちにきました。

 実椋さん家は宴会とかしないでしょう?」


 コン君、さよりちゃんの順番での言葉になるほどなぁと頷いた俺は……まぁ来る予感はしていたし、料理は準備していたしで構わないよと返す。


「―――ただ宴会が無いだけにご飯もごちそうって程豪華じゃないからね?

 年取りのごちそうと年越しそば、そのくらいで終わりになると思うよ」


 続けてそう言うと、コン君達は全く構わないのか、うんうんと頷き笑顔を見せてきて、元気な声を上げる。


「全部美味しそうでおっけー! おそばも大好き!

 しかも天ぷらそばとかすごく豪華だよ!」


「私もおそば大好きですし、他の料理も楽しみですねー!

 ……お肉料理もするんですか? お肉出してますけど」


「ああ、うん、甘めに味付けしてそばの具にしようかと思ってね。

 肉そばってやつで……コン君達なら喜んでくれるでしょ?」


 さよりちゃんの問いに俺がそう返すと、コン君はぶんぶんと力強く頷いて……それを見て笑った俺は、作業を進めていく。


 とは言え、そう難しい料理でもないので、ささっと終わり……終わったなら出来上がった年取りの料理を仏間に持っていく。


 そうして仏間にある神棚の前に、倉庫にしまわれていた和食を乗せる台というかお盆というかそれっぽいアレ、足つき膳を持っていって……そこに年取りの料理を並べていく。


 手作り豆腐、手作り納豆、大根にスルメ、コンブに鯛のおかしら付き。


 年末年始にやってくる福の神……つまりは大黒天の好物が大豆で、他の品々も好物で、それらをお供えして我が家に来てくださいと、お膳の前に正座をしてのお参りをしたなら、そのまま仏間で果報団子を皆で食べる。


 果報団子……ようするにお汁粉だ。


 小豆を砂糖で煮込んであんこにして、そこにお餅を入れたら完成。


 これを食べると果報が来るとかで……それを食べる時やると良いとされていることがあるのだけど、それはあえてせずに皆が完食したあとに、ポチ袋を取り出し、コン君、さよりちゃんにあげることで代用とする。


「果報団子は団子の中にお金を入れておいて、お金が出てきたら果報に恵まれるってものらしいんだけど……流石にちょっとね、衛生的に良くないからね。

 団子の中には入れずに直接手渡しにするよ、コン君とさよりちゃんに500円ずつ。

 ……ああ、うん、お年玉とはまた別のものだから、そんながっかりしなくて良いんだよ? 明日になったらお年玉もあげるからね?」


 俺の説明の途中で露骨に肩を落としたコン君にそう言うと……コン君は、ぱぁっと笑顔になって頷き、ポチ袋を開けて中の確認をし始める。


 500円と言ってあるのにわざわざ確認し、500円を取り出し手に持ち、持ち上げて見つめて……銀行でお願いして綺麗な新品硬貨にしてもらったのだけど、それも良かったのかコン君は本当に嬉しそうだ。


「よし、お祈りが終わったら居間で夕食だけど……コン君とさよりちゃんは今日は何時までいれるのかな? 年明けまで頑張る? こっちは何時までいてくれて構わないけど」


 なんてことを言いながら立ち上がると、コン君達は……、


「明日までいるよー!」


「泊まっていってもいいですか? どうせ大人達も朝まで宴会なので……。

 あ、お泊りセットはテチさんのお部屋にいつも置いてありますので!」


 と、そう言って居間へと駆けていって……テチさんは、


「宴会をしない静かな年末というのも良いものだな……子供達とそば食べてテレビを見て……。

 あ、そうだ、特番! 年末特番とかあまり見たことないんだよな!

 なんだっけ……歌とかお笑いとか色々あるんだっけ? 実椋の料理を楽しみながらゆっくり特番を楽しむのも良さそうだなぁ」


 なんてことを言いながら居間へと向かい……今からテレビの音声と賑やかな歓声が聞こえてくる。


 まぁ、うん……皆が楽しんでくれているならそれで良いかと、そんなことを考えて納得した俺は、居間に運ぶ料理の準備のために、台所へと向かうのだった。




――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


応援や☆をいただけると、コン君達のお年玉が増えるとの噂です。

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