第251話 栗ご飯パーティと……


 翌日。


 朝早く起きたなら身支度をし……軽い朝食を済ませてから昨日の試作通りに栗ごはんの準備をしていく。


 同時にサンマやサラダなどの準備もしていって……コン君とさよりちゃんがいつものようにやってきたなら、テチさんと一緒に会場の設営もしていく。


 場所は栗畑の休憩所、以前の食事会のようにレジャーシートやテーブル、食器などを用意して……休憩所に元々あったテーブルも活用する。


 会場の設営が終わったら、パーティの時間に間に合うように時計を見ながら栗ご飯を炊いていく。


 ブレーカーが落ちないように注意しつつ、むわっとした栗ご飯の香りを含んだ熱気にまとわりつかれつつ……何よりも美味しくなるように注意しながら作業をしていって、炊きあがり次第に会場へと炊飯器ごと持っていく。


 するとそろそろ時間だからと会場に到着した子供達が、キラキラと目を輝かせながら待機していて、


「手洗いうがいをした子から、お茶碗持って炊飯器の前にならんで、テチさんに盛り付けてもらうと良いよ」


 と、俺がそう言うと手洗い場へと凄まじい勢いで殺到する。


 空木箱を足場にして少し高めの位置にある蛇口をひねり、一生懸命に手を洗い、お弁当用の手提げ袋に入れて持ってきた自分用のコップでうがいをして……それから炊飯器の法へと駆けていって。


 するとテチさんがしゃもじを片手に炊飯器の側に立ち、子供達から茶碗を受け取っての盛り付けを行ってくれる。


 更にコン君やさよりちゃんが席の案内を手伝ってくれて……皆がそうしてくれる間に俺はおかずなどの配膳を済ませていく。


 そしてパーティの開始時間3分前に、レイさんがいつもの配達車でやってきて、子供達に牛乳やお茶、ジュースなどのドリンクを配布してくれて……そして開始時刻となる。


『いただきまーーす!』


 テチさんの音頭で上がる元気な声、直後箸と茶碗の音がしてきて……そしてすぐにコン君達を含めた子供達のため息や感嘆の声なんかが聞こえてくる。


 栗ご飯を食べて、目を輝かせながら味と香りを堪能し、また食べて堪能し……オカズには目もくれない。


 栗ご飯を綺麗に食べあげてからようやくサラダやサンマに箸を伸ばすが、それは一部の子供達で、他の子供達は空っぽになった茶碗を持ったまま、栗の味を反芻しているのかどこかを見つめたままぼやっとした表情をする。


「ん? あの表情ってもしかして?」


 そんな子供達を見て俺がそう言うと……側で空になった炊飯器の片付けを手伝ってくれていたテチさんとレイさんが嬉しそうな顔をしながら言葉を返してくる。


「ああ、あれはそうだろうな」


「栄養あるもんを食べたら成長するのが子供だからな、栄養満点の栗ならではの光景だな」


 それは以前にコン君が見せた獣人の子供の成長の証、賢くなりつつある頭で色々なことを考えて考えて、考えすぎているがゆえに動けなくなってしまっている姿で……結構な数の子供達がそうなっているようだ。


「今ああなっていない子供達も、今夜とか明日の朝とか、数日後にはああなってくれるだろうな。

 これからの季節は冬を前に栄養を溜め込む食欲の季節で……同時に成長をする季節でもある。

 冬毛を越えて春になったなら、一回り大きくなった子供達を拝めるかもしれないな」


 更にレイさんがそう言葉を続けてきて……テチさんは嬉しそうというか幸せそうな表情を浮かべて、子供達のことを静かに眺める。


 そうしてしばらくの間、蝉の声と風の音と、子供達の食事の音だけが響く時間が流れて……穏やかに一日が終わるかと思われたその時、ずどんと凄まじい音が家の方から響いてくる。


「なんだ? おい、実椋、家に誰かいるのか?」


 それを受けてレイさんが声を上げ、俺が首を左右に振っているとテチさんが駆け出し、倉庫に向かい、例の鍛錬用の鉄の棒を3本取り出し「実椋、レイ」とこちらの名前を呼びながら手渡してくる。


 今家は無人のはず、誰かが来るなんてことも無いはず。

 だけども何かがあったに違いない、危機間違えとかのレベルでは絶対に無い音が聞こえていて……イノシシか何かに違いないと、そんなことを言いながら俺達は軽い話し合いを行う。


 テチさんはこのまま残って子供達を守る。

 俺とレイさんが家に向かって……身体能力が優れたレイさんが前で、俺が後ろで、俺はすぐにでも連絡出来るようにスマホに手を伸ばしながら移動をし……何かまずいと思うようなこと、やばいと思うようなことがあればすぐさまテチさんに連絡をする。


 連絡を受けたらテチさんが町会長さんや、お義父さんやお義母さんに連絡してくれて、そうすればすぐに自警団が来るはずで……俺達だけで解決とか、危険なことは絶対にしない。


 話し合いの結果、そういうことになり……それからすぐにレイさんと俺は栗畑を離れて家に向かい……そしてその道中で、何が起きたのか大体のことを察する。

 

 歩いているうちに見えたその光景は、見た覚えのない木がいつのまにか家の屋根以上に高く伸びているというもので……どうやらその木は我家の庭の玄関近くに生えてしまっているようだ。


 今朝まで無かった木がいつのまにか、4mか5mかそのくらいの高さになっていて……棒を構えるのを止めたレイさんが足を進めながら声をかけてくる。


「心当たりあるか?」


「……今日、玄関の辺りに扶桑の木の鉢植えを出しておいたんですけど、それですかねぇ……」


 同じく棒を構えるのを止めた俺がそう返すと……レイさんはこちらへと振り向いて「どーするんだよ、あれ」とでも言いたげな表情をしてきて……それを受けて俺は、聞かれても困ると首を左右に振る。


 そうこうしているうちに玄関に到着し……鉢を砕き、鉢を置いておいた台を押しつぶして大きく成長した一本の木のことを、なんとも言えない気分で眺める。


 一応まぁ……うん、台の場所が良かったのか、玄関からの出入りには支障はないようだ。


 家に触れている訳でもなく、まっすぐ上に伸びていて……家を壊すとか、そういうことにもならなさそうだ。


 しかしまぁ、なんというか……。


「邪魔くさいとこに生えてくれたなぁ……おい」


 と、言いたくなるような位置だ、ついさっきまで鉢植えの中しか知らなかったはずの根は深々と地面に突き刺さり、まるで樹齢20年、30年の木かのようにどっしりと広がっていて……どこかに植え替えるとかは、簡単ではないだろう。


 だけどもこのまま放置して、どんどん大きくなって、家を壊す程になられても困るし……一体どうしたら良いのかと頭を抱えた俺は、人生初となるレベルに大きく深いため息を吐き出すのだった。

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