第262話 花応院さんとの雑談


 お義母さんやさよりちゃん、友人達と一緒にテチさんが医療バスの中へと入っていって……俺とコン君は花応院さんが用意してくれた、パラソル付きの席へと腰を下ろす。


 丸テーブルがあり、結構良い作りの椅子があり……バスの見えるところで休憩出来るよう気を利かせてくれたようだ。


 そしてそんな俺達の側には大きな門と壁があり……見張りをしている自衛隊員の人達がコン君のことを凝視していたりもする。

 

 こういう時に俺に出来ることはただ待つだけ……視線を浴びてソワソワしているコン君の頭を撫でてあげながら、花応院さんと他愛のない会話を交わしていく。


 近況報告、テチさんとの日々の報告、畑の報告。


 特に畑に関しては何のトラブルもなく収穫出来た上、かなりの収益となったということで良い報告が出来て……曾祖父ちゃんの畑が順調なことが嬉しいのか、花応院さんは畑の報告で他よりも良い笑みを見せてくれる。


「畑の木はねー、全部元気だよ! 今年はなんか調子が良い!

 これなら焦って増やさなくても良いと思う! ちょっとずつ増やしていけば問題なしー」


 畑の話をしているとコン君がそう言ってくれて……花応院さんは畑の時よりも更に良い笑みを浮かべてうんうんと頷き、コン君の話に耳を傾ける。


「じーちゃんは毎年少しずつ増やしてて、弱った木があったらその木が駄目になっちゃう頃に合わせて植え替え出来るよう、いつもよりも多めに木を増やしたりしてたー。

 木はすぐには育たないから、木の様子をしっかり見て、何年か先を見ながら……? みすえながら? するんだって言ってたよ」


「そうですか、そうですか。

 富保君は木に関しては本当に詳しかったのを覚えていますよ」


 ついにはそんな言葉まで返し始めた花応院さんに、コン君は驚きながらも楽しくなってきたのか、両手を振り回しての身振り手振りでの話をし始める。


 そんなコン君に対し花応院さんは、孫に接する祖父のような態度で接し続けて……そうして10分かもう少しの時間が過ぎた頃、門の周囲や門の上の監視所のようなところで待機していた自衛隊員さん達がインカム? か何かで会話をし始め……慌ただしく動き門の向こうへと意識を向け始める。


 明確に何かが起こったということが分かるその状況に、コン君は椅子に立てかけておいた棒を手に取って毛を逆立たせて警戒心を顕にし……花応院さんもコン君とのひとときを邪魔されたことに立腹しているのか、なんとも珍しく顔をしかめる。


 どんな時でも冷静で、不快な思いをしても笑みを絶やさないだろう人物がそうしているのは中々のインパクトで、どう対応したものかと悩んでいると、門の向こうから声が……かなりの大声が聞こえてくる。


 その声の会話の内容から察するに、その声の主は……、


「どうやら報道関係のようですね」


 と、花応院さんの言う通りマスコミ関係のようだ。


 中に入れろとか取材させろとか、そんな声を上げているようで……一体全体なんだってここにマスコミが来ているんだと驚いていると、花応院さんが渋い顔をしながら説明をしてくれる。


「実はあなたのことが……森谷さん夫妻のことが、ご結婚のことがどこからか漏れたようでして……。

 それを聞きつけたマスコミが取材させろと騒いでいるようなのですよ。

 門の向こうで暮らし、獣人の女性と結婚し、子供まで出来た。

 前代未聞のことではありますから、取材したくて仕方ないようで……森谷さんがこちらにいるのなら自分達も入っても良いだろうとそんなことまで言っているようなのです」


「はぁ……マスコミですか。

 ならせめて電話とかでの交渉でもしてくれたら、電話やメールでの取材なら応じたんですけどね……」


 俺がそう返すと花応院さんは首を左右に振ってから言葉を続けてくる。


「ここまで来ているような連中は、相応に下品ですから、相手をする必要はないでしょう。

 甘くしてやっても付け上がるだけ……厳しく接してやるほうが世のため人のためというものです。

 ……まぁ、ご安心ください、連中がこの壁を越えることはないでしょう」


 と、そう言って花応院さんは一旦言葉を切り……声量を上げるというか、声に力を込めるというか、態度だけは静かなのだけども遠くに響く地響きのような声で言葉を続ける。


「まさか二度目のやらかしはないでしょうね。

 あれだけの失態をし、厳罰を受けても尚二度目となったら、仕事を失った上にあの変態の仲間入りを果たすことになり……当然のことですが、生涯我々の目から逃れることは出来ないでしょうね」


 それは誰に言っているのか……背筋を伸ばし顔を青ざめ、脂汗をかいている人達に言っているのだろう。


 そして変態という単語で以前門と壁を突破した、ある人物のことを思い出し……同時にマスコミに情報を流したのが誰なのかも大体察する。

 

 あの人から俺のことが広まって、そこから親戚やらに取材が行って、それでどこからか結婚話が漏れたと、そんな所なのだろう。


「あー……実はと言いますか、今度家まで来て頂ければ分かることなのですが、件の盆栽が育ちまして……その見張りのために何人かが我が家に常駐しているんですよね。

 前回以上に警戒していると言いますか、厳重な警備になっていますので、侵入者がいたとしたら……その、以前よりも悲惨な目に遭うんじゃないかなーと思うので、気をつけていただければと思います」


 と、俺がそう言うと花応院さんは目を丸くして、盆栽……扶桑の木が更に育ったと言う事実に少しの間戸惑った様子を見せる。


 扶桑の木のことは隠しておくべきことなんだろうけど、荷物の配送で我が家に来る花応院さんには隠しきれないだろう。


 というかもう、あそこまでの大きさだと衛星写真とかでも分かってしまいそうで……そこら辺の対策をしてもらうためにも事前に教えておいたほうが良いはずだ。


 そう考えての俺の言葉に花応院さんはしばらく悩み……それから自衛隊員の方へと歩いていって、あれこれと小声での会話をし始める。


 それから門の側の詰め所へと入っていって……そこでなんらかの打ち合わせをしているようだ。


「えっとね、警備のレベル? を1個上げろとかそんな会話してたよ。

 あそこの中の会話は流石に聞こえないかなー」


 詰め所の様子をじぃっと見ているとコン君がそんなことを言ってきて……その自慢の耳をピクピクと動かして見せる。


 そう言えば身体能力だけじゃなく耳も目も良いんだったなと、そんなことを思い出した俺は……とりあえずスパイみたいな真似はしなくても良いよと小声で伝えてから、コン君の頭から頬までをグリグリと両手で挟み撫でるのだった。

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