第219話 試作


 ゴロゴロ野菜ハンバーグは思った通りの美味しさとなってくれた。


 ゴロゴロなニンジンとジャガイモがホクホクと食感と柔らかな甘さで楽しませてくれて、同じくゴロゴロな玉ねぎもしっかりとした食感と甘さがあって。


 肉ももちろん美味しくて、ソースも美味しくて、これがまた炊きたてご飯とよく合うものだから、箸が止まらずに動く。


 噛めば噛むほどそれぞれの味をしっかりと楽しめて、甘みと旨味をこれでもかと味わうことが出来て。


 箸休めの刻み野菜なんかもたっぷりと用意したのでさよりちゃんの野菜欲を満たしつつ、がっつりと大きなハンバーグでコン君の肉欲も満たしてくれて。


 問題があるとすればランチにしては量が多く、ジャガイモとご飯と肉がどっしりとした腹持ち感を与えてくることだけど……食欲魔人のテチさん、コンくん、さよりちゃんとしてはむしろそちらの方が嬉しい、というか満足してくれているようだ。


 食べ過ぎはあまりよくないのだけど、野菜はたっぷり食物繊維もたっぷり……まぁ、悪くはないはずだ。


 なんてことを考えながら食事を終えて、食後のお茶を飲んで、ゆっくり休んでから歯を磨いて……洗い物を済ませたりして、午後。


 明日の食事会のための準備を進めていた俺は……倉庫の冷蔵庫の中の、山のような材料を眺めながら試作をしたほうが良いだろうか……? なんてことを考え始める。


 焼きイカと蒸しジャガイモ、それと焼きソバに関しては試作するまでも無いのだが、お好み焼きとタコ焼きに関してはなんと言ったら良いのか……はっきり言ってしまうと自信がない。


 何度か作ったこともあるし、自分的には満足しているのだが、本場のものとは比べ物にならないだろうし、それを他人に出して良いものか、なんて思いもある。


 いやまぁ、焼きソバのようにささっと、なんとなく作ってしまっても良いのだろうけど……お好み焼きとタコ焼きに関しては、外の味が食べられると、子供達の期待値が上がってしまっている感じがする。


 テレビなんかで関西の本場のお店の紹介なんかを見かけることはあっても、実際に行くことは出来ない。


 冷凍食品とか、ご両親が家庭料理レベルで作ってくれて食べることはあってもそれは本場の味では無い訳で……そんな中で壁の外で暮らしていた、本場のものを食べたことがあるかもしれない……本場までいかないまでも美味しいものを食べたことがあるかもしれない、俺のお好み焼きやタコ焼きは、きっと特別なものに違いない……的な。


 口には出さないが子供達の目はそんな期待感をこれでもかと表現していて……うん、練習はしっかりしておいた方が良さそうだ。


 タコ焼きに関しては普通に作るつもりで、材料もオーソドックスに、タコは大きめにして、市販のソースとマヨネーズをたっぷり用意してお好みで。


 そしてお好み焼きは自分なりの作り方をするつもりで……とりあえずタコ焼きの返し方の練習と、お好み焼きがしっかり作れるかの確認をしておくべきだろう。


 と、そんなことを決めた瞬間……いつのまに隣に居たのか、テチさんがぬっと手を伸ばしてきて、材料を適量……俺達で食べる分だけを取り出して、足元のコン君達へと手渡す。


 そうしてコン君達が材料を運び始めて……何も言っていないのに、まるでこちらの考えを読んでいるかのように行動しているテチさんに驚いていると、テチさんはそんな驚きすら読んでいたとばかりの微笑みを浮かべてから、家の方へと戻っていく。


 そんなテチさんの後ろ姿を見送った俺は、やれやれ、勝てないなぁとため息を吐き出しながら、冷蔵庫の扉を閉じるのだった。




「はい、という訳でまずはお好み焼きの試作をします。

 タコ焼きの方はただ繰り返しの練習をするだけだし、そちらは後にしよう」


 台所に移動して、手洗いなどを済ませて、それから俺がそう声を上げると、コン君とさよりちゃんはいつもの席に、テチさんは麦茶片手に俺の隣に立って、じぃっと視線を向けてくる。


