第233話 突然の


「そういえばにーちゃん、おかゆも嫌いじゃないんだけど、おかゆ以外に消化の良い食べ物ってないの?

 風邪の時、食べられるのがおかゆばっかりじゃ飽きちゃいそう」


 夕食を終えて歯磨きや片付けを終えて……お腹をぷっくりと膨らませたコン君が、座布団の上にちょこんと座りながら、そんなことを言ってくる。


「んー……おかゆ以外となるとやっぱりうどんかな。

 つるつるのうどんじゃなくて、煮込んでくたくたに、柔らかくなったうどんだね。

 どんな具を入れるかはその時の体調に合わせてって感じで……回復し始めの、胃腸が落ち着いた頃ならネギとかお肉とか入れて、栄養取れるようにしても良いかもね。

 夏で暑さがつらい時期なら、大根おろしと梅干しでさっぱり煮込みうどんにしたり、おろしショウガたっぷりの肉うどんとかにしたりも良い。

 他にも卵とじうどんにしても栄養たっぷりだし、卵とじとおろしショウガも相性良いかもねぇ。

 風邪を引き始めのまだ食欲がある時ならトマトと卵とネギとショウガで、美味しく栄養たっぷりのさっぱりうどんにしても良いかもしれないなぁ」


 俺がそう返すとコン君とさよりちゃんは一生懸命にメモを始めて……それを見ながら俺は更に言葉を続ける。


「コン君とさよりちゃんは大人になって結婚して、二人で一緒に暮らすだろうから心配ないかもしれないけど、一人暮らしで立ち上がれない程の高熱で、料理も何も作る気になれないってこともあるかもしれないから、そういう時のために消化の良さそうなレトルトパックとかを買っておいても良いかもね。

 レトルトのおかゆとか、うどんもつよと麺と具をレトルトパックにしてあるのが、少しお高めだけど売っているし……スポーツドリンクとかと合わせて、一定量備蓄しておくと良いかもね。

 体調が悪い時に簡単に楽しめるっていうのもレトルト食品……保存食の利点かな。

 あとは……介護用の高カロリーゼリーとかも悪くないかもね」


 俺がそう言うと黙って話を聞いていたテチさんが「介護用?」とそう言って首を傾げて……それに頷き返した俺は、更に言葉を続ける。


「誤嚥とかを避けるための、食べやすさ重視の介護用高カロリーゼリーっていうのがあるんだよ。

 色々な味があって、栄養豊富で……高熱の時でもゼリーならなんとか食べられたりするからね。

 ペロンと食べられて、少しの食事でしっかりカロリー摂れるっていうのは、病気の時にはかなりありがたいんじゃないかな。

 俺も一人暮らしの時にはこれを何個か買っておくようにしていたねぇ、食欲がなくても、胃腸が辛くてもこれさえ食べればなんとか大丈夫なんだっていう、安心感っていうか……近くに頼れる家族とか親戚、友人がいれば良いんだけど、そうじゃない時には頼りになるよ。

 あとは……あれかな、赤ちゃん用の白せんべい、あれは柔らかくて消化も良いから、胃腸風邪で辛い時とか、回復し始めの時には食べやすくて良いかもね」


 そんな俺の説明を受けてテチさんは「なるほど」なんてことを言いながら頷き……それから、


「そういえば子供の頃、食べていたな白せんべい、柔らかくてほんのり甘くて……。

 大人になってからは見向きもしなかったが……たまにあれを食べるのも良いかもしれないな」


 なんてことを言って遠くを見る。


「ジャムを薄く塗ったりして食べても美味しいし……いざという時のため買い置きしておいても良いかもしれないね。

 そういった食料と……家族がいる場合は過程内中毒を防ぐために、胃腸風邪というか食中毒の主な原因、ノロウィルスとかを退治できる消毒スプレーとかあると良いかもね。

 ちなみに我が家には高カロリーゼリーもスポーツドリンクも、白せんべいも消毒スプレーも……他にもレトルト食品や吸って食べる栄養ゼリーとか、凍らせるスポーツドリンクとかもしっかり備蓄してあるので安心してくださいな」


 そんなテチさんに俺がそう返すと、テチさんもコン君もさよりちゃんまでもが、そりゃそうだよねと、俺ならそうしているよねと、そんな顔でこちらを見てくる。


 そうして皆で一斉にカラカラと笑って……笑ったかと思ったら突然テチさんが立ち上がり、トイレの方へと駆けていく。


 普段トイレに行く時は、無言だけども普通に立ち上がって普通に行くのになぁと、訝しがっていると……すぐにトイレの方から苦しそうな声が聞こえてきて……俺はすぐに立ち上がり、居間の棚に置いてある救急箱へと手を伸ばし、マスクをしハンドタオルと消毒スプレーを手にし、トイレへと向かう。

 

 そんな俺のことをコン君達が追いかけようとしてくるけども、コン君達にも感染したら大事だ、居間で待っていてと、視線と仕草でもって伝えて……トイレのドアを開けたまま、洋式便器に吐いているテチさんの下へと向かい、少しでも楽になるようにと背中をそっとさすってあげる。


「すぐに布団をしくから、しっかり吐いたら横になろうか。

 吐くことは辛いことだし恥ずかしいことだと思うかもしれないけど、我慢するようなものでもないからしっかい吐いてすっきりして……後はとにかく寝ていれば治るよ」


 さすりながらそんなことを言って……後はもうテチさんが落ち着くまで何も言わずに背中をさすり続ける。


 吐いている時、背中をさすってもらえるかもらえないかで、辛さが違うというか、すんなり吐けて、変に苦しまずに済むから……とにかくさすってさすって、そうしながら俺はあれこれと考え込む。

 

 今日の子供達の世話で感染したとして、それで今発症したというのは、流石に早すぎる。


 何日も前から仕事での子供達との接触で感染していたのかなーと、そんなことを考えていると、吐き終えたテチさんが、俺が用意したハンドタオルを受け取り、口の辺りを拭い……そうしてから言葉を返してくる。


「……多分、違う、熱も頭痛も、風邪特有のダルさもないし、子供達の胃腸風邪がうつったんじゃないと思う。

 近くの診療所は子供達の世話で精一杯だから……検査は後回しになるかもしれないな」


 テチさんの言葉に俺は「うん?」なんてことを言いながら首を傾げる。


 首を傾げて……傾げたまま眉をひそめて、一体全体どういうことだろうと頭を悩ませていると、後方から……テチさんのことが心配で、結局ついてきてしまったらしいコン君とさよりちゃんの方から声が上がる。


「風邪じゃないのに吐いたの? 食べ過ぎ?」


「……それってまさか……まぁまぁまぁ!」


 コン君は俺と同じように首を傾げ、さよりちゃんは口元を両手で抑えて嬉しそうにし……そうして俺はあることに思い至り、嬉しいやら驚くやらで腰を抜かし、廊下にぺたんと座り込んでしまうのだった。

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