第268話 ホームセンターでの買い物
昼食を皆で食べてから歯を磨き、出かける準備をし……それから俺達は近くのホームセンターへと向かうことにした
これまで行ったことなかったのだけども、ホームセンターには狩猟関係の区画があるそうで、そこに行けば必要な道具が揃うんだそうだ。
「……栗に使った落下防止ネットを張って、そこから逃げたのは……落とし穴?
カゴ罠とかは……そもそも餌に食いつかないから効果ないだろうしなぁ、獣避けってことで一応設置しておくけども」
その道中、長く伸びる道路の歩道を歩きながらそんなことを言うと、先を歩いていたテチさんが振り返りながら言葉を返してくる。
「他にもトリモチとか色々あるだろ?」
「……あー……ネズミ捕りみたいなやつか、確かに効果がありそうだねぇ。
んー、ここであれこれ言うよりホームセンターについて現物を見ながら、の方が良さそうだね」
狩猟に関しては詳しくないというか知識がないというか……トリモチなんて罠の種類があったこと自体、忘れ去っていた程度には無知だ。
そんな状態であれこれ考えてもしょうがない、実物を見ながらが一番だと考え足を進めて行って……ホームセンターについたなら、一番奥に位置する入り口から資材置き場のようなエリアに入り、更にその奥へと足を進めていく。
「ん!?」
入ったことのないそのエリアを進む途中で、あるコーナーを見つけた俺はそんな声を上げてしまう。
「……テチさん、獣ヶ森って銃の所持が許可されてないんだよね?」
「まぁ、そうだな」
声を上げた後にそう問いかけるとテチさんは、露骨に目をそらしながらそう返してきて……俺は更に問いを投げかける。
「銃が無いはずなのに何故ガンロッカーのコーナーが?
それにあの看板……銃の整備用具って書かれているけど……」
「……ロッカーも整備用具も銃ではないだろう?」
「いやまぁー……それはそうなんだけどさぁ……。
俺ももう獣ヶ森の住民だし、騒ぎにする気は全くないんだけど……大丈夫? 門の向こうに怒られない?」
「現実問題として、門の向こうよりも大きく力強い獣がいる、熊なんかもいる獣ヶ森の住民に銃を持つな、なんてことを言うのは酷というものだろう。
私達も今更門の向こうと争うつもりはないからなぁ……人に向けたりすることは絶対にないから安心しろ。
むしろそこら辺のことを見逃してくれないのなら生活が成り立たないから……なんて話になるかもしれないぞ」
「な、なるほど……」
なんてことを言いながら足を進めていると今度は、映画なんかでたまに見る銃弾作りに使う器具が視界に入り込む。
箱に書いてある名前を見るとハンドローダーとあり……どうにかして銃を手に入れたらあれで弾丸を作っているという訳か。
ただまぁ……保管用のガンロッカーをしっかり使っているようだし、無法という訳ではなく、ある程度のルールの上で運用されているようだ。
以前揉め事があった時にも銃が持ち出されるようなことはなかったし……そういった犯罪が起きたなんて話も聞かないし、もしかすると門の向こうよりも厳しいルールがあるのかもしれない。
「まぁ、うん……俺は関わることはなさそうだし、気にしないでおくとするよ。
今まで通り暮らしていくだけのことで……っと、ここから先が狩猟コーナーか。
……なんだこれ、鉄の塊?」
声を上げながら足を進めていると狩猟コーナーが見えてきて、その入口には個性豊かな鉄の塊が、ズラリと並んでいる。
するとずっと黙って店内をスキップをしていたコン君が、鉄の塊の側にある看板を指差し……そこに書かれている棒を持つような仕草を見せて、それから棒の先を撫でるというか、回すような仕草を見せてくる。
「……ああ、なるほど、棒の先端につけるアタッチメントか。
こんな風に売っていて……しかも狩猟道具扱いなのか、モーニングスターみたいなやつからメイスみたいなやつまで……門の向こうだったら普通に怒られそうだなぁ」
