第202話 実椋なりの豪華な晩餐

 

 頭の中でレシピを組み立ててレイさんとも相談して……そうして作る料理は、ただただ今の自分が食べたいと思うものにすることにした。


 あれこれと気張ってもしょうがない、結果がどうなるにせよ……自分の舌と、それと皆が美味しいと言ってくれるならそれで良し、キッチンについてもホテルの本格的なものを借りられるとのことだったが、色々面倒そうなので部屋のキッチンで料理することにした。


 そんな中でレイさんに頼んだのは、本職のデザート作りとサラダ作りだ。


 サラダはレタスと玉ねぎ、薄切りラディッシュと細切りピーマンと細切りニンジンと、それと生ハムとナッツとミニトマトのサラダと言う感じになる。


 ナッツは細かく砕いたアーモンドとクルミで、生ハムで塩分は十分なのでドレッシングは気持ち薄めのフレンチドレッシング。


 デザートに関してはレイさんが考えて作るそうなのでノータッチで……レイさんがそこら辺の作業を進める中、俺はスープとメインと副菜作りに着手する。


 スープはレイさんが持ってきてくれた冷凍栗のポタージュにすることにした。

 栗の皮を剥いて水にさらして……その間に玉ねぎをみじん切りにして。


 そうしたら鍋でバターを溶かし、弱火で玉ねぎをじっくり炒め……栗を加えて炒め、水、固形スープの下を入れたなら蓋をして弱火でじっくり煮込む。


 煮込むというか蒸すというか、そんな感じで栗が柔らかくなったなら、火を止めて牛乳を加えて混ぜて……ミキサーで一気に撹拌する。


 撹拌したのを鍋に戻し、火を点け、牛乳を少し加え塩コショウで味を整えたら、栗の風味たっぷり甘味ふんわりの、とろとろポタージュスープの完成だ。


 副菜は……自分が酸味を使うならこうするというのを示したかったので、まずはレイさんが持ってきてくれた、御衣縫さんが作ったらしいらっきょうを細かく刻む。


 潰したゆで卵とマヨネーズを混ぜて、塩コショウを軽く振ってパセリも振って……らっきょうを混ぜたらタルタルソースの完成だ。


 らっきょうは細かすぎないくらいの、ちょっとだけ歯応えを楽しめる大きさにしておいて……酸味と甘味を程よく楽しめるくらいの味付けにしておく。


 そうしたら今度はじゃがいもをよく洗い……とにかくよく洗い、皮を剥かずに輪切りにしていく。


 輪切りにしたらフライパンを用意してバターをじっくり溶かしてから輪切りじゃがいもを並べて……裏返しながらじっくりと火を通していく。


 バターが足りないようなら途中からでも足して、しっかり火が通り、皮がパリパリになってきたなら……お皿に並べてその上にどっさりとタルタルソースを山盛りにする。


 じゃがいもをお皿に見立ててタルタルソースを食べるというか、じゃがいものステーキ気分というか……とにかく容赦なく山盛りにして、これで副菜は完成。


 そしてメインは……まぁ、アイガモのコンフィということになる訳で、その調理はコンフィにした時点でほぼ完成している。


 しっかりと封をした瓶から取り出して、フライパンに乗せて、弱火でじっくり温めて……熱をじんわりと通していく。


 そうやってしっかりと火を通したなら一口分を切り取ってみて味見をしてみて……うん、相変わらずの美味しさだ。


 熟成に関しては……期間が短いのもあってかよく分からない。

 油がよく染みているような気もするけれど……以前のものと食べ比べてみなければ分からない程度の差でもある。


 だけれども美味しいのは確かで、もうこのまま出しても良いのだけど……少しくらい工夫するかと、皮の部分に薄く、そぉっと梅ジャムを塗りたくっていく。


 梅ジャムもかなり味が濃いものなのでうすーく、出来るだけ薄く塗ったなら、フライパンで軽く炒ったブラウンマスタードを散りばめて、パン粉をジャムを塗った部分にふりかけていって……ジャムを繋ぎにするような感じでコンフィの表面をパン粉でコーティングする。


 そうしたならオーブンに入れて、パン粉がきつね色になるまでじんわりと焼いて……焼いたなら副菜と一緒の皿に盛り付けて完成だ。


 サラダ、スープ、メインと副菜が出来上がりとなって……後はデザートだなとレイさんの方を見ると、レイさんは小さな皿にまず白桃のものと思われるジェラートを盛り付けて、その上に生の黄桃の切り身を飾り付け、その上にソース代わりなのか……香りから察するにワインで桃を煮込んだ、桃ワインジャムのようなものをかけていく。


 そうしたなら一番上にミントを飾って完成で……俺に向けてのドヤ顔を決めてから、完成したそれをお盆に乗せてついでにサラダや俺が作った品々を乗せて、部屋の外に出て、完成を待っていたらしいスタッフにそれを渡す。


 渡したなら後はスタッフがそれをシェフ達の下へと持っていって……そこで試食会が行われるそうだ。


 その際の反応とかは正直、そこまで気にならないというか、いちいち見に行ってもしょうがないので、行かないことにしていて……俺とレイさんは引き続き、皆の分を……この部屋で皆と一緒に食べる分を仕上げていく。


 するとキッチンの広く長い流し台の隅にクッションを置いて、そこでこちらをじぃっと見つめていたコン君とさよりちゃんの目がキラキラと輝きだし……そして二人のお腹から「くぅ」と可愛い音が聞こえてくる。


 先程までの料理と全く同じものを作っているのだけど、それが他人のために作っているのか、自分達のために作っているのかで何かが変わってくるようで……二人はそんな風にしながら待ちきれないといった様子を見せつけてきて、俺とレイさんはそんな二人と……リビングからこちらにちらちらと視線を向けているテチさんを待たせないために、手早く料理を仕上げていく。


 材料はさっきの分を用意するついでに洗って切っておいたので準備万端、メインはそもそも調理済み、デザートも後は盛り付けるだけの状態となれば完成はあっという間で……完成したなら早速配膳し、レイさんの分の席も用意して配膳しての夕食タイムとなる。


「いただきます!」


 と、皆でそう言ってから、箸なりスプーンを伸ばし……それぞれ好きなものから好きなものを好きなように口の中に放り込んでいく。


 サラダは生ハムのナッツの相性が予想以上に良くて美味しく、じゃがいものタルタルソースは何枚でも食べたくなる程に上手くいって、スープは個人的には普通に美味しいレベルだったのだけどテチさん達に大好評。


 そしてアイガモのコンフィは、梅ジャムとパン粉が良い具合のアクセントとなって、以前よりもうんと美味しく楽しむことが出来て……そうして夕食の時間が楽しく過ぎていく。


 その中でふと、マネージャーとシェフ達はどうなったんだろうな? なんてことが思い浮かんだりもしたけど……まぁどうでも良いことかとすぐに忘れて、思う存分に皆との夕食を楽しむのだった。

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