第237話 検査のあれこれ


 テチさんの検査を政府の方で用意した研究者や医者が担当してくれることが決まって……数日後。


 花応院さんからメールでいくつかの画像ファイルが届き、それらをスマホで開いてみると……どうやら検査に関わる人達の詳細情報をまとめたものであるようだ。


 履歴書のような感じで名前や住所、経歴や資格の情報まで書かれていて……その人数は20人程。


 そんな大勢でやってくるのかと思いきや、改めてメールの文面を確認してみると、この中から良いと思った人を4・5人選んでくれとそんなことが書かれていて……どうやらこちらに人選の権利があるらしい。


 検査の内容によってはデリケートな部分に入り込むこともある訳で、そういった部分を見られても良いと思う人を選ぶ権利がテチさんにはあるようで……それらの画像をパソコンへと転送したなら、プリンターで印刷し……今日も今日とて庭での鍛錬をしているテチさんの下へと持っていく。


 簡単な説明をしてからそれらを手渡し……老若男女、様々な経歴を持つ20人の中からどんな人を選ぶのかなとか、選び出すまで1日か2日はかかるかなと、そんなことを考えながら家事に戻ろうとしていると……テチさんは悩むことなくあっさりと決めたらしく、5枚の紙を抜き出して、こちらに手渡してくる。


「え? こんなにあっさりと決めて良いの?」


 それを受け取りながら俺がそう声をかけると、テチさんは残りの紙束を縁側に置きながら言葉を返してくる。


「女性で、経験豊富そうな年齢、それでいて人相がまともなのを選ぶとなると、この5人しかいないだろう?

 ……流石に男にあれこれ見られるのは嫌だしなぁ」


 そう言われて紙束をチェックしてみると……大半は女性なのだけども男性が何人かいて、そして女性の半分程が若い人で……残る半分の中から人相の良さそうな人を選んだと、そういうことのようだ。


 確かに選ばれた5人は柔和な微笑みを浮かべていて……性格が顔に出ているというかなんというか、とても温和そうな人相をしている。


 経歴などは……まぁ、改めてチェックするまでもなく、花応院さんが選び出しただけあって、全く問題の無い立派なもので……そう考えると確かに年齢や性別、人相といった部分だけで選んでも問題は無いのだろう。


「じゃぁこの人達ってことでお願いしておく―――」


 そんな風に紙束の確認を終えた俺がそう言おうとすると、テチさんの鍛錬を手伝っていたコン君とさよりちゃんがテテテッと駆けてきて……俺が持っていた5人の紙束へと飛びつき、ほとんど奪うような形で紙束を手にしたコン君とさよりちゃんによる最終確認が始まる。


 縁側に紙束を広げ、まずは写真をじぃっと見つめて、次に経歴や資格の部分を……まだまだ読めない漢字も多いだろうにしっかりと見つめて……数日前にテチさんを守るんだと固い決意を誓ったからか、その確認には余念が無い。


 そうしてテチさんの数倍の時間をかけての確認をしたコン君達は……無事に最終確認を通り抜けたらしい5人の紙を鼻息荒く持ち上げ、こちらへと差し出してくる。


「ありがとう、確認お疲れ様」


 紙束を受け取りながら、そう声をかけるとコン君達は嬉しそうにぎゅっと両目をつぶっての笑顔を見せてきて……それからまた三人での鍛錬を再開させる。


 テチさんを守るため、お世話をするため、側を離れず、協力し合いながらゆっくりじっくりと体を動かし……爽やかな汗を流し。


 コンさん達の実家の方で流行っているという吐き下しの風邪は、そこまで重症化するものではなかったようで、子供も大人も皆元気に回復しているらしい。


 感染の方も落ち着いているとかで、もう2・3日もすればコン君達を帰しても問題無くなりそうなのだが……この様子だと、テチさんを守るためにって帰りたがらないかもしれないな。


 というか、レイさんを始め、お義父さんやお義母さんに親戚の皆さん、テチさんの友人とかも様子を見るため、世話をするためにこちらに来たがっていて……出産までの間、賑やかなことになりそうだ。


 そうやって助けに来てくれることはありがたくて、俺には出来ないサポートとかもお義母さんなら問題なくしてくれるはずで……今からお客さん用の布団とか食器とか、多めに用意しておいた方が良いかもなと、そんな事を考えながら花応院さんに返事のメールを送る。


 すると端末を手に待ち構えていたのかというくらいの速さで返事がきて……準備やら予防接種やら何やらで大体一ヶ月後に到着するとの、日程表のようなものが届く。


 更には検査、研究用に改造されるらしい巨大な献血バスのような車両の画像までが添付されていて……それに関しても一ヶ月後までにはなんとかする……そうだ。


 簡単なテントを建てるとか、以前泊まったホテルのような宿泊施設を借りるとか、そういった方法で来るかと思ったら……まさかの献血バス。


 確かにまぁ、政治的ではなく個人的な用事で森の奥まで行くのは問題だろうし、移動とか衛生面とか、そういったことを考えるとこれ以上ない手なんだろうけども……まさかこう来るとはなぁ。


 かなり大きいバスのようだし、一ヶ月の間に駐車スペースの用意なんかもしておいた方が良いかもしれない。


 これだけの大きさのバスを駐車出来る広さとなると、うちの庭の範囲を超えてしまいそうだから……町内会長さん達に相談した方が良いかもしれないな。


 なんてことを考えているとまた花応院さんから追記とのタイトルのメールがきて……中身を確認してみるとバスは門の近く、自衛隊が確保している土地に停めることになるとそんな文言が書かれている。


 そこから送迎車を出し、検査のたびにバスまでテチさんに行ってもらう形になるそうで……駐車スペースの確保などは必要無いそうだ。


 ……まるで心を読まれているかのようなタイミングのメールに少しドキリとするが、まぁ若造の俺が考えることはお見通しなのだろう。


 大臣を務めたこともあるくらいの人なのだから、そのくらいのことはやってきそうで……うん、検査に関わることは全て、花応院さんの指示を待つ形にした方が良さそうだ。


 こちらの判断で余計なことをしても足を引っ張ることにしかならなさそうで……そんな内容をふんわりと返事のメールで伝えると、花応院さんは、


『万事負担の無いように差配いたしますので、おまかせください』


 と、そんな返事をよこしてくるのだった。

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