第326話 肉節 実食
タールをしっかり落としたらカツオ節用削り機で削り……やや厚めで硬めで小さく砕けたカツオ節のようなものが出来上がり、一摘みしてみて味見をする。
「ふーむ……なるほど……」
と、そう言ってから俺は茶碗を用意し、ご飯を盛り付け始め……そんな俺をコン君がなんとも言えない表情で見つめてくる。
オレにも味見させてよ! そう言いたげなコン君に俺は微笑みを返し、
「どうせ味見するなら美味しくしたいでしょ? すぐに出来るからちょっとだけ待っていて」
と、そう返してから盛り付けたご飯に生卵を落とし……牛節と冷蔵庫に保存しておいた刻みネギをふりかけ……それらを持って居間のちゃぶ台へと向かう。
「味見してみて、この食べ方が一番美味しいんじゃないかって直感で閃いてね……カツオ節のように出汁にしたり、冷奴とかに乗せたりして良いと思うんだけど、お手軽味見ならやっぱこれだね、卵かけご飯。
……早速食べてみようか」
ちゃぶ台に配膳し3人で同時に『いただきます!』と声を上げ、コン君が持ってきてくれた箸を受け取り、それから茶碗の中をかき混ぜて、醤油を少しだけ垂らす。
「牛節にも味がついているから醤油は少しで良いはず……牛節の味を確かめるためにも少なめにしておこうか」
なんてことを言いながらもう一度かき混ぜて、それから牛節たっぷり卵かけご飯を口の中に運ぶ。
まず感じるのは強い燻製の香り、そして牛肉の香りと旨味がきて……そこにトロっと生卵の食感と味、しつこくなりすぎないよう刻みネギがフォローをしてくれていて……うん、美味しい。
「高級なカツオ節というか、味の強いカツオ節というか……確実にカツオ節よりは美味しいねぇ。
旨味の強さは……どうだろう、カツオ節とどっこいどっこい……いや、安物のカツオ節よりは確実に上かな。
……普通に商品になってないのが不思議な美味しさだけど、やっぱり問題はコスパかなぁ。
牛肉が高くてしっかり燻製する燃料代が高くて……カツオ節の圧倒的コスパを実感しちゃうね」
なんて感想を俺が言っている中、コン君は無我夢中の凄い勢いでガツガツと牛節卵かけご飯を食べていて、さよりちゃんは少しずつ少しずつ味わうようにして食べている。
どうやら二人の舌にも合ったらしく、言葉もなく牛節に夢中になっている。
「手間もお金もかかるけど、その価値はありってところかなぁ。
……これを食べ終わったら出汁としてのチェックにラーメン作ってみて、冷奴も相性を試しておこうか。
年末のお供えに豆腐料理をあれこれ用意する必要があるから、しっかり確認しておかないとね。
……ああ、納豆に入れても美味しいかもしれないなぁ」
なんてことを言いながら食べ進めていると、早々食べ終えたコン君が目を煌めかせ、
「美味しい! 美味しい! 牛肉だった! ふりかけにしたい!!」
と、思っていることをそのまま言葉にしてくる。
「本当に……上品な美味しさですねぇ、ふりかけも素敵です」
さよりちゃんがそう続いてきて……俺は頷いてから言葉を返す。
「ああ、ふりかけは良いねぇ。
肉ふりかけとかはたまに見かけるし……色々な組み合わせでより美味しくなってくれるかも。
ふりかけにするなら、ゴマ、ショウガ、ノリ辺りの相性も試さないとだなぁ。
ふりかけの場合、保存性を高めることも出来そうで悪くないかもねぇ」
そう言ってから綺麗に食べ上げ……茶碗を流し台に置いて……汚れなどがこびりつかないよう、水をたっぷり入れておいてから二回戦目の開始、出汁として使えるのかチェックだ。
鍋でお湯を沸かし、削った牛節を入れて……しばらく煮立てて、薄茶色の出汁が出てきた色になったらザルとクッキングペーパーで濾して……醤油、砂糖、みりんを適量入れてひと煮立ち。
このスープに麺を入れても良かったが……出汁を味わうならつけ麺かなと思い至り、鍋をコンロからよけて冷ましておく。
その間に別の鍋を用意し、市販の中華麺を湯通ししてから竹ザルに上げて水切り、流水で軽く揉んでもう一度水切り、その上に刻みノリをふりかけたなら、一応の完成。
またも居間へと持っていって……3人分のお椀を用意し、スープを三等分に分けてから
『いただきます!』と二度目の挨拶、そうしたら箸を手に取り、麺をスープにつけて口に運ぶ。
そして咀嚼し、味わい……「なるほどなぁ」と声を上げてから感想を口にする。
「牛肉で出汁を取ると脂が出てしまってくどくなるんだけど、燻製で脂が抜けきっているからさっぱり爽やかに旨味が出ているねぇ。
冷やしつけ麺にして大正解というか……うん、普通のラーメンなら脂が欲しくなる訳だから普通の牛肉の方が良いだろうねぇ。
これは冷やし中華と並んで夏に食べたくなる麺料理だなぁ……付け合せもそれっぽくミョウガとかを揃えると良いかもしれない。
あとさっぱりと言うと……酢……いや、酢は合わないかな、うん、酢はやっぱり冷やし中華だねぇ」
俺がそんなことを言う中、コン君はまたも無我夢中、さよりちゃんは静かに食べていて……うん、こちらも気に入ってくれたようだ。
と、言っても所詮は素人の即席スープ、出汁以外の部分は正直市販品と大差ないのだけど、出汁部分でかなり美味しくなってくれているようだ。
「あとは他の肉でも出来るか……美味しくなるかだけど、そこはやってみるしかないかなぁ。
流石に牛節に勝てる肉はないと思うけど……そこそこの美味しさにならなってくれるはず。
美味しさが今ひとつなのは保存性優先ということで勘弁してもらって……あとは値段かぁ。
そこら辺の相談も芥菜さんとしておかないとなぁ」
なんてことを言っていると……縁側の向こうに見知った顔が姿を見せる。
タケさんと3人の子供達……どうやら牛節の味見をしにきたらしい。
まぁ、作るとは事前に言ってあったし、一週間かかるとも言ってあったし……これだけモクモクと煙を上げているのだから、興味を惹いてしまうのも当然だよなぁ。
「……牛節卵かけご飯を用意するので、洗面所で手洗いうがいをお願いします」
相手は将来のお客様、このくらいは経費のうちだろうと考えてそんな声を上げると、タケさん達一同は縁側からズイと家の中に入ってきて、洗面所へと……ドタバタと荒々しく足早に向かうのだった。
――――あとがき
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