第330話 お餅 実食


 もち米を食べ終えると台所からドゥンドゥンと餅つき機の音が聞こえてきて……その音をしばらく聞いていた俺は……少しだけ寂しくなって呟く。


「楽で便利だけど、やっぱり杵と臼も使いたいねぇ。

 そっちは正月になってからかなぁ」


 そんな俺の言葉に、手早く割烹着姿に着替えたコン君達も同意だったのかこくこくと頷き……うん、やっぱり餅つきは杵と臼だよなぁと、そんなことを改めて思う。


 ……もち米はまだまだある訳だし、しばらくの間は毎日餅でも良いかもなぁ。


 餅は出来立てこそが何よりも美味しく……道具を洗うとかの手間を惜しまないのなら毎日作るというのも、ありなんだろう。


 まぁー……餅作りは準備も本番も、片付けも大変なんだけども……。


 なんてことを考えながら体を休めてから台所に向かい……餅つき機の音が響く中、餅作りの準備を始める。


「まずはよく手から腕まで洗って……その上でビニール手袋をして素手で触らないようにする。

 テーブルを消毒したならクッキングシートを用意して、シートも調理用の消毒スプレーで消毒をする。

 そうしたらそこに上新粉を振りまいて……ここでお餅をこねる訳だね。

 それとボウルも用意して、こっちも煮沸なりスプレーなりで消毒して、ボウルより大きめラップを敷き詰めるようにしておく。

 消毒スプレーの湿り気でラップがぴっちりくっつくから、くっついたら軽く上新粉を振って……これで準備は終わり、お餅が出来上がるまで待機だね」


「……ラップ? ボウル? 餅つき終わったら丸めて食べるだけじゃないの?」


 俺の説明に対し、いつもの椅子に座ったコン君がそう返してきて……俺がその辺りの説明をしようとすると、餅つきが完了したとのアラームが鳴る。


「お、終わったか。

 じゃぁここからはスピード勝負だからやりながら説明するよ、コン君達にも手伝ってもらうからね。

 お餅は乾燥させたらかなりの間、保存出来る保存食だけど、だからこそ最初が肝心! しっかり頑張ろう!」


 なんてことを言ったなら、まずはクッキングシートを敷いたテーブルの上にコン君とさよりちゃんの作業場を作る。


 二人のための小さなビニールシートを置いてそこに座ってもらって……餅つき機からつきたて餅が入った容器部分を取り出し、テーブルの上に置き、そうしてからつきたての餅を、熱いのを覚悟で掴んでちょうど良い大きさに千切り、上新粉たっぷりのクッキングシートの上に置いていく……というか、熱さもあって投げるような形になってしまう。


「あちちっ……とりあえずそのお餅をこねて丸めておいて。

 程よい大きさに丸めて、上新粉をまとわせて……これは餅とり粉って言って、あちこちにくっつかないように、持ちやすいようにそうする訳だね。

 他の粉……コーンスターチとかでも餅とり粉にはなるんだけど、舌触りとか味にも影響するものだから、お正月用はお高い上新粉を使いたい所だね」


 と、そんなことを言いながら次々に餅をちぎって並べていったなら……お次は本番となる、鏡餅作りとなる。


 容器の中に残った餅全部を用意しておいたラップを張ったボウルに入れ……入れたなら手早くボウルを叩いたり揺らしたりして、ボウルの中の餅の形を整えていく。


「鏡餅作りで大事なのは綺麗な形に整えることと、ヒビ割れを作らないこと、そしてカビさせないことで……上手く作る自信がない場合はこうやってボウルに入れて、ボウルの形に整えちゃうのが楽で良いね。

 ある程度叩いて揺らして形を整えたなら……ラップを素早く閉じて、空気を入れないよう隙間を作らないよう餅を綺麗に包み込む。

 ラップが保湿してくれて、ゆっくりと乾燥させてくれるからヒビ割れしにくくて、ぴっちりと隙間なく包めば包む程カビが生えにくくなってくれるから便利なんだよねぇ。

 ラップで包んだらボウルをひっくり返して取り出せば完成……同じ方法で2個作って、ラップのままでも良いから重ねたら鏡餅の完成だね。

 もちろん乾燥したあとに、ラップを剥がしてもよくて、その場合は……カビ防止に焼酎とかのスプレーをしても良いかもね」


 俺がそんな説明をしている中、コン君達はビニール手袋をした手で器用に餅を丸めていって……上新粉まみれとなって上品に仕上がった餅を、用意した皿の上に並べていく。


 つきたてのもちもちでホカホカで甘い餅が次々に並べられていき……作業が一段落したなら、洗い物……の前に、せっかくのつきたてなのだからと皆で食べることにする。


 まずは神棚に上げる分を用意して神棚に、次に仏壇の曾祖父ちゃんのとこに供えて、それからテチさんの分をお皿に盛り付けて、居間へと持っていって……俺やコン君達はまだまだ台所の作業が残っているので台所で一つだけ。


 味付けはなし、ただ餅だけを食べる形で……3人同時に口の中に餅を放り込む。


 俺は一口で、コン君とさよりちゃんは一口一口、餅を伸ばしたりしながら楽しんで食べて……餅の味を存分に楽しむ。


 つきたての餅はどうしてこんなに美味いのか……柔らかくてほんのり甘くて、香りも良くて。


 味も食感も香りも何もかもが最高で……全員無言でただ口を動かし続ける。


 そうやって食べて食べて……ゴクリと喉を鳴らして飲み下したなら、全員同時に「はー……」とため息を吐き出す。


 美味しい、本当に美味しい。


 もっと食べたい、あんこで甘くしたり醤油でしょっぱくしたり、きなこにクルミ、栗にだって合うはず。


 そんなことを考えると餅を更に食べたくなってしまうのだが……まだまだ作業は残っている、ここはぐっと我慢をして洗い物をし、綺麗にした餅つき機で再度餅をついていく。


 それが終わったらまた餅を丸めて鏡餅を作って……年取りのお供え物の分と正月の分を……大食い獣人基準で用意していく。


 正月には色々と来客があるらしいからその分も用意するとなると、今日はずっと餅作りをすることになりそうで……それから俺達は、この作業が終われば色々な味の餅を食べられるぞと気合を入れ直し、作業を続けていくのだった。




――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


応援や☆をいただけると、鏡餅の出来上がりが良くなるとの噂です。

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