第321話 再びの……


 ミカさんという不思議な人……というか存在との出会いを経て、それから屋台での食事をたっぷりと、疲れが飛ぶまで楽しんで……翌日。


 流石に疲れが残っているのか、いつもより一時間遅れての起床となり、朝食なども遅れての準備となり……ゆっくり楽しみ、軽く家事をこなしたなら玄関へと向かう。


 そこにはネットに包まれた扶桑の木があり……悪さをしようとしている訳ではなく、俺達を守ろうとしてくれていた扶桑の木を解放してやろうとネットに手をかけ外していく。


「守ってくれるのは嬉しいんだけど、勝手に増えたりは勘弁してくれよ」


 なんてことを考えながらネットを取り除いていって……そうして扶桑の木を自由にしたなら、改めて扶桑の木を手に入れた経緯を思い返す。


 そもそもは芥菜さん……町会長から種を貰ったのがきっかけだったか。


 芥菜さんが扶桑の木のことをどこまで知っていたのかは謎だけど、芥菜さんなりに俺やテチさんを守ろうとしてくれていたのかもしれないなぁ。


 ……改めて今度お礼に行くべきかなと、そんなことを考えていると……玄関の戸が開き、棒を肩に乗せたテチさんが姿を見せる。


「……うん? 鍛錬でもするの?」


 その様子を見て俺が声をかけると、テチさんは首を傾げて一体何を言っているのかという顔になり……首を傾げたまま口を開く。


「いや、森に狩りにいくんだが?」


「え? いや? え? もうそろそろお腹の子のために大人しくするって話じゃなかったっけ?」


 何日か前にそんな話をしたようなと思い返しながら俺がそう言うとテチさんは、扶桑の木をペシペシと叩きながら弾む声を上げる。


「なぁに、これが守ってくれるのだから問題はないだろう?

 危険があっても向こうから避けてくれるそうだし……それなら運動をして少しでも体力をつけておいた方が赤ん坊にとっても良いはずだ。

 運動をして肉をいっぱい食べて……狩れば狩る程畑のためにもなるのだし、悪いことではないだろう?」


「え、いや、まぁ……それはそうなんだけども……」


 と、俺がなんとも言い淀んでいると、いつもの足音がテテテッと聞こえてきて……テチさんの様に棒を担いだコン君とさよりちゃんがやってくる。


 ……どうやら二人にも狩りをすることは伝えてあったようで、準備万端やる気もいっぱい、目が輝いてしまってもいる。


「……まぁ、コン君達が側にいて守ってくれるなら問題ない、かな。

 コン君、さよりちゃん、テチさんが無茶しないようにしっかり見張っておいてね」


 俺に出来ることはそんな二人にそう頼み事をするくらいしかなく……コン君もさよりちゃんも力強く頷いて、任せておけとばかりに大きく胸を張る。


 冬毛となってふわふわになっている毛が大きく膨らみ、その毛がすっかりと冷たくなった風で揺れ……そんな毛を自慢げに撫でおろしたコン君が先頭で、テチさんさよりちゃんがそれに続く形で森へと入っていく。


 そんな後ろ姿を見送ったなら家事を再開させ……一段落したなら倉庫に向かう。


 それから保存棚の確認……梅干しにコンフィ、色々な瓶が並び始めて少しだけ賑やかになってきた。


 冷蔵庫と冷凍庫は……肉肉肉、そして肉。


 この秋にテチさん達が狩った獣肉が山程あり……冬の間どころか来年いっぱいの量がありそうだなぁ。


 ここに更に追加が来る訳か……どうにか消費する方法を考えないといけないな。


 と、言ってもあれこれと凝った料理をしても肉の消費量が減るだけで意味がない、シンプルに焼肉とかBBQとか、肉をメインに消費する方向性でいかないとなぁ。


 保存食もしっかり作って……ジャーキーとかも山程作って、おやつとかでも消費してもらう方向も良いかもしれない。


 臭みやクセが強いジビエ肉も、スパイスたっぷりジャーキーにしたらそこまで気にならないだろうし、硬さも噛みごたえというメリットになってくれるはず。


 ……うん、そうだな、焼肉やBBQも良いけどここはジャーキー作りに本腰を入れても良いかもしれない。


 山程のジャーキー、ダンボール数十箱分のジャーキー……レイさんや義実家に贈るのもありかもしれないなぁ。


 人に贈るものとなると、かなりキツめに火を入れて乾燥もしっかり行って、カチカチにする必要があるかもな。

 

 自分で全部管理出来るのなら良いけど、そうでないのなら安全第一、安全性と保存性を最優先にしておくべきだろう。


 妊婦のテチさんもいる訳だし……扶桑の木の力があるとは言え、その辺りは徹底しておいた方が良いだろう、うん。


 美味しさを求めたのは自分の家で、作ってすぐ食べる用にするとして……色々な味にチャレンジしてみるのも面白いかもしれない。


 そうと決まったなら早速準備しようかとスーパーに向かい……味付け用のあれこれと買っていく。


 各種スパイスに……各種焼肉のタレ。


 焼肉のタレに漬けるだけでもジャーキーはそれっぽい味に仕上がってくれるので、楽をしたい時はこれに限る。


 追加でスパイスやフルーツ果汁を入れても良いし……ジャーキーをたくさん作ったならジャーキー料理も色々考えてみても良いかもしれない。


 以前も作ったジャーキーだけどまた改めて、色々工夫しながらやってみるとしよう。


 なんてことを考えながら買い物を済ませて……家に帰ったなら買った品の片付けを行い、それからジャーキーに使う肉の選定を行う。


 普通に食べるには向かなくて、固くても臭くても良い、筋があるのもそれはそれでガムみたいに長く楽しめるから良しとして……あえてそういうのを作ってみるのも良いかもしれない。


 と、そんな作業をしているうちにそれなりの時間が過ぎて……狩りに行ったテチさん達が帰ってくる。


 今日もまた大きな鹿を仕留めたようで……いや、どうやら他にも収獲があり、それらは川に沈めて冷やしているらしい。


 ……一体何匹狩ったのやら、今日は遅くまで解体処理することになりそうだと覚悟を決めた俺は、一人で何もかもをやるのは厳しそうなので、スマホを取り出し力になってくれそうなタケさん達へと連絡をし……それからエプロンやら道具やらの準備を始めるのだった。




――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


応援や☆をいただけるとコン君達の冬毛が膨らむとの噂です。

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