「と、言っても特に変わったことはしないけどね。

 俺も本場のを食べたことはないし、あれこれ工夫出来るほど慣れている訳でもないから……基本に忠実にやっていこうと思います。

 という訳で、材料はキャベツ、長ネギ、豚バラ肉、揚げ玉、刻み紅生姜の王道で行くよ。

 お好み焼き粉も市販のもの、ソースも市販のもの……分量もお好み焼き粉の袋に書いてあるのを守っていこう。

 それでまぁ、テチさん達が美味しいと言ってくれたならそれでOKかな」


 そんな一同に俺がそう言うと、皆はこくりと頷いてくれて……俺は早速準備をしていく。


 お好み焼き粉は山芋入りのやつで、キャベツは出来るだけ細く刻み、長ネギは少量、豚バラ肉はほぼそのまま、大きすぎる場合はカットで。


「ちなみにお好み焼き粉はお出汁とか色々入っていて味もついている関係で、虫が湧いたりしやすいから、袋を開けたら使い切るか、冷蔵庫で保管して早めに使い切るようにしようね」


 材料の準備が終わったらボウルの中にお好み焼き粉を入れ、水をいれ、溶き卵を入れて……菜箸で軽くかき混ぜて整える。


 とろりとしてきたならキャベツを、これでもかってくらいにどっさりと入れて……生地の中にキャベツを入れるというよりも、キャベツに生地をまぶすくらいの気持ちの分量で入れてしまって、しっかりとキャベツに生地を絡めていく。


 それから長ネギも入れて、またかき混ぜて……と、しているとコン君が声をかけてくる。


「にーちゃん、キャベツ多すぎない?」


「うん、多すぎるように見えるけど、俺が作るお好み焼きはいつもこうかな。

 こうやってみると多すぎてしっかりお好み焼きになるのか不安になるビジュアルだけど、なんだかんだ焼けば膨らむからね、ちゃんとお好み焼きになるんだよ。

 それとたくさんのキャベツを入れた上で焼くとね、焼いている間にキャベツの水分が蒸発して、どんどん生地の中で蒸発して……それが内側から生地をふんわりと膨らませてくれるんだよ。

 パンの発酵とかと同じ感じかな? キャベツの水分が多ければ多い程、ふんわりと柔らかくなる……と、俺は思っているね。

 だからもう、この段階で俺は豚肉も紅生姜も揚げ玉も入れちゃうんだ」


 そうコン君に返した俺は、生地の中にそれらの材料を一気にぶち込んでいく。


 普通ならまず生地を焼いて形を整えて、それから豚肉などを乗せて……生地全体をひっくり返すのだけども、それをやると柔らかさが失われる気がして……俺はひっくり返すのも、押し付けたりするのも無しという形で作っている。


 ……友達の中にはそのやり方にあれこれ言うのもいたけれど、まぁお好み焼きなんだし、好きにさせてもらおう。


 という訳で、生地を混ぜ終えたらそれをフライパンに投入し、中火くらいで熱し、そしてすぐにフライパンを蓋にする。


 そうやってキャベツから出てくる水分でもって蒸し焼きにするような形にして……生地が十分に膨らみ、中までしっかり火が通ったなというのが確認出来たら、お皿に盛り付けて、ソース、マヨネーズ、青のり、かつお節を一気にかける。


 かけたなら冷めないうちに、せっかくふわふわになったのが縮まないうちに、テーブルに出して……、


「はい、出来上がり、冷めないうちに食べてね」


 と、声を上げる。


 するとテチさんもコン君もさよりちゃんも、凄まじい速度で自分の箸を取り、小皿を取り、テーブルに飛びついて……そうしてお好み焼きへと箸を伸ばすのだった。

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