第327話 肉節と相性が良い……


 肉節の味はタケさん達にも好評で……妊婦さん用のストレッチ運動をしに役場の方にあるという運動場に出かけていたテチさんにも好評だった。


 芥菜さんの所に試作品を持っていっても好評で、牛肉だから美味しいのは当然なのだけども、基本的に濃い味付けなので他の肉でもまぁまぁ食える程度にはなってくれそうで……補助金どうこうは芥菜さんの方で検討やら手続きを進めてくれるそうだ。


 そういう訳で翌日も引き続き肉節作りが進んでいて……そしてテチさんとコン君達が狩りに行っている中、俺はお好み焼きを作るための準備をしていた。


 なんでまたお好み焼きかと言えば、その理由はテチさんで……昨日、肉節の試食で一歩遅れたことでちょっとだけ拗ねてしまっていて、ご機嫌取りをしようとしたところ、肉節でお好み焼きを食べてみたいと、そんなことを言ってきたからだ。


 野菜と肉たっぷりの焼きソバを作って、その上に野菜と肉たっぷりのお好み焼きを乗せて、更に肉節をたっぷり振りかけるという超贅沢なお好み焼きを。


 お好み焼きは今までも昼食やら何やらで何度も作っていて……それをテチさんが好んでいたのは知っていたのだけど、まさかリクエストしてくる程だったとは。


 それも焼きソバに乗せてくれとまで言ってきた。


 普通そう言う場合は具無しで麺だけにするものなのだけど、テチさんは具有りでリクエストしてくれていて……もうこうなったら開き直って、具たっぷりボリュームたっぷり、カロリー度外視のごちそうを作ることにしよう。


 まずは焼きソバ。


 具は猪肉、キャベツ、ニンジン、ピーマン、玉ネギ、モヤシもちょっと入れてのリクエスト通りの具だくさん。


 味付けはソースメインで、小麦粉ばかりで飽きが来ないよう、刻み梅肉を入れて爽やかさを追加、これだけでも普通に食べられる一品になるはずだ。


 やっている人はあまり見かけないのだけど、濃いめのソース焼きソバに刻み海苔と刻み梅肉を乗せるとこれが中々のアクセントになってくれて、飽きずに楽しむことが出来る。


 今回はお好み焼きを乗せて食べる訳で、より飽きが来やすいはずで……良い仕事をしてくれるはずだ。


 お好み焼きもリクエストは具だくさん……どうしても焼きソバと被ってしまう具もあるのだけど仕方なし。


 刻みキャベツをこれでもかといっぱいに、猪肉も多め、そして天カスもしっかり入れて……爽やかさのために紅生姜も多めに。


 焼き上がって焼きソバの上に乗せたなら、青ノリも多め肉節をふりかけて……もちろんカツオ節も振りかける。


 何故かと言えば肉節はどう削ってもカツオ節のように薄くはなってくれず、あの焼き上がりのダンスも独特の食感もなく、物足りなくなってしまうからだ。


 薄くできないというのは肉節の明確な欠点でもあって……カツオ節の完成度の高さが逆に際立ってくる。


 ……肉節も商品化されて、研究が進めばカツオ節みたいに薄くできたり……するのかなぁ。


 なんてことを考えながら大量の……大食いリス獣人三人分の山のような野菜を洗い、切り分け、何個ものボウルの上に山盛りにしていって……それらを台所のテーブルの上に並べていき、いつでも調理出来るようにしていく。


 焼きソバ用の麺も冷蔵庫にあるし、ソースも完璧、梅肉もしっかり刻んだし……肉も冷蔵庫で出番を待っている。


 今日のテチさん達はタケさん達と一緒に狩りにいっていて……解体はタケさん達がいつも使っている解体小屋でやってくるそうなので、そこら辺の準備は必要なし。


 あとはテチさん達が帰ってくるのを待つだけだとそんなことを、山盛り野菜を眺めながら考えていると……ドタバタと慌ただしい足音が聞こえてくる。


「にーちゃーん! 今日は大猟だったよー!」

「ただいま戻りました」


「ほら、コン、さより、手を洗ったら肉を倉庫に運ぶんだぞ」


 それからすぐに玄関が開く音が聞こえてきて、そんな声が聞こえてきて……慌ただしい足音が洗面所に向かい、それからまた玄関、そこから倉庫へと向かっていって……少ししてから倉庫の方から台所や居間へと足音が移動してくる。


 コン君とさよりちゃんは調理の見学のために台所へ、テチさんは休憩のために居間へ。


 俺はコン君達に「おかえり」と言いながら、調理を開始し……特に工夫のない調理をささっと行っていく。


 焼きソバにしろお好み焼きにしろ、基本的には焼いて味付けをしたら完成な訳で、量が多いこと以外にこれといった特徴もなく、作業自体は簡単な作業となる。


 ……量が多いことが何より大変なのだけど、そこ以外は至って普通の調理だ。


 フライパンで野菜をしっかり炒めて旨味を出して、魚粉を使って旨味を更に追加、肉を入れて軽く炒めたら麺を入れてソースで味をつけて、蓋を閉じて蒸し焼き気味にして麺をふっくら美味しく仕上げる。


 お好み焼きは以前作った通りの作り方、キャベツ多め、キャベツや具に少なめの生地を絡めるようにして、フライパンに入れて蓋をして蒸し焼きにして……キャベツや具の水分でふっくらと生地をふくらませる。


 焼き上がったら、大きな更に焼きそばを敷いてその上にお好み焼き、ソースをたっぷり塗って青のりマヨネーズ、カツオ節……そして肉節は自分で好きな量をふりかけてもらうかと、大きなお椀に入れて……これで完成。


 多めの麦茶を用意して、コン君達に手伝ってもらいながら配膳をすると……お腹が空いていたのか、テチさんがお腹をさすりながら自分の席につき……コン君達も真似しながら席について、最後に俺が腰を下ろしての準備完了となる。


『いただきます!』


 いつもの挨拶をしたなら実食開始、まずテチさんが肉節入りのお椀を引き寄せ、カレー用の大スプーンでもって肉節をすくい上げ……ドサドサとお好み焼きの上にふりかけていく。


 たっぷりと……それは多すぎるだろうと驚くくらいにたっぷりと。


 コン君とさよりちゃんもそれに続き……俺は普通の量の焼きそばの上の、普通サイズのお好み焼きに、まずは味見だとちょっとだけ肉節を振りかける。


 そうして一口、肉節お好み焼きを食べてみると……うん、なるほど、分かっていたけど美味しいなぁ。


 大味とも言えるソースの味の中に、しっかりとした燻製の香りと旨味があって美味しく、ついでに歯ごたえもあるのがなんとも楽しい。


 肉は肉なんだけど、お好み焼きの中の肉とはまた違うというか……これほどの美味しさになるとはちょっと予想外だったなぁ。


 カツオ節はカツオ節で合うのだけど、それとはまた別の合い方というか……うん、驚く程美味しい。


 と、そんな感想を抱いたのは俺だけではないようで、コン君もさよりちゃんも、テチさんももちろん、猛然と箸を動かしていて……大皿に山盛りのお好み焼きがどんどん減っていく。


 当然肉節もどんどんおかわりされることで減っていて……うぅん、追加を用意しなきゃいけないレベルで減っていくなぁ。


 ……美味しい、本当に美味しい。


 テチさんの思いつきの結果がまさかの美味しさとなって、これ以上ない昼食にありつけた俺達は、それから食べ終わるまでの間ただただ無言で、目の前のお好み焼きソバを食べ進めていくのだった。




――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


応援や☆をいただけると、肉節の完成度が上がるとの噂です

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る