第239話 驚愕の……
産婆さんやテチさんのご両親の分のカレーも用意して……来客用の折りたたみテーブルを出してそれに配膳して。
飲み物は麦茶、牛乳、飲むヨーグルトの中から好きなものを選んでもらい……そうして皆が揃ったなら「いただきます!」と皆で一斉にスプーンを手に取る。
皆が真っ先に口の中に運んだのはゴロゴロ豚バラ肉で、コン君とさよりちゃんはその頬を大きく膨らませながら豚バラ肉を……揚げ焼いたおかげで外側の歯ごたえはよく、内側は柔らかジューシーとなっている肉塊を良く噛み……噛んだならバジルライスを口に運び、追加のカレーを口に運び……その目を見開き、キラキラと輝かせながら口を動かし続ける。
そんな中、食べやすいようにと特別に具材を小さく切ったカレーを食べていた産婆さんが、カレー皿の中から小さなバラ肉をすくい上げ……それをじっと見やりながら問いを投げかけてくる。
「私のは年齢を気遣ってか小さいみたいですけど……他の子達のお肉やお野菜があんなにも大きのはどうしてなんですか?」
それを受けて俺は口の中のものをよく噛んだ上で飲み下し、牛乳を一口飲んでから言葉を返す。
「一番の理由は満足感が大きいから、ですかね? 大きいお肉や具材は喜ばれますから……俺も子供の頃から大好きですし。
あとはよく噛んで肉と具材と……カレーの美味しさを楽しんで欲しいっていうのもあります。
噛みごたえがあって食感が良い揚げ焼き豚バラ肉をよく噛んでいると、肉とカレーの中に溶け込んだ旨味とスパイスの風味がしっかり出てきて……もちろんご飯の甘みと旨味も出てきてくれて。
カレーは飲み物だなんてことを言う人もいますけど、カレーの本当の美味しさを楽しもうとおもったらよく噛むのが一番だと俺は思うんですよ。
カレー用のお肉じゃなくて、食べごたえのある豚バラ肉を選んでいるのもそこら辺が理由ですね」
「なるほどねぇ……あんなに入れたのにセロリ臭さもないし、こういうカレーもあるんですねぇ」
そう言って産婆さんは小さな具材をそれでもよく噛んで食べ始め……コン君もさよりちゃんも、ご両親やテチさんももぐもぐとよく噛んで食べてくれる。
妊娠すると香りがきついものが苦手になるとか、好みが変わるとか色々あるようだけど、このカレーは問題なく食べられているようで……お米の香りも問題ないようだ。
すっぱいものが好きになるなんて話もあるからと、ラッキョウなんかも用意したのだけど、そちらには一切タッチせず、ただただ山盛りのカレーライスを食べていて……まぁ、うん、好きなものを好きなように食べるのが一番なんだろうなぁと、放っておくことにする。
そんな事を考えながらスプーンを動かして食べ進んでいると、まずコン君とさよりちゃんが食べ終えて……すぐにテチさん達が食べ終えて、そして産婆さん以外のほぼ全員が立ち上がり、自主的に台所へと向かい……山盛りのおかわりを盛り付けて戻ってくる。
おかわりはセルフサービスですと事前に言っておいたからなんだけども……このペースだと寸胴大鍋にたっぷりと作ったカレーがあっさりと無くなってしまいそうだ。
お客さんもいるからと古い炊飯器も引っ張り出してご飯を炊いておいたのだけど……うん、もしそれでも足りないようなら、パックご飯を食べてもらうことにしよう。
今からご飯を炊いても、間に合わないだろうし、変に待たせることになるだろうし……もう一度炊いたりしたらカレーも、なんてことになってしまいそうだ。
そんなことを考えながらカレーを食べ終えて……よく噛みよく食べ、スパイスで体が温まっていく独特の満足感を味わっていると、同じく食べ終えた産婆さんが声をかけてくる。
「お料理は上手なようですし、安全にも気を使っているようですし。
これならまぁ……あれこれ細かいことを言わなくても平気でしょう。
お腹が大きくなるにつれて色々ありますけど、そこら辺は追々で良いでしょうし……お産の時は私達が大体のことをやりますからご安心くださいな。
あとは……そうですね、獣人は時たま異常とも言える多産になることがありますので、その覚悟をしておいてください。
人間と獣人の結婚はその昔においては当たり前のことだったそうなのですが、最近ではすっかりと無くなり、口伝の言い伝えしか残ってない有様で……異常という事態が起きる可能性は否定できないのです」
「多産、というと……双子や三つ子ということですか? それとも出産意欲がたかまって次から次へと、ということですか?」
俺がそう返すと産婆さんは首を左右に振ってから、すっと片手を上げて手のひらを見せてくる。
手のひらを見せられてもその意味が分からず、何を言おうとしているのかが分からず、首を傾げていると……産婆さんはため息交じりの声を返してくる。
「大体が五つ子か六つ子だと、そういう意味です。
言い伝えを信じるのなら二桁になることもあったそうです。
……まぁ、ここら辺は先程も言いました通り、言い伝えの範囲ですので絶対とは言えませんが……一応の覚悟をしておいてください」
「い、五つ子以上……ですか?
いえ、五つ子はまだ聞いたことがあるので分かりますが、二桁となるとそもそもお腹がその……耐えられないのでは?
出産の際の体力の不安もそうですけど……そこまでの数字になるともう、子供どうこうよりテチさんの生命の心配をする必要がありそうなのですが……」
「……ああ、そうでしたそうでした、人間さんのお子さんはかなりの大きさで生まれてくるんでしたね?
確かに人間さんのお子さんで10人ともなればそうなるでしょうが……コンちゃんを見ていてなんとなく分かるでしょう?
獣人の子供は背丈が小さく、ある程度の年齢になるまでは成長も遅いです、そうなれば当然赤ん坊も小さな姿で生まれてくる訳で……まぁ、5・6人であれば少しお腹が目立つくらいで済むはずですよ。
と言ってもまぁ、1人の場合でも、栄養を独占出来るからか大きく育って、そのくらいにはなるのですけどね」
そう言って産婆さんはジェスチャーでもってこのくらいの大きさになると示してくれて……まさかというかなんというか、そんな予想もしていなかった話を聞いて俺は……驚くやら困惑するやら、暫くの間言葉を失ってしまうのだった。
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