第220話 お祭りのような食事会
焼き上がったお好み焼きは、外はパリパリ、中はふんわり、たっぷりキャベツの食感と紅生姜の香りと、豚肉の旨味を堪能出来る出来上がりとなっていた。
そこにソースとマヨネーズが良く合ってくれて、青海苔とカツオ節の風味がたまらなくて……キャベツが多いからかするすると食べられて、腹が重くなるようなことも……無いとは言わないけども、少ない気がする。
そんな自分風に改良したお好み焼きはテチさんやコン君、さよりちゃんにも受け入れられていて……とりあえず獣ヶ森の住人には受け入れてもらえそうだ。
……そういう訳で翌日。
庭にお祭りの屋台で使うような鉄板や、たこ焼き器、ジャガイモ用の蒸し器を並べてのお食事会……というかお祭りもどきが開催されることになった。
お好み焼きに焼きソバ、焼きイカに、タコ焼きに蒸しジャガイモとなると、流石に俺だけで全てを調理するのは無理なので、全体の下拵えだけは俺がやって、実際の調理はテチさん達に手伝ってもらいながら行うことになった。
俺はお好み焼きと焼きイカを担当、テチさんが蒸しジャガイモ担当……そしてレイさんがタコ焼き担当。
昨日のタコ焼き作りの練習で、型から落としたりグチャグチャに崩してしまったりという、失敗を何度かしてしまった俺は、これを楽しみにしてくれている友達に出すのはしのびないなぁと頭を悩ませることになり……そうしてウンウンと唸り声を上げた俺にテチさんがこんなことを言ってきた。
『あるれいにやらせよう、あれのやっているお菓子作りもタコ焼きと似たようなものだろう、どちらも小麦粉だし』
それはなんというか、完全な暴論だったのだけど、いざレイさんに電話してみると、型に入れて焼くお菓子はいくつもあり、小麦粉の扱いに長けているのもその通りで、タコ焼きの返しについても、
『普段からもっと難しい細工をプロとしてやっているオレにそれを言うのかよ?
本職のタコ焼き職人には勝てないだろうが、少なくとも素人の実椋よりはマシなのが作れると思うぜ?』
とのことで……ならばお願いして任せることにしようと、そういうことになったのだった。
鉄板の前に立った俺は、まずはお好み焼きを作り、クローシュによく似た、バーベキューの時などに肉を蒸し焼きにするための半球状の鉄蓋をかぶせて蒸し焼きにし、その間に焼きソバを作ったり、焼きイカを網焼きにしたりし……子供達がお皿を持ってやってきたら、それに好きな料理を盛り付けてあげる。
レイさんは右手で構えた返しを器用に振り回し、タコ焼きをどんどんとひっくり返し……左手でソースを塗ったり青海苔をふりかけたりと、両手を同時に全く別の動作をやるという、とんでもない妙技を見せていて……焼き上がったタコ焼きをこれまた器用に素早くタッパーに盛り付けて、それらをテーブルの上にどんどん並べて、子供達に「食べたいやつは好きに持ってけ!」なんて声を上げている。
そんな俺達と違ってテチさんは、静かに……というか、なんとも落ち着いた様子で作業を進めている。
調理のほとんどを蒸し器に任せて、蒸し上がったジャガイモに切れ込みを入れてそこにバターか、イカの塩辛か……あるいはその両方を盛り付けるという、簡単な作業で……ジャガイモが蒸し上がるまで特にやることがないことも、落ち着ける理由なのだろう。
そんな空き時間でテチさんは、庭に並べたテーブルで、口の周りをソースやマヨネーズ、青海苔やカツオ節まみれにしている子供達の世話などをしていて……むしろそちらがメインになっている感じがある。
ジャガバターはまだしも、イカの塩辛の方は子供にはそこまで人気にはならないだろう……なんてことを思っていたのだけど、そんなことはなく普通に子供達にウケていて……庭に集まったリスな子供達は、
「むっはー!」
「うめー!」
「お祭りみたい!」
「いつものお祭りより美味しいよ!」
なんて声を上げながら笑顔を満開にさせて、お好み焼きに焼きソバに、イカ焼きタコ焼き、ジャガバターを物凄い勢いで食べていく。
「……以前の鍋パーティの時は、もうちょっとこう……食欲控えめだったと思うんだけど、今日はまた物凄いなぁ」
調理をしながらそんなことを呟くと、耳聡く聞き取ったらしいレイさんが、大きな声を張り上げてくる。
「そりゃぁ以前はまだまだ、実椋と知り合ったばっかりという遠慮があったんだろう!
