第197話 散歩からの……
予想外というか突然というか、そんな再会のあと俺達は、少し散歩でもしてみようかと適当にふらつき、ホテルから少し距離を取った……アスレチックから更に森の奥へと進んだ所にある道路を歩いていた。
真っ直ぐに伸びた道路、両脇にある大きな歩道、それらを覆い囲むような木々に……相変わらず木と一体化している電線や電信柱。
風景としては我が家の側とそう大差はなく、人の姿もぽつりぽつりとある程度で……特に変わったような所はないようだ。
……それでもあえて上げるのなら、我が家の側やホテルの側よりも、体感で分かるくらいに暑いことだろうか。
それなりの標高の山の上の森の中だからか、そこまで暑さを感じない獣ヶ森での日々だった訳だけど、ここではどういう訳かじめじめとした、夏らしい暑さを感じることが出来て……毛皮で体を包んでいるコン君とさよりちゃんが特に暑そうにしている。
「俺が前に住んでいたところよりは全然涼しいんだけど、それでもここら辺は夏って感じがするねぇ。
湿気があって風があんまり吹かなくて……同じ森の中でも結構差があるものなんだねぇ」
木々がまばらになっている、道路の先を見てみれば陽炎が立っていて……そんな光景を見やりながらそんな言葉を口にすると、ぐったりと項垂れたコン君から「そだねー……」という投げやりな言葉が返ってくる。
「……暑いならどこかで涼んでいく?」
そんなコン君達にそう声をかけるとコン君達は、物凄い勢いでブンブンと頭を上下にさせての頷きを見せてきて……俺達は涼しい湖の、ホテルの方へと向かいながらどこか涼める場所はないかと視線を巡らせる。
すると少し進んだ先の森の中にログハウスがあり、ログハウスの入り口に喫茶店と書かれた看板が置かれていて……ホテルからはそれなりに距離があるし、ここはきっとまともなお店なのだろうと、そんなことを考えながらテチさんと頷き合い、店のドアを開けて中へと足を進める。
すると店内は冷房が効いた涼しい空間となっていて……いくつかの木造のテーブルと椅子が並び、壁にはドライフラワーが飾られているという、落ち着いた光景が広がっていた。
喫茶店には珍しくカウンター席は無く……特に珍しい物もな無く、ゴテゴテとした無駄な飾りも無く……とても落ち着くことが出来そうな雰囲気で、そんな店内をゆっくり眺めていると、マスターと思われるエプロン姿の……中年くらいの猫耳の男性が姿を見せる。
「いらっしゃい、お好きな席にどうぞ」
白いシャツに黒いズボン、黒いエプロンに黒猫耳。
髪の毛はオールバックにきっちりと固めて、顔の横にある耳もしっかり露出させていて……清潔感のある姿をしたマスターの言葉に従って店の奥へと進んだ俺達は、窓際のテーブルを選んで席について、メニューを開いて……開いた瞬間、俺の隣に座ったコン君の手が伸びてきて、メニューのある部分を物凄い勢いで指し示す。
かき氷。
メニューにはそう書かれていて、美味しそうな写真が張ってあって……コン君のギラギラとした目がその写真を睨みつけている。
コン君はそれで良いとして、テチさんとさよりちゃんの意見も聞く必要があるなと、二人にメニューを見せると、二人の指と目もまた、かき氷の部分を指し示し……うん、と頷いた俺は、キッチンがあるらしい店の奥へと向かって声を上げる。
「すいませーん、かき氷を4人分くださーい!」
「はーい、果物はイチゴでいいですかー!」
するとすぐにそう返事が返ってきて、俺は改めてメニューを確認し……何種類かのフルーツを選べますとの小さな文字を発見する。
イチゴ、キウイ、オレンジ、スイカ、メロン、レモン、パイナップル、ブルーベリー。
多種多様、ここまでの種類は中々見ないじゃないかなーという程に種類があって、どれも魅力的で。
見本の写真を改めて見てみると、それはどうやらイチゴ味のようで美味しそうなイチゴ果肉がゴロゴロと乗っかっていて……その写真を見た俺達は同時にごくりと喉を鳴らし、
『イチゴで!』
と、異口同音に声を上げる。
「はいはーい、ちょっとお待ち下さいねー!」
するとすぐにそんな返事が聞こえてきて、ゴトンサリサリサリと氷を削る音が聞こえてきて……メニューの他のページを確認したり、改めてイチゴかき氷の写真を確認したりとしながら待っていると……大きなガラスの器に、かき氷用ではなくて、恐らく冷やし中華とかに使うんじゃないかなーという器に山盛りとなったかき氷が、一皿ずつ運ばれてくる。
山盛りのかき氷にとろりとした……恐らくは市販のものではない手作りイチゴシロップがたっぷりとかけられていて、種やら果肉やらがちょこちょこ混ざっているシロップの上に、ゴテゴテっと美味しそうな果肉が乗せられている。
果肉も生のものから凍らせたもの、シロップの中で良い感じに崩れたものと色々あり……飽きさせない工夫がなされている。
もしかするとイチゴの品種もそれぞれ違うのかもしれないなぁと、そんなことを俺が考えているうちに、スプーンを構えたテチさんとコン君とさよりちゃんが、物凄い勢いでかき氷に挑みかかる。
そうして頬を膨らませた三人は、同時に目を輝かせ頬を緩ませ……頬を赤く染めてもっともっととスプーンを動かし始め、それを見た俺は、そんなに美味しいのかと驚きながらスプーンでかき氷の山を崩す。
そうやって氷とシロップとイチゴを同時にすくい上げて口の中に運ぶと、まず甘さと冷たさが強烈に来て、次にイチゴの香りと味が口の中に広がって……ああ、うん、ただただ美味しくて驚いてしまう。
まず氷が美味しいのだろう、恐らくは良い天然水で……更にそこに何らかの工夫を加えているようだ。
ハーブを混ぜているのか、何らかの香り付けをしているのか……その上で甘さ控えめのシロップがなんとも良い味となっている。
果肉も生、フローズン、シロップ漬けと色々あり、それぞれにしっかりとした歯ごたえと味を伝えてきて……うん、量が全然苦にならないというか飽きずに楽しむ事ができる。
普通こんな量の氷を食べたなら、あっさりと飽きてしまって体が冷えてしまって、スプーンが止まってしまうものなのだけど、シロップと果肉の量がちょうど良いのと……それとマスターが気を利かせて冷房を調整してくれたことで、皆問題なくスプーンを動かし続けている。
動かして動かして、どんどん口の中へと運んでいって……そうして俺達は言葉を発することなく夢中で、かき氷を食べ続けるのだった。
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