第328話 師走の年末
忙しい年末に向けての準備は、それなりにしていたつもりなのだけども……そこからは目が回る忙しさとなってしまった。
牛節作りとそれに関わる道具の洗浄や手入れ、専用の解体小屋と調理場の建築手配、芥菜さんが仲介してくれた役場への届け出、そして年末年始のための料理の準備に残った大掃除に。
更には前々から買おうとは思いながらも買えていなかった車も買うことになり……ここで結構なお金を使うことになってしまった。
まずファミリーカー。
これからテチさんはお腹が大きくなって色々なことをするのが大変になってくる。
車があればその大変さが軽減出来るはずで……出産や出産後にも欠かすことは出来ないだろう。
今のところ何人子供を作るかとかは決めていないが、テチさんはたくさんの子供を欲しているようで……大家族になることを想定してかなり大きめのファミリーカーを買うことになった。
色は白、大きめのワゴンタイプでチャイルドシートや自動ブレーキやら何やら安全装備もしっかりつけての買い物なのでそれなりのお値段で……どうせ買うなら一緒に買った方が安くなるとのことで、畑用の軽トラも買うことになった。
カラーはテチさんの希望で水色、新品で森谷農園との文字を入れてもらって……ファミリーカーとその軽トラがあれば、大体のことには対応出来るだろう。
獣ヶ森の冬は結構な雪が降るそうなので、最初からスノータイヤにしてもらい……雪が降る前には納車してくれる、とのことだ。
そうこうしているうちに年末が近付き……大掃除を終えての28日、年取りの料理を作るために大豆の下拵えを開始した。
豆腐や納豆作りで大事なことは、良い大豆を揃えるというのもそうなのだけど、よく洗うというのが肝心だ。
ボウルに水を張り、その中でゴシゴシゴシゴシと皮が破れない程度の強さで洗い……徹底的に洗い、洗い終えたなら水につけておく。
一晩は水につける必要があるのでここで作業は一旦中断となり、29日。
まずは豆腐作りからになる。
「豆腐っておうちで作れるもんなんだねー」
いつもの椅子に腰掛けた割烹着姿のコン君がそう言ってきて、俺は頷き言葉を返しながらミキサーの準備をする。
「そこまで面倒って程じゃないし、美味しく出来上がるから手作りにこだわる人も結構いたりするよ。
手作りの出来立て豆腐は本当に別次元の美味しさだからねぇ」
なんてことを言いながらミキサーに水につけた大豆をいれていき……スイッチオン、クリーム状になるまでしっかりとかき混ぜる。
そうしたら鍋に水を入れてコンロで火にかけて……そこにドロドロになった大豆を投入、焦げないよう木べらでかき混ぜながら強火で煮て……沸騰するかなというギリギリのところで弱火にし、ゆっくりと10分程煮ていく。
この際、泡立ってしまったら木べらで潰すか、おたまで取り除くかして……煮たら木綿の腰袋に入れて、新しいボウルの上でしっかりと絞る。
当然というかなんというか、この時の大豆の熱さは結構なもので、かと言って冷めるまで待つと味が落ちてしまうので、耐熱のゴム手袋なりを装備した上で絞り上げ……絞って出てきたものが豆乳になる。
「木綿はこのあとにも使うから、多めに用意しておくと良い感じだね。
豆乳が出来たら鍋にいれて、これまた沸騰しない程度に温めて……にがりを投入。
木べらに伝わせるようにして鍋全体に入れて……2・3分して固まった部分と澄んだ液体の部分に分離していたらOK。
もししていなかったら更ににがりを入れてそっとかき混ぜて……あとは鍋の蓋をして10分くらい待つ。
待ったならなにか形になる容器……市販の豆腐のパックとかで良いからそれを用意して、底を切り取ってから木綿布を敷いて……大きなお皿とかトレーの上に鉄網をしいたらそこにパックを置く。
そこに固まりかけの豆乳を流し込んで……水分が下に出ていったら豆腐の完成だね。
一晩くらい冷蔵庫で寝かせるとしっかり固まってくれるかな」
なんてことを言いながら作業を進めていると、じぃっとその様子を見守っていたコン君が、半目になって声をかけてくる。
「にーちゃん、十分大変だと思うよ?」
「私もそう思います」
さよりちゃんまでがそれに続き……そうかなぁ? と首を傾げた俺は納豆の作業を始める。
「まぁ、納豆は本当に簡単だから……うん、工程は簡単なんだけどしっかり管理しないと腐っちゃうのが困りものだね。
納豆は出来上がるのにそれなりの暖かさが必要で……昔は結構な発熱をしていたテレビの側に置いておけばー、なんて言われていたんだけど、不摂生だし不確実だからあんまりオススメしないかな。
発酵に失敗するとカビるし腐るしで毒になっちゃうからねぇ……じゃぁどうするのかというと炊飯器とかの保温機能を使うか……保温発酵機を使うか、だね。
最近は手作りヨーグルトとかのためにしっかり温度管理してくれる発酵機っていうのがあって、値段も手頃で中々悪くないアイテムなんだよね」
そう言ってから俺は用意しておいた発酵機を取り出し、流し台の上に置く。
「30分程似た大豆をこれに入れて、納豆菌を入れて、あとは保温発酵のスイッチ入れたら完成、これが手作り納豆づくり。
納豆菌なんて持ってないよって場合は、市販の納豆をよくかき混ぜてから入れるってのも手だけど……まぁ、納豆菌なんて高いものではないから素直に買う方が良いかな。
……ちなみに納豆菌は他の菌を殺す力が強すぎるから、他の発酵食品を作っている時に一緒に作るとかはオススメしないよ。
実際お酒作りとかする人は納豆を食べるのすら厳禁らしいからねぇ」
なんてことを言いながら大豆と納豆菌を保温発酵機に入れて完成……うん、納豆も楽にできるなぁ。
……ただことが発酵だけにしっかり美味しくなるかは出来上がってみないことには分からないのだけど。
「うん、こっちは簡単! オレにも出来そう!」
「納豆は簡単に増やせそうですけど……お店で売ってるのもお安いんですよねぇ」
そんなコン君とさよりちゃんのコメントを耳にしながら、俺は台所の隅に置いてあった袋を持ち上げ……それをコン君達に見せる。
それは芥菜さんに用意してもらった高級なもち米で……そのために割烹着に着替えていたコン君とさよりちゃんは、一気に盛り上がり……豆腐も納豆のことも忘れて「餅!」「お餅!」と歓声を上げて飛び上がっての大喜びをするのだった。
――――あとがき
お読み頂きありがとうございました。
応援や☆をいただけるとお餅が美味しく仕上がるとの噂です。
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