第284話 祭りの予感
畑の木の剪定をやるのは葉が落ちてから。
その方が楽だから、だそうで……まだまだ葉が残っている今はまだ剪定には少し早いようだ。
そうなると今やるべきことはなく暇……になるかと言うとそうではなく、天候や久々能智さんの来訪で一時中断されていただけの狩猟が再開されることとなり……獲物の解体や肉の調理で忙しくなってしまっていた。
肉肉肉、とにかく肉、毎日山のような肉が手に入ることになり、冷凍保存もそろそろ限界、かといって保存食にしようにも限度というものがあり……結局は自分達で食べるか、誰かにあげるかという話になってくる。
……が、誰かにあげると言っても今の季節、そこら中で狩猟が行われていて、どこの家の冷凍庫も満杯となっていて……結局は自分達で処理することになってしまっている。
「どこかの県にはシカポスト、なんてものがあるらしいねぇ……。
駆除したシカを勝手に入れて良い冷凍庫で、そのシカの肉はドッグフードになるんだってさ……」
倉庫でぎゅうぎゅうになった冷凍庫を整理しながらそんなことを言うと、すぐ側で手伝ってくれていたテチさんが言葉を返してくる。
「この辺りにも似た制度はあるさ、町会長がやっている買い取りの一部も、ドッグフードメーカーに卸すものらしいからな……。
ただ今年は狩れる量が尋常じゃないというか、メーカーの引き取りが来る前に町内会館の冷凍庫がいっぱいになってしまったそうでな、それでこんなことになってしまっているらしい。
なら狩りを止めたら良いと言うかもしれないが……こんなにも増えてる中、放置をしたら最後、獣害がとんでもないことになるからな……もう少しだけ続けることになるだろう」
その言葉に俺は頷き……仕方ないかと諦めながら冷凍庫の整理を進めていく。
テチさん達も闇雲に狩りをしている訳ではない、森の中を調べて個体数を把握して、これくれいの数狩るべきだろうと判断をしている人がいるんだそうで、その人の判断に従っての狩りを行っている。
狩り過ぎてはいけないし、かといって狩らな過ぎてもいけないし、ちょうど良いところを目指して日々頑張っていて……その結果がこの冷凍庫という訳だ。
もちろん冷凍庫に入れるだけでなく日々様々な料理をして消費しているのだけど……それにも限界があるというか、追いつけないというか……。
そろそろ肉料理のレパートリーも尽きてきているし……どうしたものかなぁ。
そろそろ寒くなってきたしシチューだろうか? ビーフシチュー風にするのも良いかもしれない。
それとも鍋? そろそろ白菜が美味しい季節だし、色々な鍋を作ってみるのも良いかもしれない。
ネギに白菜、しらたきにシイタケ、柚子ポン酢辺りで食べればすっきりさっぱり美味しくて、いくらでも箸が進んで……と、そこまで考えた所で肉はどこへ行ったと冷静になる。
うん、駄目だ、美味しい料理にしようと思えば思う程、肉の消費量が減ってしまう……どうしても野菜の量が増えてしまう。
その方が健康的で良いんだろうけど……今はそんなことを気にしている場合じゃない。
……ということは……うん、やっぱりこれしかないか。
「バーベキューにしようか」
と、俺がそう声を上げるとピクリとテチさんが反応する。
倉庫の外で落ち葉の掃き掃除をしてくれていたコン君達までが聞きつけたのか倉庫へとやってきて……冷凍庫のドアをしっかりと閉めた俺は言葉を続ける。
「野菜は最低限の肉だけのバーベキュー。
飽きないようにソースはたくさん用意して……スパイスソースとかジャムソース、市販のソースも種類揃えて……そしてピザとかも焼こうか」
「ピザ……?」
そう返してきたのはコン君だった、興味津々という顔で俺の足元までやってきている。
「うん、肉そのままとか、ベーコン、ソーセージ、ハンバーグも乗せちゃって、チーズたっぷりの肉ピザ。
野菜は玉ネギとトマトだけにして……とにかく肉と今まで作ってきた肉料理を乗せちゃおう。
あとは……ハンバーガーも良いかもな、肉とチーズとソースだけのハンバーガー。
それをメインにして肉を食べて食べて食べまくって……どうにかこの冷凍庫の中身を減らしていこう」
「え、え、え? 良いの? そんな……バランスが悪いよ?
にーちゃんいつも野菜とお肉のバランスは大事だって……」
俺の言葉にコン君は不安そうに返してきて……俺は真顔で返事をする。
「たまには良いんじゃないかな。
今回だけ特別、コン君達も狩りで頑張っているからね……それに報いるための肉パーティだよ」
するとコン君は驚いたという顔のまま両手を振り上げてバンザイのポーズを取る。
驚いていて喜んでいて、その二つの感情をどう処理したら良いのか分からないといった様子だ。
遅れてやってきたさよりちゃんも似たような表情をしていて……テチさんも驚き半分、食欲半分という表情をしていたが、すぐに気持ちを切り替えて……俺の気持ちが変わってしまわないうちに動いた方が良いだろうとの判断をしたのか、スマホを取り出しあちこちへと連絡をし始める。
実家に友達にレイさんに、それと普段お世話になっているからとタケさんや御衣縫さん、町会長さんにまで連絡をして……肉メイン、ほぼ肉だけのバーベキューパーティへの参加要請をしていく。
そこまでしなくとも途中で放り出すなんてことはする気はなかったのだけど……肉の消費が主目標なのだから参加者が増えるのは大歓迎で、俺はその人数分のソースやらベーコンやらの準備にどれくらいかかるかの計算を頭の中でしていく。
「んー……三日後、いや、四日後かな。
それまでにはなんとか準備が出来るはず……バーベキューコンロとかはまたレンタルで……場所は、うちの庭で良いか。
参加費とかは特になし、むしろ肉とか増えても困るから何も持ってこないでくださいって感じで……うん、少し風変わりな忘年会ってところかな。
今年一年お疲れ様でしたってことで、お腹いっぱい、嫌になるくらいお肉を食べるとしよう。
畑で働いてくれた他の子達とか……コン君、さよりちゃんのお父さんお母さん、ご家族にも来てもらって良いからね」
計算を終えるなり俺がそう言うと……テチさんはスマホを操作してその旨を連絡し始め、コン君とさよりちゃんも同様に家族へと連絡し始める。
そして俺は改めて冷凍庫を開いて……そこにぎっしりと詰まった肉を使い切ってやるぞと気合を入れて……早速とばかりに手前の肉塊へと手を伸ばすのだった。
――――あとがき
お読みいただきありがとうございました。
応援や☆をいただけると冷凍庫のお肉がツヤが増すとの噂です。
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