だけどもパーティを乗り越えて仲良くなって……もう遠慮は無いって訳だな!
それに今回のメニュー、どれもこれも子供な好きなもんばっかりだからな、そりゃぁ子供達の食欲が爆発するのも当然の話だ!
ソースとマヨネーズのあの味と香りの誘惑に勝てる子供なんてどこを探したっていないだろうよ!」
そんな声を上げながらもレイさんは、華麗に返しとソースポットを操り、どんどんとまん丸で中までしっかり火を通しながらも固くはなっていない、絶妙な焼き加減のタコ焼きを量産していく。
ソースもマヨネーズも、青海苔もカツオ節もとても良い塩梅で、何個でもするすると食べられるような味で……お好み焼きを作りながらそんなレイさんのタコ焼きの味を堪能した俺は、肩に張り付いていたコン君に、
「ありがとう、美味しかったよ」
と、声をかける。
コン君とさよりちゃんはお手伝いをしたいとそう言ってくれたのだけど、二人の手を借りたのは準備と下拵えの段階までだった。
一緒に働いているお友達皆が美味しいご飯を楽しんでいるのに、二人だけ働くなんてそんな残酷なことはないだろうと思っての判断だったのだけど……それでもコン君達の中には手伝いをしたいという思いがあったようで、汗を流しながら調理をしている俺達の為にペットボトルのお茶を持ってきてくれたり、今みたいにわざわざタコ焼きを持ってきてくれて、食べさせてくれたりとしている。
更に他の子供達にもジュースを配ったりお茶を配ったり、手拭いや食器を用意してあげたり……二人なりに仕事を見つけて手伝いをしてくれているようだ。
そうやってお手伝いだけをしているようだと、そんなことをしなくて良いよと、そう言えたのだけど、二人はちょこちょこと休憩をし、休憩をしながら料理を美味しそうに食べてもいて……ちゃんと食事会を楽しんでいるので、そんなコン君達に何かを言うのもちょっとなぁ……と言う感じだ。
そんなことを言って空気を悪くしたくはないし……二人が好きでそうしていることでもあるので、好きにさせるのが一番なのだろう。
「おーう! 良い香りさせてるじゃねぇか!
金払うからよ、俺達にも食わせてくれよ!」
と、そんなことを考えている折……そんな声を上げた一団がやってくる。
それはタンクトップ姿ではちきれんばかりの筋肉を見せつけてくる、クマ耳を頭に乗せたタケさん達で……タケさん達の肩にはクーラーボックスがあり、ほぼ確実にその中にはビールが入っているのだろう。
今回は子供達の食事会なんだけどなぁと思いつつも、材料は十分にあり、タケさん達には色々と世話にもなっているので無下にも出来ない。
「お酒を飲むなら子供達とは別の席でお願いしますよ」
俺がそうタケさん達に返すと、タケさん達は任せておけとばかりにガッツポーズを見せてきて、それからキャンプ用と思われるテーブルや椅子を、それなりに距離を取った辺りへと設置し始め……そうしてから料理を受け取るべくこちらへとやってくる。
「良い香りが漂ってくるもんだから何事かと思ったら、こいつぁ良いとこに来ちまったようだね……こんなに美味しそうなんじゃもうしょうがない、オイラもお邪魔させてもらおうかな」
更にそんな声が聞こえてきて、そこにはタヌキ夫妻の御衣縫さん達の姿があり……そうして子供達のための食事会は、まさかの盛り上がりを見せ始めるのだった。
――――お知らせです
英語版書籍『So You Want to Live the Slow Life?』の発売まで後3日となりました。
2月28日発売で、電子書籍サイトなので日本でも購入可能となっていますので……英語が読める方、挿絵を見てみたいという方は、ぜひぜひチェックしてみてください!
加筆もあり修正もあり、書き下ろしシーンもあり……WEB版とはまた違ったシーンなどもありますよ!!
そういう訳で次回更新は28日に発売記念SSとなる予定です
本編更新はその後になりますので、ご理解をいただければと思います。
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