第247話 試作サンマ料理


 翌日。


 朝食を終えたならコン君とさよりちゃんとスーパーへと向かい……秋が近付いてきたからか出回り始めた秋の食品のいくつかを買い込んでおく。


 ついでに栗ご飯を食べる日のおかず分の注文書も渡し、配達をお願いして……それが終わったなら真っ直ぐに家に帰り、買った食材を使っての試作品作りに着手する。


「あの時はサンマの塩焼きーとか、簡単な料理の名前を上げちゃったけど、どうせなら手の込んだ料理を作りたいから今日はその練習って訳だね」


 買った食材を冷蔵庫に入れ、使うものだけを流し台に出し、それから道具の準備をしながらそんなことを言うと、コン君とさよりちゃんが素早くいつもの椅子へと着席する。


「おー! 今日はサンマだ、サンマ! ……サンマって塩焼き以外に食べ方あるの?」


「ありますよ、ほら、蒲焼とか」


 着席するなりコン君とさよりちゃんがそう言ってきて、俺はそれに笑いながらサンマの下ごしらえを始める。


「サンマは鱗がないと思われがちだけと実はあって……漁の時にほとんど剥がれちゃうんだってさ。

 でも残っていることがあるから包丁でしっかり皮全体を撫でてやって、ついでにヌメリもとってやると良いね。

 鱗もヌメリも臭さの元だからしっかりと……それが終わったら水で軽く洗って、キッチンペーパーで水分を取って……それから頭と内臓を取ってしまおう」


 そう言いながら作業をしていると、コン君が首を傾げながら言葉を返してくる。


「あれ? サンマって内蔵まで食べるものなんでしょ? 取っちゃって良いの?」


「うん、塩焼きの時はそうなんだけどね、今回は違う料理をするから取っちゃうかな」


 と、そんなことを言いながらサンマの首の辺りに包丁を入れて……骨を切ってしまわないように気をつけながら切れ目を入れておく。

 

 切れ目を入れたならお腹の穴の上辺りに横一文字の切れ目を入れて……そうしたなら右手で頭をしっかりと掴み、左手で胴体を掴み……ゆっくりと力を込めながら頭を引っ張って骨と内蔵をすっと引き抜く。


「え、あ、するっと抜けた!?」


 直後響くコン君の声、目を丸くしながら唖然としていて……さよりちゃんも目を丸くしながら両手で口を押さえて驚きを表現している。


「サンマって他の魚と少し違う内蔵の作りをしていて、そのおかげで美味しく食べられたりするんだけど、その作りの関係でこんな風に引き抜けるんだよね。

上手く引き抜けなかったとしても最終的にはお腹を開いて洗うから、その時に内蔵をかきだしたらOKで……こうやると煮込み料理とか焼き料理とか揚げ料理とかで、簡単で美味しい素敵な食材として使えるんだ。

 という訳で今日は、これらを使って美味しく仕上げてみよう」


 と、そんなことを言いながら十尾程のサンマを処理したら、大葉とニンニクを用意し……大葉は洗って小さく切り、ニンニクは輪切りにし……骨なし状態となったサンマの腹を切って開いて洗ってから、ちょうど良い大きさ……3分の1くらいに切り分けて、開いた腹に大葉とにんにくを挟み込んでいく。


「こんな風にしなくても、例えばサンマを三枚に下ろしてそれをぐるりと巻いて、ロールケーキみたいにしてその中に挟み込んでも良いし、サンマの身と身で挟み焼きにしても良いし、方法は様々だね。

 大事なのは大葉とニンニクとサンマの相性が最高だってことで……好みでチーズを足しても良いかもしれないね。

 ただまぁ……チーズまで入れちゃうとサンマの味が負けちゃうかなーと思わないでもないかな」

 

「チーズ……! チーズも美味しいそう! にーちゃん、チーズ入りも作って!!」


 挟み込みながらの俺の言葉に食いついたコン君が前のめりにそう言ってきて……俺は苦笑しながら手を洗ってから冷凍庫を開き、刻みチーズを取り出して全部ではなく三尾分のサンマの中に挟んでいく。


「挟み終えたら表面に塩を軽く振って、それから中火でじっくりゆっくり焼き上げていく感じかな。

 チーズを挟む場合はチーズ味ってことで塩は無しにして……あえて塩を振らずに焼き上がってから醤油、ポン酢でさっぱりっていうのも悪くないね。

 大葉やニンニクを醤油かめんつゆに漬け込んでおいて、そっちで味をつけるっていうのも良いかもしれないなぁ」


 なんてことを言いながら塩を振り、フライパンを用意して油を厚めに敷いて……それからゆっくりとサンマを焼き上げていく。


 サンマ独特の香ばしい匂いと脂の匂いが立ち上がって……それに続いて大葉やニンニクの匂いもふわりと顔ってきて、コン君のお腹が盛大にぎゅるるるると唸り声を上げる。


 その音に苦笑しながらご飯が炊きあがっているかの確認をし、マイタケを茹でて野菜に和えてのサラダ作りとカボチャの味噌汁も作っていき……その作業の合間合間にサンマの焼き上がりを確認したり、裏返しにしたりとし……試作品兼昼食を作り上げる。


 そうしたならコン達と一緒に配膳をし、そうこうするうちにテチさんが帰ってきて、皆で一緒の昼食となる。


『いただきます!』


 待ちきれない様子のコン君達とそう声を上げたなら、箸を伸ばし……そして俺がサラダをゆっくりと食べる中、コン君達とテチさんが山盛りとなったサンマの大葉ニンニク挟み焼きへと箸を伸ばす。


 それに釣られて俺も箸を伸ばし、口の中へと放り込み、サンマ独特の香ばしさと旨味と、大葉とニンニクの香りを堪能する中……コン君達は無言で次々に挟み焼きを食べあげていく。


 大葉とニンニクが食欲を誘うのもあるけど、骨なしだからかとても食べやすく、それでいて塩焼きだけでも美味しいサンマがより美味しくなっているのだから、箸が止まらないのも納得だ。


 チーズも当然美味しく、ちょうど良い塩梅の塩味がサンマの強い旨味とのたまらない組み合わせとなっている。


 こうなるともうサラダも味噌汁もただのオマケで、コン君達はただただサンマとご飯だけを食べ続けるループへとハマっていく。


「うぅん、こんなに味が強いと栗ご飯の相棒としてはどうなんだろう。

 栗ご飯とぶつかり合ったりしないかな?」


 白米ご飯との相性は良いけども、甘く香りの強い栗ご飯との相性はどうなのか、そんな俺の問いに対してコン君とさよりちゃんは、手元の茶碗に向けていた顔をガバッと上げて俺の方をまっすぐに見て……限界いっぱいに膨らませた頬をもぐもぐもぐと動かしながら、無言で何かを訴えかけてくる。


 だけどもコン君達の表情は完全に食欲に支配されていて、何を伝えようとしているのかが今ひとつ分からず、俺が首を傾げていると代理ということなのかテチさんが口を開く。


「多少ぶつかり合ったとしてもこの味なら問題ないだろう。

 久しぶりのサンマをこんなに美味しく味わえるなら文句もないし、富保の栗ご飯ならこれにさえ勝つかもしれないし……このままやってくれと、そういうことなんだろうさ。

 ……うん、カボチャの味噌汁も甘くて子供達好みだろうな」


 その言葉を受けて俺が「分かったよ」と言いながら頷くと、満足したのかコン君とさよりちゃんは笑顔をこれでもかと輝かせ……それからすぐにサンマへと視線を向けて、次の一切れを口に運ぶべく、箸を伸ばすのだった。

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