第228話 ハニーナッツ
ガーリックマヨコーンは安定の美味しさで。
野菜たっぷりお好み焼き風は、和洋折衷というか不思議な味ながら一気に食べてしまう程の美味しさで。
塩辛は普通に食べてもいいけど、薄いパンやクラッカーなんかに乗せてお酒……ワインなんかと一緒に食べても良いかもしれない美味しさで。
そんなピザトーストを食べ終えて、歯磨きを終えて、台所で片付けをしていると、台所のあちこちを器用に移動しながら、台拭きで拭いてくれていた、コン君が「うーんうーん」なんて声を上げて、露骨なまでに悩み始める。
「うーん、うーん、うーーーーん」
更にそう続けてきて……恐らく本人は声が出てしまっていることに気付いていないのだろうけど、それでもそれは声をかけて欲しいと催促しているかのようで……根負けした俺はコン君に声をかける。
「どうかしたの? 何か悩み事?」
するとコン君は、途中だった拭き掃除をパパパッと手早く、それでいて丁寧に終わらせて……いつもの席へと駆けてきて、同じく掃除を中断して駆けてきたさよりちゃんと一緒にちょこんと座り、口を開く。
「えっとね、クーラーとかが簡単で強力で、囲炉裏が大変であんまりで……そういう感じのってあちこちにたくさんあるんだなって考えて……。
で、一番大変な保存食と簡単な保存食ってなんだろって、そんなこと考えてた」
そんなコン君の言葉を受けて俺は、片付けの手を止めて考え込みながら言葉を返す。
「あー……なるほど?
まぁ、保存食にも色々あるからねぇ……簡単に作れるのと、そうでない保存食、か。
……簡単なのはまぁいくつかパパッと出てくるけど、大変というか作るのが難しいとなると……どうだろうなぁ。
手間がかかるって意味では梅干しも中々大変だけど……ただ冷蔵庫を使うとまず失敗しないから簡単と言えば簡単……。
そうなると……俺的には干し肉とかになるのかなぁ。
海外だと簡単に作れるんだけど、日本だと湿気の関係ですぐにカビてしまう……まぁ、これも梅干しと一緒で乾燥機があれば簡単に出来るんだけどもね」
「にーちゃんにとって簡単かどうかは、失敗するかどうかなのかー。
……じゃぁじゃぁ、簡単な保存食ってなに? ジャムとかコンフィとか、結構大変だよね……?
果物を冷凍するやつ?」
「あー……んー、そうだな。
本当に簡単なだけで良いなら美味しさを無視した塩漬けとかなんだけど……でも、それは楽なだけで余程のことが無い限り作ろうとはしないものだからねぇ。
ただ凍らせるってのも芸がないし……楽に作ろうと思えばすごく楽に作れて、ただ楽に作れるだけじゃなくて美味しくて、栄養もいっぱいで、健康にも良いらしくて……つまりはまぁ作る意味がある保存食となると……色々あるんだろうけど、パッと思いつくのはハニーナッツかな」
「ハニーナッツ……ハチミツで甘くした木の実? クルミとか?」
「そうそう、俗に言う無塩ミックスナッツをハチミツで漬けたものだね。
漬ける前に軽く炒めたりとか、シナモンパウダーをちょっと足したりとか、工夫をすることもあるんだけど……そのまま漬けてもOKって感じだね。
ハチミツとナッツの栄養価ってとても良いものらしくて、色々な病気の予防になったり、ダイエットにも良かったり……そんな風に健康に良いとされているんだよね。
まぁ、ハチミツをたっぷり使う訳で……つまりは糖分たっぷりなものだから食べ過ぎれば逆効果になっちゃうんだけども」
「へーへーへーへー! そのまま漬けるだけで良いならオレにも出来そう!
