第308話 クルミの


 翌日。


 正月に餅つきをするとなって俺は、朝からクリとクルミを干してあるものを作る準備をしていた。


 クリは鬼皮のまま、クルミは殻から出した状態で竹ザルに並べて、庭に置いた木箱の上に並べていく。


 これは以前収穫したばかりのクリで搗栗と平栗を作った時にやった作業であり……二度目ということで慣れた手付きで進めていると、そこにコン君達が駆けてくる。


「おはよー! お庭で作業、珍しいね!」


「おはようございます! クリを干してるんですか?」


 そんなコン君とさよりちゃんに頷き「おはよう」と挨拶を返した俺は、作業を進めながら言葉を返す。


「お正月に餅つきをすることにしたんだけど、ついたお餅をクリとクルミで食べられたら良いなって思ってね、色々作ってみることにしたんだ。

 とりあえずこれは干して砕いて粉にして、きな粉みたいに出来たら良いなって思って、やってみているんだ」


「おー……! クリのきな粉餅! 美味しそう!」


「クルミも良さそうですねー、クリもクルミもお餅に合いそうですもんね!」


「そうだね、和菓子とかでもよく見る組み合わせだし、美味しくなる……はずだね。

 他にも色々作る予定だし、おせちでもクリとクルミは活躍してくれるから、お正月はいっぱいクリとクルミを楽しめると思うよ」


 俺がそう言うと二人は目を輝かせての笑顔になり、竹ザルを並べたり片付けをしたりと作業を手伝ってくれる。


 今日はよく晴れて空気も乾燥している、夕方までには良い乾き具合となってくれそうで……作業が終わったなら、家の中に入り手洗いなどを済ませる。


 それから台所に向かうと、コン君達はいつもの椅子へと腰掛けて……それからこちらへ期待に満ちた視線を送ってくる。


「期待してくれているところ悪いけど、そんな大したものは作らないからね?

 今日作るのはあくまでモチに合わせるものというか、味付け用だからメインになるようなものじゃぁないしね」


 と、そんな言葉をかけてもコン君達の目の輝きは変わることなく……俺は苦笑しながら作業を開始する。


 まずはクルミを調理パックに入れて、それからすりこ木で叩いて砕いていく。


 砕いたならフライパンに入れて、弱火で香りを出す感じで炒めて……焦げない程度に炒めたら味噌、砂糖、みりんを入れて煮ていって……ある程度煮込んで水気を飛ばしたら二つの器に分ける。


 一つの器はこれで完成、もう一つの器には唐辛子パウダーを少しだけ入れて辛味を加えてみる。


「多分辛さがあっても美味しくなると思うんだよね、モチとの相性も良いはずだし……」


 そんなことを言いながら俺が作業は終わったという空気を出していると、コン君が目を丸くしその表情でもって「え? これだけ?」と考えていることを伝えてくる。


「うん、これだけ。

 クリでも同じのを作るつもりだけど、まずはクルミで試作して味見をしてからだね。

 これの名前としてはクルミ味噌とか味噌クルミって言われるもので……まぁ、特別なものではないかな」


 そう言って俺は炊飯器へと向かい……ご飯を大きな器に盛り付けて流し台へと持ってくる。


 するとコン君とさよりちゃんは同時に同じ方向へ首を傾げ……俺はそんな二人に笑いながら、まな板の上にラップを敷いて、その上に丸く握ってから軽く潰したおにぎりを並べていく。


 ある程度の数を作ったなら、それの上にクルミ味噌をたっぷり乗せていって……乗せ終わったならオーブントースターの網の上にアルミホイルをしっかりと敷く。


「あ!」


「なるほど!」


 俺が何を作ろうとしているのかすぐに気付くコン君とさよりちゃん。


 そんな二人ににっこりと微笑んでからアルミホイルの上におにぎりを並べて、トースターの蓋を締めスイッチを入れる。


 焼きおにぎり、それをクルミ味噌で作ったなら絶対美味しいはずで……同じお米ということで、モチに合うかのテストも出来るはずだ。


 クルミ味噌の方を焼いている間に、クリ味噌も同じ要領で作り……ついでに炊飯器で新しいご飯も炊いておく。


 そうこうしているうちに焼きおにぎりが焼き上がり、オーブンの扉を開けるとクルミと味噌の香ばしく食欲を誘う、たまらない匂いが立ち込める。


「おお、これは大成功だったなぁ……匂いだけでもう美味しい。

 クリは……ここまで良い香りにはならないと思うけど、それでも美味しくなると思うから同じく作ってみるとして……とりあえず焼きたてを食べちゃおうか」


 と、俺がそう言った瞬間、自室で昼寝をしていたはずのテチさんが物凄い勢いでやってくる。


 ……うん、どうやらテチさんの部屋まで匂いが届いてしまったようだ。


 すかさずさよりちゃんが動いてテチさんの背中を登り、肩車のような形になってからついた寝癖をちょいちょいと手で直し、それから元の位置へと戻る。


「……うん、今熱いお茶淹れるから、とりあえず台所のテーブルで食べよっか。

 クリの方も作らなきゃいけないし、出来たてをすぐ食べられるからね」


 まだ寝ぼけ眼のテチさんにそう言うと、すかさずテチさんが椅子に座り、コン君とさよりちゃんもそれに習う。


 台所のテーブル椅子は少し低いので居間から座布団とクッションを持ってきて、高さを調節してから座り……そんな三人の前に、皿に盛り付けた焼きおにぎりと淹れたてのお茶を配膳する。


 それから自分の分も配膳してから席につき……手を合わせての、


『いただきます!』


 と、声を上げてから焼きおにぎりを手に取る。


 そして食べると……うん、当たり前だけど美味しい、クルミ味噌自体ご飯のお供だから当然なんだけども。


「うん、美味しい……唐辛子入りも悪くないなぁ。

 地域によってはこれを太巻きに入れたりするんだよね、玉子、キュウリ、カンピョウ、魚介にクルミ味噌、みたいな。

 ミョウガに乗せて焼いたり、意外なとこでポテトサラダに入れたりするなんて手もあって……うん、餅にも合いそうだね」


 と、俺がそんな感想を口にするも、テチさん達は無言……無言で口を動かし続ける。


 1個2個3個と、結構な量作った焼きおにぎりを食べていって……食べ終えたならお茶を飲んで深く息を吐く。


「はぁ……やっぱりクルミは美味しいな」


「クルミ味噌、オレ大好き!!」


「これは色んな料理に使えそうですねぇ」


 テチさん、コン君、さよりちゃんの順番でそんな感想を言い……それから3人は次はまだかという視線で、こちらを見てくる。


「うん……クリ味噌は既に作ってあるからご飯が炊きあがったらすぐに作るよ。

 曾祖父ちゃんのクリそのものが美味しいから、ある程度は美味しく仕上がるとは思うけど、実験的な調理でもあるから……そこまで期待しないでね」


 俺がそう言うと3人はコクリと頷き……それから餅に合わせたらどうなるかとか、餅用にもう少し味を調整しても良いかもとか、そんなことを話し始める。


 それから壁にかけてあるカレンダーを見て、正月まであと何日かと数え始めて……もういくつ寝ると、なんて有名な歌詞を口ずさみ始めるのだった。




――――あとがき


お読みいただきありがとうございました。


応援や☆をいただけると、3人の歌のレベルが上がるとの噂です。

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