第303話 オムレツ実食
牡蠣オムレツを箸で一口サイズに切り、口の中に運ぶ。
ふんわり卵に牡蠣の旨味がぎゅっと詰まっていて、それを甘酸っぱいソースがなんとも良い具合に仕上げてくれている。
片栗粉を入れたおかげでもちもちとしていて、小松菜やネギが良い食感と苦味を与えてくれて、飽きずにいくらでも食べることが出来る。
炊きたてご飯との相性も最高で、卵も牡蠣もソースもご飯の美味しさを引き出してくれていて……うん、本当に箸がとまらない。
テチさんやコン君達も同様のようで……俺の3倍程の大きさにしたのだけども、あっという間に俺のオムレツと同じ大きさになり、どんどんと小さくなり……台所から持ってきた炊飯ジャーからガンガンご飯を盛り付けてのおかわりもしていく。
「うぅん、ソースが美味しいっていうのもあるけど、この牡蠣の旨味……ずいぶん良い牡蠣を送ってくれたみたいだなぁ。
一気に食べてしまっても良いけど、せっかくだから一部は燻製とかにした上で、正月料理行きかなぁ」
なんてことを口にするが、テチさん達の耳には届いていないのか一切返事することなく、もくもくと口を動かしていて……その頬は限界まで膨らんでしまっている。
そうやって食べて食べて、オムレツはもちろんサラダもスープも綺麗に食べあげて……ぷはぁっと息を吐き出して、満足そうな表情を浮かべる。
「牡蠣が美味しいというのは分かっていたつもりだが……これはまた別格だな」
「うんまかったーー! 和食とはまた違うんだねー」
「牡蠣ってこんなに美味しくなるんですねぇ」
テチさん、コン君、さよりちゃんの順番でそう言ってから3人は、まだまだたっぷりと残っている牡蠣の方を……台所の方を見やって、満足そうな表情をもっと食べたいという食欲に満ちた表情へと変化させる。
流石にすぐに食べたいという訳ではないのだろうけど、お腹が空き次第食べたいとの欲を丸出しにしていて……俺は凄い食欲だなぁと一笑いしてから声を上げる。
「まぁ、うん、売る程あるから構わないんだけどね。
次は何が良いかな……カキフライかコンフィやアヒージョも良いし、シチューやグラタンというのもある、グラタンとかバターソテーとか……あとは海鮮鍋か。
寒くなってきた今の時期にぴったりの料理ばっかりだねぇ」
との俺の発言を受けてテチさん達はお互いの顔を見合い……それからあれこれと話し合いを始める。
全部のメニューを食べるのは決定だが、どういう順番にすべきか……流石に連続では飽きるのでどこかで数日の間をあけるべきだ、その間に保存食を作るのも良いかもしれないと、そんな話し合いが行われ……それから次回メニューを決めるための、3人だけの投票が始まる。
「バターソテー」
「シチュー!」
「グラタン!」
見事に1対1対1。
決着の付きようがない形で投票が終わり……困ってしまった3人は俺の方へと救いを求める視線を送ってくる。
「あー……うん、そうだね。
次はグラタンにしようか……これから寒気が来るそうだからちょうど良いでしょう。
それからバターソテー……ついでに醤油ソテーとか色々試して、それから鮭とかを買っての海鮮シチューかな。
保存食作りは普通に合間合間……というかこれからやっていくよ。
いくらか食べきれない牡蠣があるから、今のついに処理しておかないとね」
と、俺がそう言うと3人は俺が決めたのならそれで良いかと、そんな顔をしてから立ち上がり、歯磨きを行うべく洗面所へと向かう。
俺は3人が歯磨きをしている間に、簡単な片付けを済ませて……3人が終わったのを見計らって自分も歯磨きを行い、それから片付けを本格的に行っていく。
行いながら保存食作りの準備も進めて……まずは牡蠣を漬け込むためのソミュール液を作り、調理パックに入れて洗った牡蠣を投入し、冷蔵庫で寝かせる。
「これは燻製用、あとはコンフィ……というか油漬けにして、しぐれ煮で終わりかな?
牡蠣の保存食の花形は油漬けで……どんな味付け香り付けにするかで個性とこだわりが出る感じだね。
フルーツピールやハーブで爽やかに、唐辛子たっぷりで辛く、食べるラー油風にしてご飯が進むようにしても良いし……チーズ・バターでこってり、味噌・醤油で和風っていうのもありかな。
しぐれ煮はショウガたっぷりで煮詰めて冷蔵保存すればOKで、これもなかなか美味しいし……特に謂れはないけどおせちに入れても良いかもしれないね、味的に」
なんてことを言いながら鍋も用意して……最初はどんな油漬けを作ろうかと頭を悩ませる。
オーソドックスにハーブから行くべきか、それともあえての和風から行くべきか……ここは一つ、あんまり食べたことのない和風で行くかと決めて、そのための準備をしていく。
「ちなみに保存食は今日は食べられないからね。
貝は特に味が落ち着くまで時間かかるから、最低でも1日か2日寝かせないと、なんとも微妙な味になっちゃうんだよ。
しかも美味しいオムレツを食べた後となると尚更だろうから……これの味見は明日以降だよ」
調理の準備をしながらそんな声を上げると、いつもの椅子に座ったコン君が大口をあけての絶望的な顔をし、さよりちゃんは両手で顔を覆う。
背後の椅子に座っているテチさんまでがガクリと肩を落としていて……まぁ、うん、台所に来るの速かったからね、物凄い勢いでやってきたからね、期待していたのが丸わかりだよ。
「今日は夕飯も普通のご飯だよ? 牡蠣ばっかり食べるのもバランス的に良くないし……野菜炒めとトンテキ辺りにしようかなと考えているからね?」
更に俺がそう言うと、皆の絶望はより深くなる。
まさかそこまでとは思わず、あまりの絶望っぷりになんとも言えない罪悪感が湧いてきてしまい……どうしたものかなぁと調理を進めながら頭を悩ませる。
「あー……じゃぁまぁ、トンテキにトンテキソースソテーを少しだけ加えるくらいなら良いかな。
ほぼほぼトンテキ味になっちゃうけど……」
折れるような形でそう言うと、コン君とさよりちゃんは同時に顔を輝かせてうんうんうんと何度も頷いて……そして背後からもテチさんが同じく頷いているような、しっかりとした力強い気配が漂ってくるのだった。
――――あとがき
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