第248話 確認とかジュースとか


 サンマを存分なまでに堪能し、これからやってくるだろう旬が楽しみだなんてことを皆と話し……それから歯磨きと片付けとテチさんの見送りを終えたなら倉庫へと向かう。


 倉庫に向かったならいつものように棚に並ぶ各種保存食の状態を確認していき……そして最後に梅干しの瓶の確認をしていく。


 前回仕上げた時点で梅干しは完成していたと言って良い、言って良いのだけども時間を置けば味が落ち着き、馴染んで美味しくなるのも事実で……これまで定期的に、大体2・3日置きに状態を確認していた。


状態だけでなく味の方もご飯のお供に出すことにより確認していて……どれもこれも問題なく仕上がっている。


 ハチミツ味も問題なし、平栗を入れたものも問題なしで……保存瓶の蓋を開けて匂いを確認してみると、強烈な梅干しの匂いの中に栗の実の香りがしっかりと紛れ込んでいる。


「にーちゃんにーちゃん! クリのやつ、美味しく出来たかな!」


 確認を続けていると、空の棚によじ登って確認作業の様子を覗き込んでいたコン君がそんな声をかけてきて、俺は持ってきた箸で平栗梅干しを取り出し、これまた持ってきておいた小皿に乗せて、棚の上のコン君と足元のさよりちゃんへとそれを差し出す。


 二人はこれまでに普通に漬け込んだ梅干しの方は食べていたのだけど、平栗梅干しの方はまだ味見をしておらず……小皿に鼻を向けてすんすんと鳴らした二人は、平栗梅干しをそっとつまみ上げて口に運び……酸っぱさに口をすぼめながらも、モグモグモグと口を動かしてその味を堪能する。


 それに続いて俺も自分の口へと平栗梅干しを運ぶと、思わず声を上げそうになる梅干しの酸っぱさと香りが口の中に広がる中、ふんわりとした栗の実の風味と軽い甘みもわずかにだけど感じられて……そして俺は「ふぅむ」と唸り声を上げる。


 不味いものではない、今日まで何度も味を調整してきたし、決して悪くない仕上がりになっている。


 だけども美味しいものでもない、ハチミツを使ったものの方が香りも甘さも感じられるし、時たま粉っぽさも出てしまっていて……どうしても平栗をまぶしただけの梅干し感が残ってしまっている。


 煮込んだりしたらまた違ったのだろうか? それともいっそ食べる前に平栗を振りかけるようにした方が良かったのだろうか?


 どこかの地域では梅干しに砂糖をかけて食べるなんてこともしていたはずで……そういう手もあったかなぁと、そんな事を考えていると、コン君とさよりちゃんが目を煌めかせながら、無言の言葉をこちらに投げかけてくる。


 美味しかった、もっと食べたい。


 口の中で梅干しの種を舐めながら二人はそんなことを言いたげにしていて……その表情があまりにも良いものだったから、俺は更に深く考え込む。


 リス獣人だからそう感じたのだろうか? それとも曾祖父ちゃんが残した平栗だからそう感じたのだろうか? あるいは自分達が作るのを手伝ったからそう感じたのだろうか? その全てを理由にそう感じたのだろうか?


 そこら辺のことを考えて考えて……もっと美味しくなるにはどうしたら良いのかも考えて、来年は色々試してみるかと、そんなことまで考えていると、コン君達が俺の服やズボンを引っ張って、二個目をちょうだい? とでも言いたげな視線をこちらに送ってくる。


「駄目だよ、駄目駄目!

 梅干しは塩分が物凄いからね、1日1個まで……!

スーパーとかで売っている減塩のとかなら良いかもしれないけど、うちのは保存性重視のがっつり塩分だからねぇ……二人は体がちっちゃかったりもするんだから気をつけないと!」


 俺がそう言うとコン君達はこれでもかってくらいに表情を変えて、心底から残念だとその顔で表現し、そうしてから言葉を返してくる。


「えー、どうしても駄目なの?」

「う……わ、分かりました、残念ですけど我慢します……」

 

「凄く運動をして、たっぷり汗をかいたなら2個目を食べて良い時もあるけど、

 梅干しはついつい食べたくなっちゃうっていうか、クセになる味だけども、本当に気をつけないと駄目だよ!

 コン君もさよりちゃんも良い子だから大丈夫だと思うけど、本当に気をつけてね?」


 俺がそう言うと二人はこくりと頷いてくれて……俺は瓶の蓋をしっかりと締めて箸を置いてから、まずはコン君の頭を、それからさよりちゃんの頭をよしよしと撫でてあげる。


 すると二人は笑みを見せてくれて……そんな二人と一緒に片付けをし、倉庫の清掃を簡単に行い、そうしながら何かお詫びになるようなものでも作ろうかな、なんてことを考える。


 梅ジャムを使った料理とか、梅風味の何か……塩分控えめの何か……梅じゃなくてもシソを使ったのでも良いかもしれないなぁと、そこまで考えたところである名前が頭の中に浮かんできて、思わずそれを言葉にする。


「シソジュースがあったなぁ……今年は一度も飲んでないし、そろそろ飲んでも良いかもなぁ」


 すると掃除をしていた二人がその手を止めて、目を見開きながらこちらを見つめてくる。


 なにそれ、美味しいの?

 

 と、そんなことを言いたげな二人の目に負けた俺は掃除を進めながら二人に向けてシソジュースについての説明を始める。


「シソジュースはまぁ、名前そのままのジュースだね。

 シソを煮詰めて砂糖を入れて、冷ましたら完成で……シソだけじゃなく大葉とかを入れて風味づけしたり、色を良くするためにクエン酸を入れたりもするもので、それを炭酸水で割って飲むとすっぱ甘くて美味しいんだよ。

 栄養もあるとかで、夏バテ予防に良いなんてことがよく言われているね。

 ああ、あとはレモン汁とハチミツを入れて風味づけしたりもするね」


 すると二人は以前に飲んだレモネードの味でも思い出したのか、ごくりと喉を鳴らす。


 シソジュースはクセがあるというか、好みの分かれる味で、必ずしも子供受けが良いものではないのだけど、それでも二人は期待に胸を膨らませていて……俺はささっと掃除を終わらせて、うんと頷く。


 作ること自体はとても簡単で、冷蔵庫にさえ入れておけば保存が効くもので……栄養豊富な点を考えると今のテチさんにもオススメのジュースで……。


 それなら作ってみるのも悪くないかと、もう一度頷いたなら掃除道具を片付けて……早速作ってみるかと、期待感がそうさせるのか俺の周囲を駆け回るコン君達と一緒に台所へと足を向けるのだった。


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