そのコーナーについても深く考えないようにして足を進めるとようやくというかなんというか、門の向こうでも見かけたような狩猟コーナーが広がっていて……カゴ罠や罠なのか何なのかよく分からない物や、狩猟用の靴やら服やら鞄やら、様々な品がずらりと並んでいる。
それらの品の前には注文書の束が置かれていて……どうやらそれを取って数を書き込み、レジに持っていくと精算、品物が家に配送されるという仕組みになっているらしい。
まぁ、罠にせよ棒のアタッチメントにせよ大きく重くかさばるものだし、自分で持って帰るよりはその方が良いのかもしれないなぁ。
なんてことを考えながら注文書を手に取り、その内容をしげしげと眺めていると……テチさんとコン君、それとさよりちゃんが物凄い勢いで注文書を取り集めていく。
いくつかのアタッチメントとカゴ罠、よく分からない罠、捕獲用の檻、投げ網、釣りに使うような頑丈な取っ手付き網などなど。
狩猟と種対策、その両方に必要な品々の注文書をあっという間に集めて……それから近くの注文書を書くためと思われるテーブルで個数や住所なんかを書き込み、その束をこちらへと持ってくる。
……まぁ、うん、狩りに関してはテチさん達のが詳しいし経験もある、俺が料理道具や材料を買う時のように、知識と経験を元にして必要なものをしっかり選んでくれているはずで……問題ない、のだろう、うん。
それでも一応注文書の内容を確認していると、何枚か気になる内容のものが見つかってしまう。
「燻製器に……肉の熟成庫?
遠赤外線と温度管理で完璧な熟成を促すって……へぇ、こんなものがあったんだねぇ、知らなかった。
でもこれえらく大きいな、業務用冷蔵庫サイズと来たか……って、いらないでしょこんなの!?
燻製器だってすでにうちにあるし……ってこれ業務用じゃないか!?
え、何もしかしてもうお肉を手に入れた気でいるの!? 大量の肉を美味しく食べる準備までしちゃうつもりなの!?
冷凍庫も冷蔵庫もたっくさんあるから、頑張って料理もするから、これは流石にいらないよ!?」
それに対して俺がそう声を上げるとテチさん達は頬を膨らませてなんとも不満そうな表情をする。
……が、燻製器も熟成庫も高いわ大きいわで、どこに置くんだって問題もあるし……燻製にしても熟成にしても現状で出来る範囲で十分なはず。
そう考えてテチさん達に負けじと腰に手をやり胸を張って大きく構えて譲らないとの態度を示していると……テチさん達は仕方なしに諦めて、それから視線を別のコーナー、キャンプやバーベキューセットなどが置かれている方へと向け始める。
「ば、バーベキューに必要な道具は借りられるし、串とかはうちにもあるし……あれこれ狩猟道具買う訳だし……。
たくさん狩りをしたら積極的にバーベキューするようにするから、更に余計な道具をあれこれ買うのはやめておこうよ。
……料理に関しては本当に頑張るから、たくさんお肉食べられるようにするからさ……ここから更にバーベキュー道具はお財布に痛すぎるよ。
そ、それにほら、狩った先から全部食べちゃうんじゃなくて、狩ったのを冷凍しておいたり保存食にしておいたりすれば、一年中好きな時に肉を腹いっぱい食べられる……なんてことになるかもだし? 無理に消費しなくても良いんじゃないかな?」
そんなテチさん達にそう言葉を続けると今度は上手く心に響いたのか、テチさん達の表情というか目の色が元に戻り……そうして改めての注文書の確認が始まる。
いつからか食欲に精神を支配されてしまっていたらしいテチさん達はさっきとは打って変わった態度で狩りだけでなく種対策の道具なんかも真剣に揃え始めてくれて……俺が獣人の食欲の強さとその恐怖を改めて思い知る中、かなりの量の注文書の束が出来上がり……それの確認を改めてしてからレジへと向かう。
そうしてかなりの金額となった支払いをなんとか終えて、配送日程などの確認を終えて、それでようやく狩猟関係の買い物が終了となるのだった。
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