第331話 餅の味付け



 ある程度の量の餅が出来上がり、大皿に山盛りとなったなら、それを食べるためのあれこれを用意していく。


 まずは海苔、そして砂糖醤油にきな粉、ゴマ団子風に楽しむためのゴマの砂糖和えに、ゴマ味噌、クルミの甘露煮に栗の渋皮煮を刻んだもの、まぶして食べる用の砕いたクルミと栗とそれらの粉末に砂糖を和えたもの。


 ちょっと洋風に醤油バターに醤油チーズ、ハチミツバターにハチミツシナモン。


 そして……個人的にかなり好きな食べ方となるお揚げも用意しておく。


 いなり寿司と変わらない味付けで煮込んだお揚げに餅を入れるとなんといったら良いのか……いなり寿司とも巾着餅ともまた違った、出来上がりとなってくれる。


 甘くてじゅわっと汁がしみ出てきて中はもっちもち。

 

 餅と甘さの相性が良いのは周知の事実だけども、この食べ方だと特にそれを堪能することが出来て……何個でも食べられてしまう。


 そうした調味料なんかを用意して小皿に分けていると、コン君達が目をキラキラと、口の中をジュルジュルと、鼻息をスンスンとさせながら覗き込んできて……もう我慢出来ないといった様子だ。


「……居間に行って着替えておいで、その間にサラダとお新香の用意をして配膳して、お茶を淹れたら食べるから。

 大晦日にまたお餅作って年取りのお祈りをするから、無理して多く食べる必要はないからね。

 正月になったら杵と臼でも作るし……神社とかでも食べられるんでしょ? だから今日は程々にしておくと良いよ」


 そんな二人にそう声をかけるが、聞こえているのかいないのか、二人は調味料と山盛りの餅を見つめ続けて……それから俺の視線に気付いてハッとなり、居間へと駆けていく。


 その後姿を笑いながら見送ったなら、これから餅をたっぷり食べる皆のために食物繊維多めということで、水菜と大根とキャベツのサラダを作り、お新香もたっぷりと用意し……まずはそれらから配膳していく。


 すると素早く着替えを終えたコン君達は露骨にがっかりするが、それでもちゃんと食べ始めてくれて……その間にお湯を沸かし配膳をし、お茶を淹れて居間へと持っていく。


 居間の食卓はすっかり準備完了、それぞれ調味料を自分の小皿に盛り付けていて……コン君はクルミの甘露煮、さよりちゃんはハチミツシナモン、テチさんは栗の渋皮煮を選んでいて……全員もう待ちきれないといった表情だ。


 俺は当然お揚げを選んで……選んでから手を合わせて皆一緒に、


『いただきます!』


 と、声を上げ、山盛りの餅へと箸を伸ばす。


 お揚げに餅を突っ込んで包み込み……いなり餅にしたなら口へと運ぶ。


 ジューシーで甘くてもちもちしていて……うん、美味しい。


 厚めのお揚げに包んだ分、量が多くていくらでも食べられるという訳にはいかないけども、満足度はかなり高くて、口の中が幸せでいっぱいになる。


 俺がそんなことを考えて満足感を表情に出す中、コン君とさよりちゃんは餅を口いっぱいに押し込んで一生懸命に顎を動かしていて……テチさんもかなりの勢いで餅を食べていく。


「……一応注意しておくけど、餅は喉に詰まりやすい食べ物だから、よく噛んでゆっくり食べてね?

 特にテチさんは何かあったら大変だから気をつけてね」


 そんな3人を見て俺がそう言うと……テチさんは少しだけ不満そうな表情になり、さよりちゃんが何かを考え込み……それからコン君の脇腹をつんつんと突いてから、何かをささやく。


 するとコン君がモクモクモクッと激しく口を動かし、口の中いっぱいの餅を飲み下し……それから声を上げる。


「にーちゃん、オレ達なら平気だよ! だってオレ達は歯が強いから!

 クルミの殻でも噛めちゃう歯で、餅もあっという間に噛み切れちゃうから、喉に詰まったりはしないよ!

 獣ヶ森でもたまにそーいうニュースあるけど、オレ達リス獣人はそういう事故になったことないんだー!」


 そう言ってからコン君は大きく口を開いてその鋭く輝く前歯を見せつけてきて……さよりちゃんはうんうんと頷き、テチさんはまだまだ自分達のことを分かっていないなと、そんな表情を向けてくる。


「な、なるほど……リス獣人自慢の歯があれば安心って訳だ。

 ……もしかして乾燥したお餅とかも食べられたり?」


 俺がそう返すとコン君は、


「え、うん、食べられるけど食べたくないよ?」


 と、そんなことを言いながらきょとんとした顔をする。


「ああ、いや、食べさせるとかじゃなくて、そのくらいの歯なんだって確認をしたかっただけだよ。

 ……しかしそっか、リスの歯だから平気ってこともあるのか……。

 ……その歯の鋭さって大人になってもある程度引き継ぐものなんだ? テチさんの前歯は普通の大きさだけど……」


 そんな言葉を俺が返すとコン君は「そうだよ」と言いながら頷き……今も尚口の中に餅を突っ込んでいるテチさんは、鼻息荒くうんうんと頷く。


 それからコン君はまた餅を口の中に押し込み……俺は二個の餅を食べて満腹、お茶を飲み始める。


「オレ、バターとかチーズも結構好きだなー……ただ、チーズは餅と似た感じだから、そこが残念かも。

 どっちもうにゅーんって感じだし」


 うにゅーん……伸びるということを言いたかったのだろうか。


「まぁー……お餅でチーズの代用品を作る人もいるくらいだからねぇ。

 アレルギーとかの関係で餅にコンソメとかで味をつけてチーズっぽくするっていう感じで……つきたてのお餅だとよりチーズっぽくなるみたいだね。

 ……まぁ、うん、食感が似ているだけで美味しいは美味しいでしょ?」


「うん! チーズだからケチャップかけても美味しいかも!」


 俺がそんなことを言うとコン君はピザ的なものを想像したのか、そんなことを言い……餅ピザはありかもしれないと、俺もそれに同調する。


 餅ピザにするならどんな具を乗せるか、どんな具が合うのか……そんな会話を始めると、なんだかもう餅ピザを作ることが決定事項のような流れになっていく。


「ん、んー……まぁ、おせちに飽きたら、かなぁ。

 それか鏡開きになってからとか……ま、まぁうん、お肉はたっぷりあるから、それなりに食べごたえのあるピザになりそうだね」


 その流れの中で俺がそう言うと……餅を十分食べているだろうに、獣人達はものすごい食欲の目になってしまうのだった。



――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。



応援や☆をいただけると、お餅の出来上がりがよくなるとの噂です。



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