第211話 ある子のお願い
肥料やりを終えて、そよそよと風の吹く畑の側の休憩所で体を休めていると、元気に働いていた子供達の一人……コン君でもさよりちゃんでもない、可愛いらしい子がこちらへとやってきて、声をかけてくる。
「ミクラさん、僕達もたまにはミクラさんのご飯食べたいです!」
真っ直ぐにこちらを見て、力強く元気にそう言ってきて……それを受けてこくりと頷いた俺は、休憩所のベンチから手を伸ばしその子の頭をそっと撫でてやりながら言葉を返す。
「そっかそっか……また皆でご飯を食べるのも悪くないかもね。
何か食べたいものとかあるかい?」
するとその子は首を傾げて「うぅーん」と声を上げてから……一言、
「ラーメン?」
と、声を上げる。
「ら、ラーメンか……ラーメンはー……うん、作れなくはないけども、美味しいラーメンとなると難しいかもなぁ。
市販の袋麺とかなら簡単だけど、それだと味気ないし……かといってお店で出てくるようなレベルはまず無理だし……。
んんー……俺なりに作ってみるのもありだけど……それならまだ夏らしく素麺とか、ザルソバとか……焼きソバとかの方が美味しく出来るかもなぁ」
そう俺が返すとその子は目をキラキラと輝かせ始めて……ぐっと両手を握り込んでからぶんぶんと上下に振り回す。
「焼きソバ! 食べたいです!
あとあと、お好み焼きとか、たこ焼きとか、イカを焼いたのとか!!」
振り回しながらテンションを上げて、そんな声を上げてきて……突然のことに少しだけ驚きながら俺は言葉を返す。
「な、なんだかお祭りの屋台みたいなラインナップだね。
そこら辺ならまぁ、俺でも皆の分も作れる……かなぁ。
ただお好み焼きとかたこ焼きは家庭レベルのものしか作れないよ? そこまで本気で作ったことないし……本場のも食べたことはないし、実家でもたまーに食べる程度だったからねぇ」
「はい! お願いします! 食べたいです!
皆でワイワイそういうの食べたいです!」
「す、すごく食いつくね……別にここら辺でも食べられるもの、だろうし、お祭りの屋台とかも普通にある……んだよね?」
その子の食いつき方が凄くて、目がこれでもかと輝いていて、そのあまりの凄まじさに気圧されながら俺がそんな疑問の声を上げると、同じくベンチで休憩していたテチさんがこくりと頷き、声を上げる。
「この時期になれば普通に祭りもやるし、屋台も出る。
今実椋が上げたような屋台も普通に出るし……私もそこら辺はよく屋台で食べているな」
「だ、だよね。
材料的にも製法的にもそこまで難しいものじゃないもんね?
……しかしそうすると……なんでまたそんなになってまで食べたくなっちゃったのかな?」
テチさんの言葉を受けて頷いた俺が、その子に向き直ってからそう問いかけると……その子は両手をぶんぶん振り回しながら答えを返してくる。
「だって皆で一緒に食べるの楽しいじゃないですか!
前の時も楽しかったし! また食べたいですし……お祭りも何度やっても楽しいですし、ミクラさんのご飯食べたいです!!」
その答えは本当に心からの声なのだろう。
思いついた言葉をそのままの順番で、思いつくままに吐き出したという感じで、俺はこくりと頷いてから……頭の中でレシピやらを組み立てていく。
「えぇっと……皆の分を作るとしたら、量的にやっぱり鉄板がいるのかな……。
鉄板とそれを加熱する道具と……ちゃんと専用のを用意しないとなぁ。
……ああ、湖畔のキャンプ場でレンタルやっていたから電話してみるかな。
そして焼きソバとお好み焼きとタコ焼きとイカ……。
イカはまぁそのままで良いとして焼きソバか……野菜多めお肉ゴロゴロ、魚粉ふりかけでもかけようかな?
お好み焼きは……まぁ、うん、普通に焼けば良いか。
刻みキャベツ多めにして、お肉はしっかり歯応えがあるのにして、サイコロ状に刻んだお餅とかチーズがあっても面白いかな。
タコ焼きは……タコ大きめにするくらいしか出来ないかな、上手く丸く出来ると良いけど……
あ、タコ焼き用の焼き器も用意しないとだねぇ」
俺もまたその子のように考えたことをそのまま言葉にしていって……そうしてふと気付くと、俺の周囲を囲うように子供達が集合していて、それだけでなく同時に子供達が、
ぐぅ~~~~~~。
と、お腹を鳴らしてくる。
「い、いやいやいやいや、そんな音を鳴らされても、今日今すぐにとかは無理だよ!?
材料はもちろん道具も無いし……」
ぐぅ~~~~~~~。
時間はそろそろお昼、元気に働いたこともあって子供達のお腹はペコペコのようで、美味しそうなご飯の話を聞いてしまったこともあってか、再度の音を鳴らしてくる。
それを受けて苦笑した俺がどうしたものかなぁと考えていると……テチさんが声を上げてくる。
「さっき言ったような屋台飯は無理でも、何か簡単なものを作ってやれば良いじゃないか。
これだけの人数となると大変かもしれないが……そうだな、確か棚に素麺が余っていただろう?
素麺なら茹でるだけだし……なんとかなるんじゃないか?」
「あぁー……素麺かぁ、確かに結構な量があったね。
うちの実家から送られてきたのと、曾祖父ちゃん宛に送られてきたのがいくつかと……。
素麺なら確かに薬味を刻んで茹でてめんつゆを用意するだけだからなんとか……なるかな。
……うん、俺が茹でている間にテチさんに天ぷらでも買って来てもらえば、お昼としては上等かな。
……じゃぁ、皆にもレジャーシート敷いたり、食器を洗ったり手伝ってもらって……そうやって久しぶりのお食事会を楽しむとしようか」
と、俺がそう言うと、俺のことを囲んでいた子供達は一斉に両手を上げて、その鼻と耳をピクピクとさせながら「わあー!!」と元気な声を上げる。
そうしたなら友達と手を取り合ってはしゃいだり、自分の尻尾をぎゅっと抱きしめたり、もう準備を始めるつもりなのか駆け出したりとし……そして皆から少し離れていた所で遠慮でもしていたのか、何もせず何も言わず静かに事の成り行きを見守っていたコン君とさよりちゃんが駆け寄ってくる。
そんな二人の頭を静かに、しっかりと撫でた俺は「二人も手伝ってね」と、そう言ってから膝に手を突いてから立ち上がり……とにもかくにも素麺の準備だと我が家へと向かって歩き出すのだった。
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