第323話 タケさんの提案


 狩猟を終えたテチさん達が狩った獣というか、もう肉にしか見えないものを運んできて……すぐさま荷物倉庫にてタケさん達による解体が始まり、その間も俺は庭と台所を往復してのジャーキーを作り続けていた。


 美味しく食べられる部位は処理をして真空パックをしてもらって冷凍庫へ、それ以外の部位を保存する余裕がないので即ジャーキーへ。


 シャワーと休憩と栄養補給を終えたテチさん達にも手伝ってもらいながら作業を進めて……そうしているうちに解体を終えてシャワーを浴びたタケさん達も庭へとやってくる。


 庭へとやってきて……縁側に座って、少しの間こちらの様子を見ていたタケさんは顎を撫で「ふ~む」なんて声を上げてから……作業を進める俺へと声をかけてくる。


「実椋……お前それを商売にしたら良いんじゃねぇの?

 狩猟も害獣駆除を目的とするとどうしても肉が余っちまうからなぁ……捨てたり腐らせたりするより、供養にもなって良いと思うぞ」


 それを受けて俺は……作業の手を止めることなく口を開く。


「いやいや、商売は無理ですよ……俺もそこまで詳しくないですけど、食品って売るとなると、衛生とか安全とかで凄く厳しいんですから。

 ……狩猟肉をジャーキーにして売るとなると、多分ですが工場レベルの解体室と加工室が必要で、保健所の検査とかもいるはずですし、そこから更に販売許可とか、大手のジャーキーメーカーの味に追いついた上で手頃な価格にしないといけませんし……」


 するとタケさんは半笑いで「いやいやいや」と手を振りながら軽い声を上げ……それから言葉を返してくる。


「ここは獣ヶ森だぜ? 法律とか保健所とかそんな面倒くさいこと気にする必要はねぇんだよ。

 しっかり火を通せば安全なんだろ? ならそれで良いじゃねぇか」


「……い、いやいや……それでもいざ食中毒が起きた時には責任問題になりますし……」


「そこら辺はほら、自己責任ってやつよ。

 その分だけ値段を抑えるとか、あとは肉の持ち込み認めるとかしたら良いんじゃねぇかな。

 お前達もアレだろ? 冬の間はそこまで忙しくもねぇんだろ? ならその間何か内職するのも悪くねぇと思うぞ。

 それでもどうしても不安だってんなら……そうだ、ペットフードってことにしたら良い。

 あるだろ? ペットフードでもジャーキーがさ……それをどこかの馬鹿が食って食中毒になったとして、お前を責めるやつはいねぇだろうさ」


「えぇー……結構無茶苦茶言いますよねぇ」


 と、俺が返すとタケさんは「そうか?」なんてことを言いながら笑い……「ま、考えておいてくれよ」と、そう続けてから、いつの間にかコン君達と遊んでいた子供達の方へと歩いていく。


 それから子供達と一緒になって遊び始め……いつのまにか止まっていた作業の手を再開させた俺は、作業を進めながらタケさんの話についてを考え始める。


 獣を狩るか誰かが狩った獣を受け取るかして、それを解体して……ジャーキーに加工して販売する。


 加工法は味よりも保存性と安全性を重視してのガリガリジャーキーで……味付けに多少のバリエーションを出すくらいは出来るかもしれない。


 タケさんの言う通り法をある程度無視するとしても……やっぱり解体室と加工室はそれなりのものを、清潔な状態を維持出来るものにすべきで……そうなると多少の初期投資はすることになるなぁ。


 その上で採算は取れる……のだろうか?


 肉に関してはまぁ……タダ同然で手に入るけども、それでも商売をするとなったらお駄賃くらいは支払うべきで……うぅん、採算度外視になる気がするなぁ。


 なんて風に悩んでいるとテチさんがやってきて……作業を手伝ってくれて、そのついでとばかりに声をかけてくる。


「やるだけやってみろ……とは言えないが、まずは誰かに相談してみるのも良いかもしれないな。

 害獣駆除に関することなら町内会が協力してくれるかもしれないし、とりあえず芥菜さんに相談してみると良い。

 とりあえず……実椋が作ったガリガリジャーキーは私も美味しく楽しめたし、悪くないと思うぞ。

 コン達なんかは前歯が疼く時にちょうど良さそうだとかなり気に入った様子だしなぁ……意外と需要はあるかもしれないな」


「あー……なるほど? そういう需要もあるのか……。

 うーん……それならまぁ、そうだね、芥菜さんに相談して、良い返事がもらえそうなら考えてみようか。

 ……ただ本当に量産するだけっていうか、冬の間だけの内職って感じになるだろうから、そこまでは期待しないでね?

 畑や家事……それとお腹の赤ちゃんが優先だからね」


 と、そう返すとテチさんは分かっているとばかりにニッコリと微笑み……残っていた作業をどんどんと手伝ってくれる。


 正直お腹の赤ちゃんのことを思うと休んでいて欲しいのだけど……扶桑の木に特に動きはないし、このくらいは大丈夫……ということなのだろう。


 そう言うことならと何も言わずに手伝ってもらうことにし……夕方の少し前に大体の作業が完了となる。


 あとは簡単な片付けと掃除だけ、俺一人で手は十分と言うところまで来たので、今度こそテチさんと……コン君達やタケさん達にも休んでもらい、出来上がったジャーキーとお茶を楽しんでもらうことにする。


 獣人組全員が縁側に……横一列に並んで座り、リス組は両手でしっかりジャーキーを掴んでガリガリと、クマ組はどんどか口の中に放り込み豪快にガリガリと。


 ……その光景はなんとも言えないもので、笑ったら良いのやら和んだら良いのやら……とにかく皆美味しく食べてくれているようだ。


 塩分はややキツめ、真っ黒になるまで火を入れてこれ以上なく硬く……水分が抜けきっているので旨味は凝縮されているのだけど、好みの分かれる味になっていると思う。


 それでも獣人には美味しいものであるらしく……うん、芥菜さんに相談して問題なさそうならやってみるのも良いかもしれないなぁ。


 ペットフード云々は……獣人をペット扱いしているのかと怒られそうだし、やめときたいけど……法律的にどうなるか。


 芥菜さんだけでなく花応院さんにも相談して……それで問題なければそれも良いのかもしれないなぁ。


 なんてことを考えてひとまずの結論を出した俺は……自分でも味見してみるかとジャーキーの欠片を口にして、思いっきりに噛み……自分に噛み切ることは不可能だとの判断を下し、柔らかくなるまで根気よく飴のように舐めることにするのだった。




――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


応援や☆をいただけると、ジャーキーの仕上がりがよくなるとの噂です。

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