第249話 シソジュース


 シソジュースを作るぞと台所に向かい、到着したなら手洗いをしエプロンをつけて……まずは鍋に水を入れて火にかける。

 

 それが沸騰するまでに買っておいた赤シソを用意し……まずは水で丁寧に洗っていく。


 洗ったら葉っぱだけを千切り、茎は捨てて葉だけをまた丁寧に洗い……それから数枚の大葉も用意しておく。


「大葉を入れるかは好みなんだけど、入れた方が香りが良くなるって人もいるね」


 と、いつもの席に座るコン君達に説明しながら大葉も洗って……それから沸騰したお湯の中にシソの葉と大葉を投入する。


 投入したら菜箸でしっかり押し込んで全体が漬かるようにし……お湯が湧いてきたら火を止めて、一旦冷ます。


「冷ます時には鍋よりも大きな桶を用意してそこに氷水を入れて、鍋を浮かせて冷やすのが早くて良いね。

 鍋の取手を掴んでぐるぐる回したり、水を流し込んで流水みたいにしたりする人もいるみたいだねぇ」


 なんてことを言いながら冷ましたら、ザルとボウルを用意し重ねて、ザルに上げてからぎゅっと両手で握ってシソの葉と大葉を搾り……エキスをしっかりと搾り出す。


「シソジュースは栄養があるって話したけど、葉酸っていう栄養が豊富で妊婦さんにも良いとかで……美味しく出来上がったらテチさんにも喜んでもらえるかもね。

 そんな栄養がしっかり出てくるように、葉をぎゅっと搾って搾って……あんまり力を入れ過ぎると葉っぱが千切れて切れっ端がジュースに入っちゃって邪魔になるから、力は入れすぎないように搾る感じかな。

 手が汚れるのが嫌って場合はおたまとかで押しつぶすのも良いかもね」


 搾りながらなんとなしにそんなことを言うと、コン君は「なるほどなー」なんてことを言いながら感心したような顔になり、さよりちゃんは何故か照れたような顔になり「愛ですね」なんてことを言い始める。


 そんなさよりちゃんに何か返すべきかと一瞬悩んだけど、返す必要もないかと聞き流すことにして……搾り終えたなら、しっかりと手を洗い、それから搾り汁を鍋へと戻す。


 戻したなら火にかけて沸騰させ……大量の砂糖をその中に流し込む。


「お、多い!? 多いよ、にーちゃん!? ジャムの時よりも多いじゃん!!」


 そうして響くコン君の悲鳴、椅子から立ち上がり両手をわなわなとさせて目をくりっと見開いている。


「果物は本来の甘さがあったけど、シソも大葉も甘いものじゃないっていうか、味が無いものだからね、しっかり味付けしないとジュースにならないんだよ!

 だから躊躇せずどばっと、砂糖をがっつり使っちゃうよ! 砂糖が少ないとジュースにならないし、美味しくもならないからね!」


 俺がそう返すとコン君は、俺を見て鍋を見て、また俺を見て鍋を見て……両手をわなわなとさせたまま、何も言わずに作業を見守る。


「砂糖が溶けるまでゆっくりかき混ぜて、溶けたら火を止めて……止めたらまた冷やして常温くらいに戻そう」


 搾り汁を煮詰めて砂糖を入れて……そうして結果出来上がった黒い液体をコン君はなんとも言えない表情で、恐ろしい何かを見つめるような表情で見やっていて、そんなコン君の姿にちょっとだけ笑ってしまいながら搾り汁を冷ましていく。


「冷ましたら……ちょっと面白いことするよ。

 この後お酢かクエン酸を加える必要があって、リンゴ酢とかが一般的なんだけど、個人的に味がすっきりするからクエン酸を使って……多すぎない程度に入れたら、おたまでゆっくりとかき混ぜよう」


 なんてことを言いながらクエン酸を加えて、ゆっくりかき混ぜていくと黒かった煮汁の色が薄らいでいって……透明感のある赤色、シソジュースらしい色へと変化していく。


「お、おおぉぉぉー……真っ黒じゃなくなった!」


「へぇー……こんな風になるんですねぇ」


 その様子を見てコン君とさよりちゃんがそう声を上げて……俺は最後の仕上げのためにレモンを洗い、切り分け……レモン用の搾り器でレモン汁を搾る。


「最後の仕上げは風味づけだね、シソと大葉だけだとジュースっぽさが足りないからレモンが必須で、追加でハチミツを足しても良い感じかな。

 慣れてきたらどの花のハチミツが良いとかも挑戦してみたりして……自分に合う味に出来ると良いと思うよ。

 シソジュースは本当にクセがあるというか、上手く味を作ってあげないと美味しくないもので、自分が美味しいと思っているものが、他人には美味しくないとかもザラで……好みが分かれるんだよねぇ。

 だからこそ砂糖、クエン酸、レモン、できればハチミツ、美味しい味付けはしっかりしておきたいね」


 そんな説明をしながら搾ったレモン汁を全部投入し、ハチミツも長野のりんごの花のものを投入し……ゆっくりかき混ぜたなら完成、後は保存瓶にでも入れて冷蔵庫にいれておけばかなりの長期間、シソジュースを楽しむ事ができる。


「保存は効く方だからペットボトルとかに入れても良いんだけど……砂糖をたっぷり入れた場合はやっぱり保存瓶かな。

 煮沸した保存瓶に入れて、飲む時はこれを少しだけコップに入れて、炭酸水で割って……どれくらいの割合にするかも好みが分かれるとこだね。

 まぁ見てもらった通り砂糖がたっぷり入っているから飲み過ぎには注意で……だけども栄養豊富だから、夏場は毎日飲んでも良いくらいかもね」


 そう言いながら保存瓶を用意し、中に入れて……コップを三つ用意して、コップにも少しだけシソジュースを入れる。


 保存瓶を冷蔵庫にしまうついでに冷やしていた炭酸水を取り出し……コップに注ぎ込み、炭酸が抜けないようにそっとかき混ぜたら完成、爽やかな赤さを放つジュースとなる。


 あまり行儀の良いことではないのだけど、ジュースのためだけに居間に行くというのもアレなので、完成次第コン君達にコップを渡し……コン君は受け取りながら椅子に座り直し、さよりちゃんはクンクンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでから口をつけて、ごくりとシソジュースを飲み込む。


 それに続いて俺もぐいと飲んで……うん、ちょうど良い甘さとすっぱさになってくれたようだ。


 まず甘さがあって、じわっと酸っぱさがやってきて、炭酸の泡が弾けることで一気にシソと大葉の香りが広がって……何度も飲んでいるとレモンとハチミツの香りもしっかり出てきて、それがたまらない美味しさに繋がって。


「おぉー……不思議な感じだけど結構美味しー」


「凄く美味しいって訳じゃないですけど、美味しいですねー……体に良いなら毎日でもいけちゃうかも」


 香りに敏感なコン君とさよりちゃんも楽しんでくれているようで……うん、良い出来になったようだ。


「テチさんが帰ってきたら、また皆で一緒に飲もうか。

 今日だけは特別に二杯で、明日からは一日一杯……たくさん運動したら二杯まではOKにしようかな」


 二人の反応を楽しみながらそう言うと、二人はうんうんと頷いてくれて……それからゆっくりと三人でシソジュースの香りを楽しむのだった。

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