第322話 ジャーキーあれこれ


 これからテチさん達が狩った大量の肉がやってくるとなって、まず俺は冷蔵庫や冷凍庫に押し込んだ肉塊の処理から始めることにした。


 今日食べられる分を下ごしらえし、それ以外は燻製やジャーキーのためのソミュール液に漬け込み……台所の方の冷蔵庫へと移動させる。


 だけども倉庫の肉の量はその程度では全く減ったように見えない程大量で……しょうがないので、漬け込みも程々に薄味覚悟での燻製やジャーキーに仕上げてしまう。


 庭に燻製器を並べて、コンロ用燻製器もしっかりコンロに並べて、火は強めタイマー長めでセットして……もくもくと。


 そんな作業をしているとクマ獣人の大工、タケさんがいつものジャージ姿で……親戚の子供なのだろうか? 高校生くらいの体格の男の子を3人引き連れてやってくる。


 その子達はまだまだ獣の姿が抜けきっていないようで、もみあげ部分が体毛になっていたり、手の甲に体毛が残っていたりしていて……最近大人になったというか、大人になりつつある子供のようだ。


「よ、解体の手伝いにきてやったぜ。

 こっちの3人は親戚の子供達でな、手伝いをしたなら肉を好きなだけ食べられるつったら来てくれたんだよ。

 流石にオレだけじゃ手が足りねぇし……構わねぇよな?」


 片手を上げていい笑顔で、タケさんがそんな声をかけてきて……俺は笑顔での会釈を返してから口を開く。


「ええ、もちろん、構いませんよ。

 ……というかもう肉が多すぎて手伝いとか良いから食べてくださいって感じなんですよ。

 ただでさえ冷蔵庫が肉でいっぱいなのに更に肉が届く予定で……テチさん、張り切ってたから、かなりの量が来ちゃいそうですねぇ」


「今時期はどこの家もそんなもんだけどな。

 オレの家も来春までの肉を溜め込んでるし……ああ、そうだそうだ、ついでに肉の保存法についても教えて欲しかったんだがよ、ジャーキーってどのくらい保つもんなんだ? うちでも作ってみようかと思うんだが……」


「あー……なるほど、保存用ジャーキーですか……。

 今から作るんでちょっと待っていてください」


 そう言われて俺は、そんな声を返し……ひとまずタケさん達には縁側で座っておいてもらって人数分のお茶とお茶菓子を出してから台所のオーブンへと向かう。


 そこでは今丁度ジャーキーの加熱処理をしているところで……温度の設定と時間の設定を少しいじり、火力強め長めでの加熱を行う。


 そうやって加熱が終わったなら更に温度を上げて……120度程で10分加熱し、水分がすっかりと抜けきって真っ黒になったジャーキーを更に盛り付け、縁側のタケさん達の下へと持っていく。


「これが保存用に加熱したジャーキーになりますね。

 保存と美味しさの両立はどうにも難しいものでして……安全に保存するにはこれくらいしっかりと加熱する必要があります。

 以前俺が作ったのはなるべく早く食べてしまう、数日だけ冷蔵庫で保存する前提のもので……そのおかげで美味しさを優先することが出来たんですよね。

 そうじゃない場合……がっつり保存することを考慮した場合、このくらいの加熱処理が必要になってきて、美味しさとしては今ひとつなんですよ。

 食品工場とかだといろんな方法で殺菌できるし、色々な検査をした上で安全性を確定できるんですけど……個人の手作りとなると、どうしてもこうなっちゃうんですよね」


 自分で作って自分で味見などをして、自分で管理出来るのならもう少し美味しく出来るというか、安全基準のラインを下げられるのだけど……自分の手が届かない他人の家のこととなると、このくらいの安全対策は必要になってくるだろう。


 そうなるともう、硬くて噛み切れなくて……味とかはしっかりあるのだけど、食べるのが大変なジャーキーになってしまって……これはこれでいつまでも楽しめるから好きなのだけど、人にオススメ出来るかというと……どうにも首を傾げてしまう。


 そんな出来上がりとなっているジャーキーを見つめたタケさん達は「味見していいか?」とそう言ってから手に取り、スンスンと匂いを嗅いでから口に放り込み……めちゃくちゃ硬くて10分は噛んでいないと噛み切れないジャーキーを、バキバキッとジャーキーの音とは思えない音を出してあっという間に噛み砕いてしまう。


 タケさんだけでなく、子供達もあっさりとジャーキーを噛み砕いていて……俺が唖然とする中、笑顔のタケさんがからからと笑いながら声を上げる。


「なんだよ、普通に食えるじゃねぇか。

 確かに少し硬いが……味はしっかりあるし、旨味も出てる、これくらいの硬さなら文句なく食えるな。

 ……もしかして人間だとこの硬さはきついのか?

 そうすると……獣人っていうのは保存食向きの体してるのかもなぁ」


 そんなタケさんに俺は驚くやら呆れるやら笑うやら、なんとも言えない気分で言葉を返す。


「確かに……獣の力が宿っているっていうことは、噛む力だけでなく病気や寄生虫にも強い……んですかね?

 新陳代謝が段違いで……多分消化吸収能力も数段上で、多分塩分とかへの耐性もあるんだろうなぁ。

 ……そうすると塩分多めの液につけてオーブンでがっつり加熱したなら、かなりの安全性を確保できそうですねぇ。

 これから冬で……獣ヶ森は気温が氷点下に近いんでしたっけ? それなら冷蔵庫じゃなくて倉庫とかに放置でも問題ないかもですね。

 ……もちろん倉庫や容器もしっかり掃除するなり洗うなりして、消毒もしないとダメですけどね」


「そのくらいに寒くなる冬とは言え、生肉で放置は流石に無理だからな、ジャーキーにしておけば保存出来るってなら、挑戦する価値はありそうだ。

 腐ってるかどうかの判断も、オレ達の鼻なら簡単にできそうだしな……よし、実椋のレシピで作れるだけ作ってみっか。

 多少味が落ちるんだとしても、これなら文句ねぇだろ」


 と、タケさんがそう言った瞬間、子供達が物凄い視線でタケさんのことを見やる。


 その目はどうせなら美味しいものを食べたいとか、美味しいものを食べられると聞いたからここに来たんだとそう言っていて……タケさんは手をひらひらと振り、そんな視線を振り払おうとする。


「あー……今日のお礼はしっかり美味しいのを作るから大丈夫だよ。

 味を優先したジャーキーもすぐに食べるとか冷蔵、冷凍したら平気だから……ご両親と相談して上手くやると良いよ。

 とりあえず……今日は肉メインバーベキューでがっつり肉を消費するつもりだから、そのつもりで体動かして、お腹を空かせてくれて問題ないよ」


 俺がそう言うと子供達は、すぐにタケさんから視線を外し、こちらにキラキラとした……食欲に満ちた視線を向けてきて、それと同時にタケさんや子供達の耳がピンと立ち、全員で鼻をスンスンと鳴らし始める。


 それからすぐに森の方からガサゴソと音が聞こえてきて……タケさん達の落ち着いた様子を見るに、どうやら獣とかではないようだ。


 そうなるとテチさん達である可能性が高く……それを受けて俺は、獣を解体するための準備を手早く整えていくのだった。




――――あとがき


お読み頂きありがとうございました。


応援や☆をいただけると、子供達の食欲が増すとの噂です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る