……漬ける前に炒めたりするのはなんで?」
「香ばしさを出すためだね、もちろん炒めれば殺菌効果もあるから、長期保存にも繋がるね。
ミックスナッツって生産国とか値段とかで品質がまちまちで、ものによっては香りも味もいまいちだったりするから、香りが悪い場合は炒めて香りを強めたり、シナモンパウダーで香りを足したり、そういう工夫が必要になるねぇ。
おいしくなーいナッツをそのままハチミツに入れたりすると、想像以上においしくなーいハニーナッツになったりするから……ナッツを買う時点で良いものを買っておくと良いかもしれないなぁ。
ハチミツ自体がお高いものだから、ナッツもケチらず良いものを買って……美味しい上に健康に良いおやつを楽しめたら良いんじゃないかな」
と、そんな会話をしているコン君が椅子に座りながらソワソワとし始める。
すぐにでも立ち上がって、割烹着に着替えてハニーナッツを作りたいと、そんな表情と態度を露骨なまでに示していて……俺は笑顔で頷いて、レモネードの際に使ったハチミツの残りと、市販の無塩ミックスナッツ……それとテチさんが保管してくれていた、曾祖父ちゃんが作ったクルミの準備をする。
無塩ミックスナッツはアーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツが入っているもので……それらを準備しているうちにコン君達が着替えを済ませてきて、それを受けて俺はまずは保存瓶を取り出し、それの煮沸消毒から始める。
鍋に水を入れて瓶を沈めて、コンロの火にかけて……そうしたら今度はフライパンを用意して、こちらも火にかけ熱していく。
「ナッツは炒るだけじゃなくてオーブンで焼くのも良いんだけど……火加減とかが難しいから、やっぱり炒めるのが安定かな。
曾祖父ちゃんのクルミはかなり良い香りで炒める必要はないんだけど……他のを炒めるついでに、保存性のために炒めるとしようか。
そういう訳で香りはかなり強くなるだろうから、シナモンはなしで……はい、コン君、さよりちゃん、菜箸を持って、ここに立って」
フライパンを熱しながらそう言った俺は、コン君とさよりちゃんにコンロ横の、調味料などを置くスペースに、菜箸を持った上で立ってもらって……そうしてからミックスナッツとクルミをフライパンに投入し、コン君とさよりちゃんにそれらを菜箸でもってかき混ぜてもらう。
「ナッツが砕けないようにそっと静かに……それでいて全体をしっかりと、焦げ付かないようにかき混ぜてね」
なんてことを言いながら俺もフライパンを振ってナッツを炒めていって……大体五分ほど炒めて良い香ばしさとなったら、一旦綺麗な皿に盛り付けて粗熱を取る。
そうしてから煮沸を終えた瓶を鍋から取り出し……少し冷ましてから振って水気をよく切って……十分に水気が切れたならナッツを入れて、ナッツ全部を入れ終わったなら、ハチミツの瓶はコン君とさよりちゃんに任せて、保存瓶の中にハチミツを流し込んでもらう。
ナッツ全部がハチミツに沈むまで入れてもらって……ハチミツを入れ終わったなら蓋をしっかり閉じて……完成。
「入れてすぐに食べてもまぁ良いんだけど、4・5日待って味や香りが馴染んでからの方が美味しいかな。
保管は冷暗所で、冷蔵庫に入れても良いんだけど、冷やしすぎるとハチミツが固まっちゃうから、冷暗所が安定かな。
食べ方としてはそのまま、ヨーグルトに乗せたりバニラアイスに乗せたり……トーストに乗せても良いし、砕いてクッキーやケーキに入れたりもするかな」
完成した瓶にラベルを張って、それからコン君達にサインペンを渡すと……コン君達は俺が指示するまでもなく、作成日である今日の日付をラベルに書き始める。
「……日付だけじゃなくて、コン君とさよりちゃんが作ったものってことで、二人の名前を書いちゃっても構わないよ」
そんなコン君達に俺がそう言うと……コン君とさよりちゃんは嬉しそうな……本当に嬉しそうな笑みを浮かべて、そうしてからラベルの隅に、自分達の名前をしっかりと書き込むのだった。
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